第四十五話
さて、考えることが多すぎて混乱しているのが現状だが、それでも考えなければならない。
そう、海道たちが暴挙にでるまえに。
そんな状況だが、あれから数日後、ヨシュアから新情報があった。
「この原液だけど、細かく分けると四種類に分類できることが分かった」
「それは、まったく別と言うわけではないんだよな」
「ん。一つのものではある。でも、四つに分類できる」
原液そのものは『カテゴリー』のようなものであり、四種類あるということか。
「あ……」
ミチヤの中では、早くもつながってしまった。
「シュレイオ。この町に資料館か何かあるか?」
「資料ですか。そうですね。覇竜城では私が書類整理担当ですが、私自身は資料を必要としないので、図書館に行くのが得策かと」
「図書館ってあるんだ」
「はい」
「……というか、書類整理って普通、主人がやったりするもんじゃないのか?」
「竜族ではそう言うわけではないというだけの話です」
まあ、どうでもいいことだ。
「ちょっと確認したいことがある。行こうか」
と言うことで、きました。
なかなか広いな。
えーと、生物関係生物関係……。
あった。
「一体何を調べるのですか?生物関係と言うことは分かりましたが……」
ミーティアが聞いて来る。
「まあちょっと気になることがあるだけだ。あと、タイダロス。長居はしないぞ」
「……承知した」
ゼツヤが調べていくと、考えていることが真実だと確信した。
「……全部わかった」
「え?」
イナーセルが唖然とした。
「場所を変えようか」
「私の書斎に行きましょう」
「え、大丈夫なの?」
「問題ないでしょう。アークヒルズ様も、君たちが調べていることは知っていますし」
「それは好都合」
しかし、それだけで書斎に入れるというのもすさまじい話だ。
シュレイオと言う存在そのものが、竜族にとっても竜人族にとっても必要と言うことなのである。
恐るべし。
「ご主人様。ラシェスタの店員は呼ばなくていいの?」
「こっちで話がまとまってからだ」
「わかった」
ということで、移動した。
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「殺風景だな」
ミチヤは開口一番にそう言った。
机があり、隅の方にベッドがあり、他は何もない。
「書斎ですからね。必要なもの以外は何も置かない主義なのです」
「俺達の世界に連れていきたいな。厳密に言えば俺の父さんの作業室に」
何回か父さんの作業室に行ったことがあるが、もの置き場の一歩手前だった。
いや、遊び道具があるわけではない。
整理整頓が辞書にないのだ。
「さて、まず結論から言うと、この原液の素材だが、『血液』だ」
「血液?」
そう、体内を流れる赤い血のことである。
「順に説明していくが、まず、ヨシュアは、四種類あると言ったな」
「うん」
「いろいろと図書館で調べたが、この四種類と言うのは、血液型のことだ」
「血液型?」
ん?アムネシアには血液型と言う言葉は存在しないのか?
「血液型の詳しい説明はまた今度な。重要なのは、この血液型には、A、B、O、ABの四種類あるということだ。そして、人によって決まっているということ。血液を集めて、血液型ごとにそれぞれ分けたあと、それに別の薬品を用いることで、この『原液』の材料になる」
「じゃあ、血液型が分かれば、それに対応する薬品を使って、原液を作れるのか」
イナーセルが簡単にまとめてくれた。
「だが、血液ってそんな簡単に集められるものなのか?」
テラリアが首をかしげる。
「それは、ミラルドが言っていたミュージックホールだ」
「え、私?」
ミラルドが首をかしげた。
「占い師が色が変わる水晶で判断しているらしいが、神々なんて関係ない。血液型を調べていただけだ。珍しいとか珍しくないとかっていうのは、さっき言った中で、AB型は珍しいんだよ」
「ってことは……」
「そうだ。ミラルドがそのミュージックホールの、アクセサリーを持っていないと入ることのできない部屋で、寝ている、いや、眠らされている間に血を抜かれていたんだよ。多分注射器でな。一つの部屋に同じ血液型の人間を集めておけば、いちいち確認する必要はない。客が起きたらほぼ確実に失敗するから、作業そのものはスピード勝負になる」
ミラルドが両方の袖をめくる。
左腕に、針を刺した痕があった。
「ちなみにこの話が、シュレイオが言っていたきれいな死体にもつながる。人族以外はちょっとよくわからないが、人族の場合、体重の13分の1が血液だが、この中で4分の1までなら抜かれても命に別状はない。だが、3分の1以上抜かれたら確実に死亡する。種族ごとで違うと思うが、おそらく限界はあるんだろう。きれいな死体っていうのは、血を全て抜かれた人間たちのことだ」
さらに言えば、全種族が、この四種類の血液型であることが分かっている。
血液のそもそもの目的は赤血球による酸素の運搬や、白血球による病原菌の対処なので、根本的に成分が変わることはない。
追加で言えば、ミラルドは立ちくらみがしたと言っていたが、それは低血圧に寄るものだろうと推測できる。
「いくらシュレイオでも、廃棄されていた死体で、どのくらい腐敗が進んでいるかもわからないのに、針の痕なんて気づかなかっただろう」
「私としたことが……不覚です」
「ミュージックホールなんてものを開いて、わざわざ料理までタダだったのは、客を効率よく集めるためだろうな。で、得にダンジョンがある重要都市で、その原液を使ったポーションで商売して、中級、上級向けで販売する。血液も、限界まで抜こうと思えば、体重60キロなら少なくとも1キロはやれるからな」
イナーセルがここで首を傾げた。
「じゃあ何で、わざわざ全部抜くなんてことをしたんだ?そいつらにもいつまでも来て貰うには、それは非効率的だと思うんだが……」
「もとが何型であるかによって、それぞれの効果の『なりやすさ』が違うようなんだ。そして、求められる品質と需要に間に合うようにするために、全部抜くなんてことをしたんだろうな。で、なんの『なりやすさ』が必要なのかって言うと、AB型、さらに言えば、魔法具の回路用なんだよ」
「そうか、もとはといえば、犯罪組織の強化が目的だったから……」
ミーティアの言う通りだ。
「そう、皆、一回はエルドラドに行ったと思うが、二階の魔法具が少なかったのは、生産難度とかそういう話じゃない。犯罪組織の実行部隊にまわしたかったからだ。俺達はあのときは、ポーションを中心として、魔法具は臨時収入だと考えていたが、そう言うわけでもない。ポーション販売は、『コマンディア』運営金の確保と、ミュージックホールの維持だろう。それなりのランクのある料理がタダで出せるくらい、そいつらは稼いでいるってことだ」
タイダロスが口を開いた。
「だが、形は違うにせよ、ミュージックホールと似た『役割』の店は、それぞれの種族領土に存在するはずだろう。その、AB型の血液が、4分の1ずつ抜きとることで足りないということがあり得るのか?」
タイダロスの言い分は最もだ。
エルドラドの活動範囲は広く、種族の数、領土の広さ、世界人口、詳しい数字は知らないが、莫大なものであるはずだ。少なく見積もっても数千万人はいるだろう。
「それに関しては俺も疑問だったんだが、それも分かってしまったんだよなぁ。シュレイオ。血を全部抜き取られた犠牲者のなかで、竜族や竜人族はいたか?」
「いえ、いませんでした」
「数はどうだ?」
「思えば、かなり多かったと思います」
「推測では、この被害者は、恐らく竜族領土でしか出ていないんだと思う」
「どういうことなのだ?」
テラリアが首をかしげる。
「自族の領土内で同種族のものが死体で発見されたり、行方不明が続けば、種族の王としては見過ごせないだろう。だが、他種族であっても数が多いとなれば、町の評判は悪くなる。もしかしたら、住民の誰かが死体を発見するかもしれないしな。本来なら、真っ先に王がこの状況を打破するために、全力で捜査に取りかかるはずだ」
「まさか……」
「そう、本来なら王が直々に入るはずの問題、ポーション関連ではなく、死体すら出ていると言う状況が、竜族領土においてはシュレイオのところで止まってしまって、王に届くことはない。シュレイオ個人の死体回収速度や、親バカの竜王が子供たちの普段の生活を制限させようとするのを防ぐために、王には報告されないと分かりきっているからだ。竜王が親バカなのはイナーセルでも知ってたから、意外ではあっても珍しい話でもないんだろ」
要するに……。
「血を適量抜くくらいなら、コマンディアにとってはリスクは少ない。だが、シュレイオが全てを水面下で、しかも王に報告することがないという『前提』があるからこそ、竜族領土、特に『覇竜城下町』は、コマンディアにとっての『無茶しても問題ない効率のいい商売場所』としての条件を、全てクリアしてしまった。と言うことなんだ。そしてそれを確定させるのは、『覇竜城下町にエルドラド本部がある』という情報なんだ」
ミチヤの推測は、ここまで。
誰も、なにも言わなかった。




