第四十話
「こりゃまた面倒なことになったな」
「ああ」
現在。フルーセの馬車に乗って飛行中である。
なお、フルーセは吹き荒れる風程度で、馬車の中の会話が聞こえなくなるということはないので、ミチヤたちも普通に話している。フルーセはミラルドほどではないが、耳はいいのだ。
「しかし、竜族の第二王女ですか。そうなると、本当に成功させる必要がありますね」
「ミーティア。そこまでなのか?」
「俺も聞いたことがあるが、竜族の第二王女と言うのは、この世に生きる神『竜極神ダイアガーザ』との唯一交信できる存在になるらしい」
「あ~……政治的にヤバくなるな」
この世に生きる神って言われてもよくわからない。
あらかじめ、神がすでにこの世に生きる存在であるという話を聞いてはいたものの、自分にはまったく関係のないことだと思っていた。
「私としては、ポーションが気になる」
ヨシュアが呟く。
まあ、ヨシュアの場合はそうなるか。
「グランドマスターが言っていたが、なにやら『クサいかんじ』がするらしい」
「ふむ……」
まあ、材料がヤバかったりするのだろう。
「書類制作者も、グランドマスターが信用している人物で、情報提供者は、竜人族の……名前は確か、『シュレイオ』だったはずだ」
ミーティアとイナーセルがカチンと固まった。
「……どうした?」
「いや~シュレイオって言ったら、一人しか思い浮かばなくてな……」
「人材が変わっていないのだとすると、シュレイオは、竜王の執事なのですよ」
……え?竜王の執事?
「どれだけすごいんだ?」
「竜人族だから竜にはなれないんだがな、いろんなところがチートらしい」
「そうですね……竜族の最高権力者にして最高の戦闘力を持つのは竜王に違いないのですが、政治においてはほとんどがシュレイオの助言があって成立しています」
なぬ……。
「実は、三年に一回。種族の代表が集まって行われる『頂上会議』と呼ばれるものがあり、人族では冒険者ギルドのグランドマスターが出るのですが、シュレイオは、『竜王全権代理者』にして、『頂上会議司会進行兼議案調節係』という役なのです」
「スゴいらしいな。親父が言っていたが、すべての種族に対してメリットとデメリットのバランスを完璧に考える頭脳を持っているらしい。公認ではないが、『文明調節者』の二つ名があるってさ」
執事って何だろう。
「まあ、何となくわかった。ポーションの話に戻ろうか」
「そうだな。あいつに関しては語りだしたら止まらん」
イナーセルの実家が気になる。
「そもそも、回復系なのか?」
「様々だ。ただ、『エルドラド』という組織が扱っているらしい。なかなか優秀なものが揃っているようだな。運営している種族は不明だ。価格は高いが効果はいいらしい。聞いた話では、ラシェスタでも扱っていないようだ。ブラックカードを見せても無理だったから、おそらく専門なんだろう。料金の問題で、中級~上級あたりが客層らしい」
「シュレイオが情報提供者ってことは、本部が竜族領土にあるってことはほぼ間違いないな」
イナーセルが勝手に納得している。
「む?思ったんだけど、そもそもポーションの基本的な材料って何なんだろう」
ミラルドが首をかしげる。
思えば、ダメージをもらう場面が少ない上に、ミーティアが詠唱破棄でも完全に回復できるレベルで回復魔法を使えるから、需要が皆無だったな。
無論、ミチヤも何度か店に入っているが、購入しているのは食料、いや、香辛料ばかりである。
全員の視線がヨシュアに集まった。
「まず、イオンレベルで不純物が取り除かれた『純水』に、魔力を流し込んだものである『原液』を使う。これらにそれぞれ回復効果のある物質を粉上にして配合するのが普通」
不純物を取り除くのも、魔力を流し込むのも、それぞれ銅貨十枚で買える魔法具でできるらしい。
「薬草類を直接摂取するのに対してメリットは?」
「普通に摂取しただけだと即効性がない。また、即効性があった場合、体内のカロリーをかなり使うから、危機的状況の使用になる場合が多くて、安全性に欠ける場合もある。そこで、原液と混ぜることで、即効性と、魔力によるエネルギー補充が行われるようになる」
「ほう……」
「ただ、傷を治すことに適しているもの、解毒に適しているもの、ポーションには様々な種類や目的があるけど、適した素材が限られているのは当たり前。それに、もうほとんどの用途に適したポーションは存在しているし、売られているはず。それに、竜族は自然回復力が高いから、わざわざポーションを使わなくてもいい状況の方が多い。そんな場所で本部を作っているんだから、少なくとも治療目的のポーションではないと思う」
「治療目的ではないとなると……筋力や魔力の増加とか?」
テラリアが呟く。
ヨシュアは頷いた。
「そもそも竜族や竜人族は、薬物全般に対して免疫が強い。本来自分にメリットがあるものにも抵抗するから、強いポーションじゃないと効果が発揮しない。でも、自然回復力が高いから無視することが出来る。でも、筋力増加や、魔力生成量増加は、自分ではどうにもできない。だからこそポーションに頼るわけなんだけど、ポーションに対する免疫が高すぎて、普通のものは使用しても得られる利益が小さすぎる。でも、必要になって来る時もある」
「竜族は文字通り竜になれるんだから、膂力的に必要ないと思うが……」
タイダロスも首をかしげる。
「竜族の領土には、超次元ダンジョン『亜空間の大回廊』というダンジョンが存在する。このダンジョンは地下一階しかなくて、ただ単に広いだけなんだけど、モンスターもものすごく強いし、何より狭い。竜になれないわけじゃなんだけど、大きさ的にギリギリになるし、一網打尽にされるのが普通」
「一番売れそうなのは?」
「竜族の中でも中級以上になるけど、竜人形態のままで本来の竜としてのステータスを出すことが出来る『矛盾強化』というスキルがある。シュレイオのおかげで中級でも発動できるって聞いたことがある。これは竜族をもってしても恐ろしく魔力を使うけど、ダンジョンの中でも普通に戦える実力になるから、『魔力生成量増加』をたくさん作れば、その分儲けになると思う」
そうか……しかし、本来のステータスにすることが出来る『矛盾強化』と言うスキルも覚えておく必要があるか。『強化』っていうより『装甲』のような気がしないわけでもないが、それはいいとして。
「ヨシュアとしてはそのポーションについてどう思う?」
「アムネシアの調合の歴史は数千億年になる。同時に、植物開発の歴史も長いから、完全な新種というのはかなり可能性が低いと思う。でも、ポーションそのものの種類は様々だから、多分『原液』の方に秘密があると思う」
「原液って違いあるの?」
「ある。魔力の質の問題になる。今現在の多くのポーションの原液は、魔法具によって調節し、流し込んだもの、植物や調合はもうほぼ完成形と言っても過言ではないけど、魔力が絡む『原液』は、今でも新種のものが発見されるときがある」
「原液についてはヨシュアも研究しているのか?」
「……ルークが脱皮して手に入れた素材からうまく魔力を作って……」
「え、魔力って素材から作れるの?」
ミラルドが反応した。
「作れる。話を戻すけど、その魔力で原液を作っているんだけど、ルークのもともとの薬剤対抗力が強すぎてなかなかポーションが出来てくれない……」
全員がルークを見た。
ルークは生まれた時のあの姿で胸を張った。
「まあ、なんとなくわかった。ん?どうした、ミラルド」
「馬車のちょうどましたあたり、誰かいます」
思えば、フルーセも減速している気がする。
下を見ると、なかなか豪華な馬車が走っている。
中は全然見えなかった。
が、手綱を握っているのは、クラスメイトの女の子だった。
「あー……確定だな。ミラルド。馬車の中に何人いるかわかるか?」
「声の種類は、手綱を握っている人を含めて四人。馬車の中には三人いるけど、一人の声がかなり幼い。竜族の第二王女だと思う。あと、ザナークルであった聖剣を持ってた人の声がする」
「海道だな……」
ミチヤの呟きにテラリア以外の全員が頷いた。
「もう一人は?」
「すごく偉そうな感じ」
「男か?」
「うん。なんだろう……武器の大きさ的に……ダガーだと思う。身長は165センチくらいかな。暗殺者っぽい感じ」
「偉そうな感じで暗殺者……身長は165センチ……黒川だな」
黒川零士。隠れオタクだったクラスメイトだ。
ちなみに、手綱を握っている女の子は、西塔桃香である。
ミチヤの記憶では、職業は『魔法使い』で、火属性に高い適性があったはずだ。
メンタルはいざという時そんなに強くはないし、自由奔放かつ自分に非があると認めない性格で、少々問題行動もあった生徒だ。
海道のおこぼれでも貰おうとしているのかね?
零士に関しては……よくわからん。
海道正哉という『勇者』がいるので自分が主人公とは思っていないかもしれないが、彼も危ない感じである。
「なんだろう……すごく不安。考えて動かないとまじでハルカが処刑台送りになりそう……」
ミチヤの呟きに、馬車の中の空気がかなりげんなりしたものに変わった。
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こうして、竜族の領土にて、勇者の中でも問題児三人組(ミチヤ判定)と、ミチヤたちが集まることとなる。
先に何があるのか、それは分からない。
ただ……覆すことのできない何かが、そこにはあるだけだった。
第一章『責任の方位磁石編』はこれにて終了。
第二章『水面下の条件編』次回より開始。




