第四十六話
ミチヤたちはラシェスタにて書類を作っていた。
ただし、あくまでも状況証拠に基づいたものだと言うことを重要視する。
物的証拠をおさえたわけではないのだ。
現段階ではこれが有力だが、まだ行われている可能性もある。
色々気にしなければならない。
ラシェスタの伝書鳩がクロノスのもとに届くまでに1日かかるらしい。
すごく早い気もしないわけではないが。
とにかく、情報を纏めているのである。
「さて、こんなもんか」
「現状ではこうなりますね。ですが、なかなか確信に迫ったものだと思いますよ」
血液型のことを知るか知らないかでかなり変わることだ。
そう思えば、地球で知識も捨てたものではない。
まあもとより、科学的な文明レベルは地球の方が圧倒的に優れているのだが。
「とにかく、これに関しては我々が責任を持って届けます」
「代金はいらないよな」
「無論です。国庫から出てますから」
帝国かな?まあ、ラシェスタの最高権力者はクロノスだからな。
イナーセルが呟く。
「これで、あとは判断を待つ感じか。しかし、いったいどれ程の組織なんだろうな。しかし、世界規模の情報になるぜ?冒険者ギルドのグランドマスターが普通に来そうだな」
その次の瞬間。ミラルドがガバッと扉の方を向いた。
無論、そこには誰もいない。
しかし、ミチヤは飛び出していた。
少々遅かったようだ。ドアを開く前に、何かが走っている音が聞こえる。
ドアを開けると、右から角から誰かが出ていっているところだった。
「待て!」
ミチヤが追いかけ始めたタイミングで、全員が店から出ていた。
追いかけているが、フードを向こうが被っているのでよく分からない。
だが、体つきは女性のようだ。
お互いに速度は同じくらいだが、鬼ごっこは長くは続かなかった。
フルーセと、本来の大きさ(全長十メートル)のルークがフードを被った誰かの先に降り立ったのだ。
一瞬、全員が硬直するが、挟み撃ちはすでに成功している。
「誰だ」
フードは無言だった。
「こちらの方が圧倒的に有利だ。大人しく投降し……!」
全員が愕然とした。
目の前のフードの姿が透けていき、遂には居なくなったのだ。
追いかけようとは全員が考えなかった。
その消え方は、『魔族』が撤退するときと同じだったからだ。
「魔族だったのか……」
テラリアが苦い顔をする。
一先ず、情報屋のところに戻った。
追加報告が必要だからである。
「主はどう思っているのだ?」
タイダロスが聞いてくる。
「まず、さっきのフードを被っていた誰かが魔族であること。これは間違いないな」
「そうだな。あの消え方は、次元結界の限界で発生するものと同じだ」
「あの、すまん。俺、次元結界については詳しく知らないんだけど」
全員が、『そういえばそうだった』みたいな感じになった。
シュレイオが説明しはじめる。
「まず魔族は、魔王であるバスタードの魔力を含んだ、特殊な領域の中でしか継続することが出来ないのです。この領域を、我々は『テリトリー』とよんでいます」
「だから限界があるのか。で、次元結界を使うことで、擬似的に領域を産み出せるってことか」
「そうです。次元結界は、大量の魔力が必要になります。この時、摂理による強制力で魔王本人は魔力を次元結界の使用できませんから、他のものだけで行うことになるのです」
「魔族の進行が遅いのはそういう理由か」
「なお、テリトリーの拡大方法は具体的には分かっていません」
まあとにかく、よほどのことがない限り強い連中は来ないと言うことか。
「次元結界については分かった。次、あの魔族だが、根本的に言えば二種類だな」
「二種類ですか?」
ミーティアにも分からないか。
「1、俺たちが今回の件に関わっていることを知っていて、その偵察にきていたこと。2、普段からあの場所で聞いていて、今回はたまたま分かっただけ。この二つだ。まあ、消去法で言えば1だけど」
理由は一応ある。
「次元結界は莫大な魔力が必要なのだから、無駄遣いはそもそもできない。そして、情報って言うのは重要なものだ。誰か少数しか知らない場合だってかなり多いだろうからな。情報系統の職につく場合、この世界では実力者が選ばれている。大体そんな感じだろ」
「そうですね。竜族では私がほとんど管理していますが」
「天使族でもそうですね。私も外務省に努めていましたから」
ミーティアって外務省出身?え、王族だって聞いてたけど、天使族では王族が外務省運営してんの?すごいな。本当に。
「俺の親父も、情報の扱いには気を付けろって言ってたな。兄貴も結構実力者だけど、オーガ族の情報管理課だし」
「兄弟と親が頭を捻っている間にイナーセルは奴隷になったわけか。親に会わせたらどんな顔するんだろうな」
「それだけは勘弁してくれ」
イナーセルの実家って一体……まあいいけど。
「まあとにかく、軽い気持ちで情報を扱うのは危険だからな。まあ、その辺りの法の整備状況の問題でもあるが、実力者が投入されるのは間違いない」
誰でも武器を自由に持てる世界だからな。
「コマンディアを運営していたのは『魔族』であることはほぼ間違いないが……そもそも運営なんて出来るのか?とんでもない魔力が必要なら、時間はかけることは出来ないし、それならそれで情報も集めにくい」
「いえ、おそらく『定義外存在』でしょう」
「なんだそれ」
「文字通りです。定義から外れた存在であり、次元結界が適用されていなくとも、転移することが可能なのです」
なにその便利設定。
「人数は?」
「多くはないでしょうし、任意に作ることも出来ません。摂理による修正力にかかりますから」
定義から外れることはできても摂理からは逃れられないのか。
「主に、親衛隊の補佐に任命されます」
「カルカロスのところのハーメル、アイツもだな」
ミチヤはゾンビと戦った後に出てきたカルカロスの補佐を思い出した。
なるほど、親衛隊とはいえ、カルカロスが軽い指示をするだけで動かすことが出来るのだから、定義から外れていても不思議ではない。
……と、言うことにしておこう。訳がわからん。
「まあ、投入できても少ないことは間違いない。魔族側の財務省でも絡んでいることになるだろう。俺たちが使っている金を使うことが出来るんだから、余計なことはせずに潜伏することも出来る」
ハーメルを見たとき、確かに鎧は異質なもんを感じたが、彼女本人は、定義外存在であることもあるだろうが、そこまで異質さはなかった。
もし、他の定義外存在に町の中で遭遇した場合、明確な殺意を見せられなければ分からないかもしれない。
「軍資金調達が目的ってことか?」
「おおむねそんな感じだろう。だが、魔族側から派遣できる人数が少ない以上、元々あった『コマンディア』という組織が乗っ取られたか、気づかぬ間に入り込まれた確率が高い。運営が世界規模だから、カリスマにも限界がある。シュレイオは『頂上会議』で司会進行や調節を行えるから、実質世界規模の組織運営も不可能ではないだろう。が、そんな知識人がポンポンいたら夜も眠れん」
「確かに、戦闘力は別にしても、シュレイオみたいなのがたくさんいたら終わる気がするぜ」
「私も考えたくはないですね」
イナーセルとミーティアが頭を抱える。
世界規模の運営が考えれるやつなんぞ、いても一人、出来ればいないくらいがちょうどいいのだ。
「資金調達して、その上で何をする気なのかはしらんが、今までになかったのなら気にするべきだろう。それに、話をまとめると、少なくとも、この商売は四年、長くても五年は続いている。規模が規模だから、これは大きいだろうな」
「いったいこれからどうなるのだ?」
テラリアが聞いてくる。
道也はこう答えた。
「簡潔に言えば、魔王軍と頭脳戦をやらされるはめになるんだよ」




