第三十一話
「『聖刻印』は手に入ったが……なんかあっさりしていたな」
春瀬が呟いた。
現在、春瀬、正哉、風雅、夏奈、茜の五人は、魔王討伐の鍵になる『聖刻印』の入手のために『アミュレット法国』の総本山である『エターレイル神殿』に来ていたのだった。
聖刻印は、武器に特殊な神聖属性を付与することが出来る十字架のような形のアイテムである。
教皇はそのアイテムを、ほぼ無償で春成達に渡したのだ。
ほぼ、と言うのは、春瀬たちからすればそう難しくない依頼をこなしたからである。
何かと試されているような試験内容だったが。
アミュレット法国は王城から直線距離で三百キロメートルほどである。
宗教国家がどのようなものなのかは想像できなかった春瀬だが、まあ来てみて思ったことは、白いな。と言うことであった。
「春瀬、それは当然さ。教皇様も、人類の平和を一番に願っているはずだからね」
正哉が春瀬の呟きに答える。
まあ、そう言う気持ちが全くないと思っているわけではないのだが……。
風雅もため息を誰にもわからない程度にしている。
「しかし、宗教国家がどんな物なのかはいまいちよくわからんが、信仰対象である神がこの世界にいると聞いたときは驚いたな」
風雅が思い出しているが、その感想は春瀬も一緒だった。
神殿にいたわけではないが、アミュレット法国があがめている神『天恵神ダルクオーム』は、この世に、一つの存在として生きているという話だった。
地球では、全知全能でなんかよくわからない場所にいるというのが神である。
偶像崇拝。この言葉の意味が、地球とアムネシアでは大きく異なるのだ。
アムネシアでの偶像崇拝と言うのは、神そのものを像を作り、神聖な存在として扱うのだ。
ただ、全知全能と言う言葉は、生きている存在には似合わないものだと春瀬は思う。そういった存在ではないように感じた。
「でも、聖刻印がなかったら魔王を討伐出来ないって、ザナークル王も言ってたけど、それってどういうことなのかな?」
夏奈が疑問に持っているようだ。
確かに春瀬も疑問に思ったし、そこはよくわからなかった。
魔王と言う存在がどういうものなのかは知らないが、弱点属性であるという話なら分かる。
しかし、すでに春成達が使っている武器はランクもすさまじいもので、神聖属性が付与されているものだと思っていたが……。
その疑問には風雅がすぐに答えた。
「アミュレット法国が直轄管理している聖刻印は特別製だって言っていたからな。普通の神聖属性とはそもそも違う部分はあるだろう。ただ、それを除いても、魔王が常にバリアを張っていたり、そもそも、倒すためにはたどり着かなかったら話が進まない。その際のキーアイテムになるんじゃないか?」
「なるほど」
茜がすぐに納得の表情をした。
風雅の言うことはおそらく、間違ってはいないだろう。
「だが、どちらにしても、聖刻印があれば、それを行うことが出来るんだ。魔王を倒すことだって俺達にはできるさ」
正哉が笑顔で言う。
春瀬と風雅ははっきり言って不安である。
この世界は、魔王と言うのは倒しても時期が来れば違う魔王が出現する。輪廻のようなものが関係しているような気がしないわけでもないが、詳しいことは今は必要ないだろう。
ただ、春瀬と風雅は、アミュレット法国が管理していた膨大なまでの歴史書なども見せてもらって(ミチヤの手紙の中にこの世界での文字の早見表があった)一応分かったことだが、魔王は、鍛えるということや、強くなるという概念が存在しない。と言うことだった。
魔王は、魔王として君臨するステータスを、誕生したその瞬間から所有している。
経験と言う文字も存在せず、全てにおいて何憶年と使ってきたかのような、そんな『経験値』すらもすでに所有している。
ここから推測されるのは、人間が魔王を相手に戦おうとした時、様々な加護、スキル、武器、そのほかにも様々な経験などを積み重ねるのに対して、魔王はその才能だけで対応してくるということである。
才能と努力の両方ある存在を相手にするのは、どんな分野でも骨が折れることである。
しかし、いくら強くなったとしても、人間にとっては自らを裏切らないほどの努力だろうが、魔王にとっては付け焼刃でしかない。
魔王の寿命は定かではないが、現在までの魔王の中での最高は十億年以上である。
ちょっと人類の歴史が長すぎる気がしないわけでもないが……。
その少なくとも十億年と言う年月そのものを使って手に入れるはずの力を、魔王はすでに持っているのだ。人間、それも春瀬達のような人族はたったの百年しか生きることができないのだから無謀の境地である。
春瀬と風雅からすれば、魔王に勝つというのは机上の空論である。
だからと言って言うことはないが。というか、それを聞いた目の前にいるイケメンが五月蝿くなるのは分かっているので相手をするのがめんどくさいということもあるが。
「ここにはミチヤ君はいなかったね」
夏奈が呟く。
ちなみに、夏奈はミチヤが一度王城広場にいたこと、そしてそこで何があったのかを知っている。
夏奈がミチヤに好意を寄せていることを考えれば、正哉と風雅は何か言われそうな感じはしていたのだが、夏奈は何も言わなかった。
……その代わりと言うか、無言の圧力は一週間にわたって続いたのだが。
夏奈は現実逃避をしない部分においてはミチヤとほぼ同じである。
会えたらいいのだと、今も思っている。それだけのことなのだろう。
ちなみに、春瀬は風雅には、ミチヤが気付いていることと、それでも道也が何も言わない理由を教えているのだが、それを聞いた風雅の反応は、『ハードル高すぎねえか?それ』であった。
閑話休題。
ただ、聖刻印を出してくれた教皇、あの人は凄まじい何かがあった。
宗教国家における教皇と言うのは、すでに国のトップと考えてもいいはずである。
教皇という立場なのだから、強さは必要だろう。
魔法には詠唱が必要だが、教皇はほぼ全ての魔法を詠唱短縮して使ってきそうだ。
アミュレット法国では、『極聖銀』という金属が最高峰だが、それを使った装備の『極聖騎士団』は、はっきりいって春瀬も風雅も勝てる気はしなかった。
これに関しては、図書館にいたときに風雅と話した。
結果的に言うなら、現段階で、魔王を倒そうと思っているのであれば、人族の中でも最大級の規模である王国、帝国、法国の三つの国が団結するしかないと言うものだった。
しかも、魔王軍。もっといえば魔族についても歴史書にはしっかりと乗っていたが、彼らも、春瀬たちと同じように、しっかりした文明を持ち、誰かを尊敬し、愛し合うもの達である。
根本的に言うなら、魔族も、春瀬たちとは変わらないということだ。
そんな『人間』を相手にして、自分たちが戦えるのかどうか、それが春成と風雅が危惧していることである。おそらく正哉は、魔族をモンスターの上位種などと考えているだろうが、そんなことはない。
そして、計算して出てきた戦闘力を考慮すれば、三つの国が団結するしか魔王は倒せないだろう。いや、団結したとして、それでも勝てるかどうか疑問だ。
それに、魔族に敵対する種族は人族だけではない。
多種多様な種族が存在し、この世界に生きている。協力思考があるかどうかは別だが。
魔王軍の脅威は今現在大きくはないのだが、それにしても、不自然な部分が多い。
魔王本人がもしも級に攻めてきたとしよう。
結論は一つ、完全敗北だ。
もしも、この世界がゲームであるなら、魔王を倒して、地球に変えるのがハッピーエンドだろう。
風雅と話したが、『そもそも魔王を倒すことが本来のシナリオではない』ようにも感じるのだ。
「はっきりわかるのは……何をするにしても前途多難と言うことか……」
春瀬はつぶやく。
答えるものはいないし、答えたものがいたとしても、それは正解ではないような、そんな気がするのだった。
しかし、この世界にいる神。どんなものなのか会ってみたいものだ。
極聖銀は、一応アミュレット法国では天恵神ダルクオームが貢物の対価としてアミュレット法国にもたらしている金属で、聖刻印も、この極聖銀から出来ているという話だった。
テンプレであるなら……結構残念な感じなのだが……どうなのだろう。教皇はそう言ったことは何も言ってくれなかったのでちょっと不安である。




