第四十七話
ミチヤは歩いている。
奴隷は全員自由行動権調査中だ。
で、どこを歩いているのかと言うと……。
「この忙しいときに、竜王がいったいなんの用があるんだろうな」
覇竜城であった。
魔王軍相手に頭脳戦をしなければならないとわかったのだが、まあそれは乗り掛かった船なので、ギリギリ仕方がないと言えなくもない。
しかし、一体なんのようがあるのだろうか。
護衛には関わっていないことになっているはずである。
シュレイオも聞かされていないのだそうだ。
扉をシュレイオが開けて、部屋にはいる。
……うん。豪華ではあるが鬱陶しさはないな。
ソファには竜王が座っている。
黒髪黒目なのか。
隆起した筋肉の鎧を纏っているようだ。
これは……敵にはしたくない。
まあ恐らくならないだろうが。
とにかく、用件を済ませよう。かんがえることがまだたくさんある。
「今日はすまないな。君たちが、魔王軍を相手に頭脳戦をしなければならないことは私も知っている。だが、聞きたいことがあったのだ」
「お聞きしましょう」
「まあ、まずは座るといい」
ミチヤはソファーに座った。
「今日来てもらったのは、竜極神との交信を、我が娘、ミリアが行ったのだが、それに関係している」
ますます訳がわからない。
「聞きたいこと。いや、もっと言えば、私が知りたかったことでもある」
「シュレイオには聞いたのか?」
「一度聞いたことがある」
じゃあなんで人族の俺に相談するのだろうか。別にいいけど。
「それは、私が、今の私以上に、明確なほど強くなる方法だ」
「明確に強くなる方法?」
「そうだ」
竜王が聞く内容か?それ。
「私の判断だが、魔王軍の動きが強くなっている気がするのだ。それに対抗するために、私も今以上に強くならねばならん」
ふむ、まあ納得できないわけではない。
「それに、いざというとき、私の娘が戦場に出なくてはいけない状況にもなるかもしれぬ。それだけは断じて許容できぬのだ」
噂通りの親バカだ。
可愛いものには旅をさせろとはよく言うが、この人は大切に育てる感じらしい。
「今以上にか……」
竜王と言うものがどういう存在なのか、よくわからない。
ただし、竜族の王であると言うことその物が、何かを確定させているのも事実である。
「無いわけではない」
「ほう、どのような方法なのだ?」
「ぶっちゃけて言えば、俺にもできないわけじゃない。が、竜王がすれば恐ろしいことになると言った方が正しいか。ちょっとガードして」
「ふむ」
竜王は右手を出して手のひらをこちらに向けた。
……幻覚かな。山みたいな鋼鉄の壁が見えたよ。
まず、普通に殴る。
「まあ、これが普通だ。で、こうすると」
次の瞬間、ミチヤの右腕がゆがんだ。
腕の表面だけが、再構築されているようにも見える。
そして、色素を失った真っ白なものになる。
ミチヤはそれを竜王の掌に叩きこんだ。
お互いに全く動くことはなかったが、周りに影響は大きかった。
全てが揺れたことが明確に分かるほど衝撃が発生する。
「な、ここまで威力が上昇するとは……」
竜王が驚いている間に、ミチヤはもとに戻した。
「これあんまり好きじゃないんだよなぁ……」
「だが、確かに明確な変化ではあった。何なのかを教えてもらえるといいのだが……」
「まあ、一回見ただけでは普通は分からないか。シュレイオは分かるか?」
「いえ、私にもわからないですね。何かのスキルですか?」
カテゴリー的に言えば間違ってはいない。
「これは『錬金』だよ」
二人とも訳が分からないといった表情だ。
「簡単に言うなら、『自分を素材にする』ってことだ」
「そのようなことが可能なのですね」
「錬金は魔力さえあれば、追加や予備の素材がなくとも、その素材の質を上げることが出来る。腕にやった場合、腕の筋肉、骨、皮膚、それらすべての質が上昇する。竜族は、全種族の中で、細胞レベルですさまじいからな。竜王がやったら……たぶん、歩くだけで地面を削れる」
「強くはなりますがそれはそれで傍迷惑ですね……」
「通常のブレスの威力は知らないが、俺の場合、肺と呼吸器官を強化しておもいっきり吸い込んだり吐きだしたりしたが、すごかったな。モンスターはほぼ全て引き寄せることが出来たし、吐きだしたら結果的に見えなくなった。多分地平線まで飛んだと思う」
沈黙が訪れた。
「まあ、俺は常人とは魔力の量がケタ違いだから、それもあると思うが、まあ、そうなったと言うわけだ」
実際にケタ違いなのは間違いない。
「ですが、簡単ではないでしょう」
「そうだな。まず、自分の腕を素材にするわけだ。ちょっと間違えれば、神経をもろに刺激して激痛が走る。そうなってしまったら、錬金に集中なんてできないから、結果的に錬金はすべて失敗する。思いだしたくないな」
「経験したのですか?」
「うん。痛いとかそう言うレベルの話じゃない。しかも、激痛そのものは腕全体で発生するからな。あまり好きじゃない」
「腕、真っ白になっていたが……」
「そりゃ、生まれたての赤ん坊見たいな色になるのは当然だ。色素っているのはそういうもんだよ」
「では、今色素があるのはなぜです?」
「俺が、今の状態の腕を完璧に認識しているからだ。というか、認識できていなかったら錬金なんてできないしな」
「それもそうだな。しかし、よく生きているな」
「慣れたら反射的にもできるようになる。あまり好きではないのに変わりはないが」
ちなみに、まだデメリットはある。
「ちなみに、やった後は確実に戻した方がいい。魔力にもよるとおもうが、数倍レベルで変わって来るからな。日常レベルで支障が出る。一回一回、豆腐を触るような気持ちで接する必要があるからな。ストレスで白髪になるぞ」
「なるほど。それもそうですね」
「娘に振れるなんて論外な。振れた瞬間細胞レベルで破壊していくぞ。竜王がやると」
「それは勘弁だな……」
ずいぶんと極端な力である。
「まあ、俺が教えられるのはこんなもんだな。あとは自分で練習してくれ」
「練習でも痛いものは痛いのだろう」
「うん」
「うん!?」
しかし、ずいぶんとコメディな竜王だ。
「ま、慣れたらこっちのもんだ。俺は嫌いだが」
「まあ、その部分は後で考えておくとしよう。それにしても、良く思いついたものだな」
「才能がないって言うんなら、才能がある体にしてしまえばいい。その考え方のいい例だ。強さは必要だからな」
「どうしてそこまで求めるのだ?」
「いろいろあるのさ。まあ、魔王に直接挑まれたら一秒で死ねる自信はあるが……」
カルカロスの何倍強いのか知らないが、そんなやつと戦えるかボケ!
というのがミチヤの正直な気持ちである。
「で、他に何か用は?」
「私は特にない。ミチヤ殿はどうだ?」
「俺も得にないな」
「ふむ、そうか」
急に呼ばれたからな。
「それじゃあ。俺はもう行きます」
「うむ。錬金による強化の情報。感謝する」
「責任は一切負いませんのでご了承ください」
「それは情報を与える前に言うべきことなのではないか?」
「俺が考えることではありません」
ミチヤは立ち上がった。
「情報を手に入れたらそちらにも回すとしよう。シュレイオ。城の外まで案内してやれ」
「畏まりました」
シュレイオと共に部屋を出た。
「ミチヤ様。あなたは、あのことをご存じなのですか?」
「ん?竜族が、もともとは普通のモンスターであったという話か」
「そうです。思い返してみれば、あの錬金は、アークヒルズ様が使えば、恐ろしい戦力になることは間違いないはずですが、それにしても、よく考えたものですね」
「竜族がもともとは普通のモンスターであり、その竜の擬人化したものと、竜人族から生まれた子供が、竜族の始まると言われている。まあ、似たような種族はあるらしいが、要するに『矛盾強化』を使えるか使えないかってところだろう」
「そうですね」
「その話が本当なら、竜王であるアークヒルズは、本来、人類にとって最高峰の素材であるドラゴンの素材を見に宿しているようなものだからな。おそらく、竜人族と竜族でも、かなり明確な違いが出るだろう」
「おそらくその通りだと思われます。ただ、本当によかったのですか?あの錬金。隠していれば、後々いいものになっていたと思いますが……」
「それを考えなかったわけではないが、竜王に顔を売っておくのも悪い話じゃないしな。それに、あの錬金を本当に使いこなせるようになったら、本当の意味で、最強の種族は竜族になるだろうし。そうなった場合、竜王にコネがあるというのは大きいからな」
「商人に向いていると言われませんか?」
「まぎれもない商人に言われた」
シュレイオは苦笑していた。
「これからもお互いに頑張りましょう」
「それはそうだが……まあ、書類整理頑張れ」
変な空気が流れていたが……あえて気にしないことにした。




