第三十五話
さて、攻略したミチヤたちだが……。
「む、何かの臭いがするな」
「何かの心臓の鼓動が聞こえる」
タイダロスとミラルドの言葉で、静寂がボス部屋を満たした。
転移の魔法具が設置されていて、今も光を放ち続けている扉の向こう。
その扉の横。
卵があった。そこまで大きくはない。
「卵……だよな」
ミチヤの呟きに全員がうなずいた。
そして、卵の近くに来た。
「いったい何の卵なんだろう」
いや、あんなボスがいたのだ。なんとなく予想ができないわけではない。
その時、ピキッと割れたような音が響いた。いや、実際にちょっと割れている。
そして、ピキピキピキピキと音が続いて、遂に割れた。
「キュアアアアアア」
コハクよりもちょっと小さいくらいの竜がいた。
真っ白である。
瞳だけは赤かったが。
「キュア?」
ドラゴンはミチヤを見る。
あ、これは……。
「キュア~」
ドラゴンはミチヤの方によたよたと歩いてきて、座っていたミチヤの足に頬擦りしてきた。
完璧に刷り込みである。
「ご主人様のことをお父さんだと思ったのかな?」
ミラルドがミチヤの心を代弁する。
それしかあるまい。
「どうするんだ?マスター」
「連れていくしかないだろう。ただ、癒し系のままでいてくれそうにないな」
「真名は?」
「仕方がないと言うことにしよう。というかさせてくれ。これからよろしくな。『ルーク』」
魔方陣が出現し、砕け散る。
これで問題ないだろう。
「そう言えば、ルークは性別どっちなんだろう……」
「さあ……」
その会話を聞いた(?)コハクが、ミチヤの肩からポンッと飛び降りて、ルークのすぐそばに来る。
「キュア?」
プルプルプル。
「キュアアア……」
プルプルプルプル。
「キュア!」
プルプルプルプル。
コハクはミチヤの方を見た。
そして、にょ~んと縦に伸びた。
「分かるかそんなもん!」
コハクはハッとした顔になり(?)、触手を出した。
そして空中に、『♂』のマークを作った。
「男か」
最近モンスターまで雌ばっかり増えていて妙な心境だったのだが、これで問題ない(謎)。
「しかし……会話をしていたのか?さっきのは」
「キュア」
フルーセも頷いているようなのでどうやらそうらしい。
端から見ればルークの方が一方的に何かをいっているようにも見えるのだが。
「生まれたばかりですが、知識はかなり高いですね」
「そうなのか?」
ミーティアが言っているが、イナーセルは首を傾げる。
「この白さと赤い瞳、詳しくは知りませんが、恐らく種族は『ファセーラ』だと思われます」
「ほう……」
「最後に三千万年前くらいに一度発見されただけで、今では絶滅種と言われていますが」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
「キュアアア~」
ルークは膝に刷りよってくるルークを見る。
これは……政治的にアウトな感じがする。
「はぁ、とにかくいくか」
コハクが肩に乗ったので、ミチヤはルークを抱き上げる。
そして、転移の魔方陣に足を踏み入れる。
「ふう、長い間いたが……やっと地上だな。一息ついたらパーティーでもやろう」
中央にコンソールがあったので、それに触れた。
【地上に帰還しますか?
YES or NO】
『YES』を選択する。
【本当によろしいですか?
YES or NO】
『YES』を選択する。
【本当の本当によろしいですか?
YES or NO】
変な予感はしたが『YES』を選択する。
【今一瞬、『もしかしてこの質問が永遠に続くのでは?』とおもったでしょう】
ウゼェ。
【地上に帰還します。転移魔方陣はいつでもあなたを待っています。またのご利用をお待ちしています】
二度と来るかこんなところに!
内心絶叫したが、視界が光で満たされ、その後、転移していった。
「お帰りなさいませ。馬車の用意は出来ております」
転移して帰ってきた次の瞬間、あの顔の店員がいた。緑色の服も同じである。
「俺って運無いのかな……」
「ふふふ、実は会長がそろそろ戻ってくる頃だろうといっていたので、私が代表して待っていたのです」
「いや、君ら全員顔が同じだから代表してって言われてもどこにいた店員なのか分からないんだけど」
「ああ、そうですね。私はこの町で素材商人をしているものです。初対面ですよ」
「初対面な感じがしない」
まあ、ここでごちゃごちゃ言っていても話が進まないので馬車に乗り込んだ。
「ん?素材商人って言ったよな」
「はい。そうですが」
「準備万端なんだな……」
「そうですね。今日はラシェスタの中でも有能な鑑定士が500人ほど集まっておりますので」
「500人か……三週間徹夜だな」
「大丈夫です。全員がアイテムがあればそれでヌけるという、最高峰のアイテムフェチですから」
「ラシェスタの鑑定士は変態ばっかりか!?」
ど、どうなっているんだ?
「ん、マスター、ヌくというのはどういうこと?」
「私も知らないのですが、どういったことなのですか?ご主人様」
ヨシュア(12歳)とミラルド(10歳)が聞いてくる。
「君たちにはまだ早い」
「「?」」
だがしかし、本当に、それは本当に小さな声でイナーセルがなにかをいっている。
何をいっているのか予測できるがしたくはない。あと、同じ馬車の中なのに全然聞こえない。
が、吸血鬼、さらに言えば、生物学的にも抜群の聴力を持つコウモリの要素があるミラルドには聞こえていたようだ。
急にボンッとこれ以上ないくらいに赤面し、あたふたし始める。
ヨシュアは聞こえなかったようだ。
まあ、どのみち知らなくていいのは事実である。
「お、着きましたね」
ブラックカードにも書かれているマークのある店に到着した。
「それでは、鑑定を始めますので、売るものは全部、一つのポーチに入れて渡してください」
「……金、多分足りなくなると思うが」
「まあ、その辺りの話はあとにするということで」
「……まあいい。ヨシュア、いいか?」
「これに売るものは集めてある」
ほとんどはヨシュアが個人的に研究するものなので、最低限+αあれば問題ないのだ。
ちなみに、アイテムに関する興味だが……。
ミチヤ 特に興味はない。
イナーセル 肉と酒を望むが、全然なかったので今回は気にしない。
ヨシュア 研究に使うので最低限あればいい。
ミーティア そこまで興味はない。
タイダロス アイテムよりも本がほしい。
ミラルド アイテムよりもミチヤの血を飲みたい。
テラリア 騎士剣の強化をしてもらえばいいと思っている。
といった感じなのである。
「それでは、鑑定を始めますので、かなりお待ちください」
「……」
ミチヤはノーコメントだった。
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その日は飲んで騒いで怒られての繰り返しだった。
ミチヤはとにかく作りまくった、深夜テンションで。
三週間、本当の意味で休養をとっていた。ブランクが出ない程度に訓練はしたが。
ただ、ルークが一日三回ペースで脱皮するのである。これは驚いた。
で、ヨシュア。なんと、迷宮でてに入れたすべてのアイテムよりも、ルークが脱皮した物を研究するのにのめり込んでしまっている現状。
ルークは日々大きくなっている。
そして、鑑定結果が出たというので、素材屋に向かった。
「お待ちしておりました」
目の下にクマをつくったあの店員がいた。
「……老けた感じがするのは気のせいか?」
「それは置いておきましょう。こちらをどうぞ」
店員が紙の束を渡してきた。
「……頑張ったんだな」
「えぇ、もう本当に……結論から言いましょう。金貨何枚ほしいですか?」
「結論になってねぇな」
イナーセルの呟きは多分全員一致だろう。
「……現実逃避したろ」
「そうですね。まあそもそもの話。あのダンジョンは下層に行けばいくほど広くなっていくので、下の階層の素材が多いのは予想は出来ていたのですが、完璧になめてました。その結果がこれですからね。あの素材を全部売るとなれば、もうミチヤ様のほうで金額を掲示してはらうしかないのです。いったいどれ程あったと思いますか?」
「さあ?」
「アイテムの総重量、五千万トンですよ。しかも、キロ単位で見ても、少なく見積もって金貨五十枚のアイテムが九割でしたからね」
「……」
これは……何を言えばいいんだろうか。
「そうだな……白金貨を一万枚。金貨を十万枚。これが俺の掲示額だ」
大金であることに間違いはない。
しかし……。
「あの、破格すぎてこちらが怖いのですが」
「多く持っててもこっちが怖いしな」
この世界、金貨しはいても銀行はないからな。
「ま、勇者召喚があった時期だからな。そっちでも色々あるだろうし、その運営で色々と頑張ってくれって感じだな。ていうか、素材はどれもこれもすさまじかったと思うが、人族の領土内で捌けるのか?」
「そこはご心配なく。まあ、その金額でいいというのでしたら、その金額を用意しましょう」
「そうか」
「ちなみに、白金貨一万枚、金貨十万枚。小国なら国家予算ですからね。白金貨を数百枚も持っていれば、その時点で貴族を名乗れますから」
「世界事情がきになったよ……」
「ふう、またのご利用をお待ちしています」
「ああ、ここに来るかどうかは知らないが、ラシェスタには来るだろう。それと、残業お疲れさん」
店員は苦笑いを浮かべていた。
さて、成金の仲間入りになってしまったな。別にいいか。それは。




