第三十話
「ふう、これでやっと十層が終わるな」
ダンジョン攻略開始から一週間。ミチヤたちはそろそろ限界に差し掛かっていた。
特にミラルド。
「キツイな……」
ミラルドの耳の情報から判断する限り、少なくともまだ何十層も存在している。
しかし、すでにこの時点で、この敵の多さにストレスがたまっていた。
「……ん?あの部屋、なんか明るくないか?」
イナーセルが言った。
ミチヤたちも見る。
確かに、通路の横から光が漏れている。
入った。
「ようこそいらっしゃいませ」
あの顔の店員がいた。
「どんだけすごい商売根性なんだ!呆れたぞ俺は!」
ミチヤは叫ばずにはいられなかった。
「いえ、私は少々さぼり癖がありまして、ダンジョンの中に左遷されたのです」
「……」
まあ、今はいいとしよう。
「ここは簡易拠点になっております。実は、モンスターの進入を防ぐ結界を生み出しているのですよ」
「へえ、便利な魔法具があるんだな」
「いえ、私のスキルです」
左遷された本当の理由が分かった気がする。
「ようこそ、素材の買取なども行っておりますが、何分このような状況ですから、物々交換を望む状況なのですね。はい」
まあ、この状況で金なんぞもらっても嬉しくない。
「開店休業の癖によく舌が回るな」
「まあそうは言わずに」
「……はぁ」
「お風呂などもありますよ。あちらに」
見ると、帝国にあった銭湯みたいな建物があった。
「あれは魔法具で運営しているんだよな」
「魔石をお譲りしてもらって使用するタイプのものですね」
「あっそ……」
ミチヤはカードを見せた。
「お、会員だったのですね。思えば、あの天使を奴隷にしているのですか。あ、と言うことはミチヤ様ですね」
「え、俺って有名なの?」
「名前は我々の中では有名ですよ」
「へぇ……」
いいことなのか悪いことなのかわからんな。
「それではどうぞ。簡易的なものではありますが厨房もありますので」
「あまり意識しなかったが、こういう部屋って広いんだな」
「そうですね。まあ、十層ごとで広い部分があるのですよ」
「初耳だ」
「そうでしょうね。それで、どうされますか?」
「飯食って風呂入って寝る」
「これはまた……」
だって仕方ないだろ。
「あ、ちなみに混浴ですので」
「十層で混浴とか君らの会長絶対つり橋効果とか狙ってるだろ」
店員はニコニコして表情が変わらない。
まあ、それはいいか。
「ま、まずは飯だな。厨房借りるぞ」
「魔石を入れればいろいろと使えますので」
「わかった」
ミチヤは魔石を何個かもって厨房に行く。
さて、何を作ろうか。
ゆっくり休めるし、地上で普通に食べている物でいいか。
さて、取りかかろう。
「あ、ちょっと時間かかるから風呂入ってていいぞ」
「それじゃあ入るぜ」
イナーセルが入って行き、それにタイダロスが続いていった。
女性陣は……集まって話している。何を言っているのかは聞こえなかった。
さて、そんな雰囲気を見た後、ミチヤも料理を始める。
今回作るのはカレーである。
因みに、料理技術がそこまで進んでいないのか、食べる習慣がないのか知らないが、売ってなかった。
だが、ミチヤはスパイスの材料をすべて覚えている。
発見するのは面倒だったが。
ミラルドやヨシュアもいるし、そこまで辛くない方がいいだろう。
いや、もういっそのこと甘口でいいかな。
まあ、少なくともカレーは風呂に入っていたらできるようなそんなに早くできる料理ではない。
しかし、この世界はファンタジーだ。
真っ向から普通に時間短縮できるようなそんな技術も多数存在するのである。
ちなみにカレーとなると、パンだったりうどんだったりすることもあるが、ミチヤは基本的には米一択である。
理由?特にないな。あえて言うなら何となくだ。
というか、今からパンとかうどんとか作るの面倒だし。
ということで、釜みたいな炊飯器でご飯を炊く。
無論。そちらも時間短縮はするが。
まあ、女子は風呂場ではガールズトークくらいするだろうから、多分四十分くらい問題ない……よな。
イナーセルは風呂から出た後は剣の構え方のフォームチェックをしているし、タイダロスは相変わらず本を読んでいる。
多少時間はかかっても問題はないようだ。
そう言えばあの店員は……そろばんと大量の紙とにらめっこしていた。
何か計算することでもあるのだろうか。普段開店休業なのに。
「まあいいか」
誰にも聞こえないような大きさで(風呂に入っているミラルドには聞こえると思う)呟いて、料理を進めていく。
まあ、全員そろって思ったこと。
「ミラルド。髪くらいしっかりと乾かせ。まだ結構濡れてるぞ」
バスタオルでミラルドの頭をガシガシふいていく。
その後、ヨシュアに基本構造を教えてもらって再現したドライヤー型の魔法具で乾かす。
ミラルドは「んみゅ~」と言いながら気持ちよさそうにしている。
あとは櫛とかつかっていつも通りにした。
「むむむ……さらさらになってる」
「木の櫛だからな。静電気とかもないから髪へのダメージも少ないぞ」
「そう言うものなの?」
「そういうものだ」
さて、晩ご飯にするか。
……ん?
なんか女性陣が羨ましそうな目でこちらを見ている。
「マスターって結構面倒見がいいよな」
イナーセルが言った。
「一応、七歳の妹がいたからな。両親が忙しいから、いつも俺が対応していたんだよ」
「ああ、そういうことか。ミラルドって十歳くらいだもんな」
面倒見がいいことでシスコンとよく言われた記憶がある。
まあ、年齢も結構はなれているしな。
「そう言えば、この世界って、年齢差十歳の兄弟って珍しいのか?」
「いや、そんなことはないな。俺の兄貴は俺より二十四歳年上だし」
「人族で言えば親子だな……」
二十四歳年上って……いやまあいいけど。
「人族は十歳くらいではなれていると感じるのですか?」
「私も疑問だな」
ミーティアとテラリアが首をかしげる。
天使とエルフだからな。長命種族であるが故なのか?
「私の姉は私よりも二千歳年上ですし」
「私の兄も、私より千五百歳年上だ」
「あの……文明レベルでギャップとか感じないのか?」
人間。千年前の文字を読むのだって苦労するぞ。
別に感じないのならそれでもいいのだが、それならそれで、文明の進化が遅いような気がする。
種族によって、兄妹、姉妹の年齢差において、認識が変わって来るものだということは納得できるし、そういうものだろう。
しかし、長命種族の寿命がちょっとミチヤの予想の五百四十度ちがうものだった。
まあ、いいか。
「ま、飯にするか」
ご飯を皿に盛ってカレーをかけて、ふくしんづけを添えて出しておく。
ちなみに、ミチヤにカレーライスだけを食べさせる思考回路は存在しない。
しっかりとサラダも作って別の皿に盛る。
変なところで譲らない性格であった。
まあ、日本では国民食にまでなっているのだ。異世界でも評価は変わらない。
みんなうまそうに食べる。
で、とちゅうから店員がものすごく食べたそうな顔でこちらを見ているので、誘いました。
ちなみにこんな会話があった。
「そもそもこんなところで厨房まで用意して待っているんだ。どうせ分けてもらうつもりだったんだろう」
「おっしゃる通りで」
「ダンジョンの中だっていうのに結構余裕あるよな」
「私のスキルでは十層なら問題はありませんので、まあ、この先に進むとなると話は変わってきますが」
「そうか」
「それと、ここから先にはもう簡易拠点は存在しません。そもそも、ここから先には、皇帝陛下しか通ったことが無いほどのレベルですから」
「広いもんな」
「広いですからね」
「あと、この食べ物のレシピを教えてほしいのですが」
「等価交換な」
「あなたもなかなか商才がありますね」
「そりゃ光栄だ」
「ふふふ、こちらはどうでしょう」
「メンバーカード……の黒いバージョンか」
「勇者召喚されたもの達の文化では、こういった黒いカードの場合、ランクが高いという話があったはずです。それを会長が取り入れて、このような色になっているのですよ」
「クレジットカードのブラックカードのようなものか。何か特典があるのか?」
「利用できる範囲が広がる程度ですかね。持っているのはあなたを含めて数人でしょうが」
「いいだろう」
皇帝の強さについて疑問に思ったが、まあそう言う詮索は野暮と言うものである。
と言うわけで、商談も成立し、いいものを手に入れた。
イナーセルが言うには、この時のミチヤは『とてもいい顔』をしていたらしい。




