第二十七話
覇黒宮廷付属親衛隊第三居住領域。
そのなかでも大きな窓がある部屋。
その窓と二つの扉を除く壁には、床から高さ三メートルまで隙間なく本棚が並び、本が綺麗に並べられている。
赤い絨毯も、今日敷いたばかりであるかのようの綺麗だった。
他には机と椅子があり、他にはソファーと机があるくらいのもので、かなり殺風景である。
本の数に圧倒されるかもしれないが。
「……」
カルカロスは、大きな窓から外を眺めていた。
すでに時間は夜……というわけでもなく、人族からすれば夕方といった時間だが、魔王軍の支配領域はいずれも暗い。常闇のものだ。
城下町、と言うのだろうか、実際には違うのだが、それに似たものが、カルカロスの視界には写っている。
「失礼します。団長、紅茶をお持ちしました」
ハーメルが燕尾服姿で部屋に入ってきた。
ハーメルの趣味だが、女性とはいえやや中性的な容姿のため、不自然はなかった。
「机においておけ」
「畏まりました」
ハーメルは机においた。
その間、カルカロスはハーメルの方を向くことは無かった。
「あの少年のことを考えているのですか?」
「そうだ」
即答であった。
「私も確かに気になりましたが、そこまで驚異になるでしょうか」
「完全な戦闘の気分であれば、私が負けることはほぼないだろう。ただ、あの天使……」
「天使がどうかしたのですか?」
「見たことがある。確か、天使族の王の血族のものだったはずだ」
「ほう……」
ハーメルは考えた。
「そのような存在が奴隷に……ですか」
「まあそこは天使族の問題だろう。しかし、天使にしてはレベルが異常に高かった」
「確かに、他にも、種族的に無理なレベルになっているものもいました」
「理由は、あの少年だな」
「恐らく」
レベルが上限を越えている。
世界で起こっていることと比べてみれば、小さなことだと思うものはいるだろう。
……アミュレット法国は絶叫するだろうが。
しかし、前例に無かったことなど、歴史が進んでいけばいくつも起こるものだ。
今回もその中の一部である。
ただ、レベルの上限が無くなっていたことは確かに気になることだが、それだけだと思えないのだ。
「ハーメル。お前の『魔眼』で見えたことは他に無いのか?」
ハーメルの魔眼は起動型のスキルで、目に魔方陣を出現させ、相手のステータスを見ることができると言うものだ。
しかし、見れないものもあるのだがな。
「そうですね。あの天使が知識人なのでしょう。スキルの数は多かったと思います。しかし、ひとつ、もやもやしてよく見えないものがありました」
「不自然の原因はそれか」
ザウスフィード帝国だったか。あの国が産み出し、広く浸透したステータスプレートと言うものであったとしても、見ることは不可能だろう。
面倒なものを持っているようだ。
「そもそも、少年以外は全て、少年が保有する奴隷でしたが、いずれもポテンシャルは高く、役割もはっきりしています。その上で、全員が種族が違うなかであの連携です。運営能力もかなり高いと思われます」
「……確かにな」
隙を逃さなければいい。と人族はよく言うのだが、実行するのはすごく面倒だ。
ただし、これは捉え方の話でもある。
隙を見つけようとするより、何に対して集中しているのかを正確に認識する。
視線誘導、危機感の操作。ほかにも色々あるが、だからこそミスディレクションという手段があるわけで、人工的に隙を作ることもできる。
無意識なのか、意識してのことなのか、それはカルカロスにも不明だ。
しかし、のせられたことは否定できない。
「ハーメル。もし私があのまま戦っていたとしたら、どうなっていたと思う?」
「そうですね……戦っていたとしたら、負けることは無かったでしょう。しかし、戦闘状態で無かったとしたら、私にも分かりません。ただ……」
「何だ」
「どのような結果になるにしても、死亡者はいなかっただろうと推測します」
「そうか」
「ミチヤ。でしたか」
「そうだ」
「団長はどう思いますか?」
「強いと思う」
他にも、王国の方に偵察にいかせているものもいるが、残る三十人と比べると、本当に同じ世界から来たのかと思うほどだ。
「そう言えば、先日、ミチヤと、勇者の中でもトップツーと思われるものたちが決闘をしたそうです」
「ほう、どうだった」
「そのトップツーですが、話にならないと」
「ふむ、ステータスはソコソコあるのだろう」
「確かにそうですが、精神が未熟です。人を斬ることができない。と言っていました」
「王国の者は、我々を人ではないと思っているようだな」
「その様です」
召喚された勇者の文化はいくつか知っているが、その文化をもとにすれば、亜人はまだ人と認識しているはずである。
だが、偵察のものが言ったことが本当であるなら、彼らはまだ、魔人、いや、他の魔族も人とは認識していないことになる。
そんな状態で、人を斬れない精神。
「確かに、話にならないな」
「ええ、彼らは真実を知った時、どうなるのでしょうね」
「無意識なのか意識してのことなのか、それにもよるが、どちらにしろ、そのものがトップとして今を戦っている以上、国の継続はできても魔族を倒すことはできない」
魔族も人なのだ。
それすらも認識せず、人を斬れない精神で魔王を倒すことをゴールにしている。
なんとも……傀儡だな。
「そう言えば、なぜ、召喚された勇者は、魔王様を倒すことをゴールにしているのだろうか?」
「そのことですが、王国は、魔王様を倒すことで元の世界に戻ることが出来ると話したそうです」
「……不可能だろ」
「はい。全く関係ないことですから」
「彼らが持つ文化の中でも、魔王様を倒すことで元の世界に帰ることが出来るという認識はほとんどないはずだが」
ゲーム。と言うものであるとするなら可能性もなくはないが、小説ならたぶんないだろう。
「まあ、彼らは未熟ですから、都合のいい部分だけ、小説通りではないと考えているのでしょう」
「あえて考えていないだけか。確かに話にならんな」
未熟な精神で強大な力を持つことのデメリットを深く考えていないあたり、王国も終わったな。
「思えば、ミチヤは普通に私を斬ることが出来そうな雰囲気だったが……その部分に関しては現実逃避はしない性格ゆえか」
「おそらくそうであると考えられます」
「というか、先ほど決闘などと言っていたが、ルールは知っているか?」
「『相手を倒す寸前まで追い詰める』ことと、『負けを認める』というふたつのルールでした」
「それは……試合だろ」
「確かに、それでは決闘と呼べるものではありません」
魔王様を倒す気があるのだろうか。
いや、倒す気はあるのだろうが、現実を知らなさ過ぎである。
「浮かれている部分もあるのでしょう」
「確か、今まで行われた勇者召喚も、元の世界ではモンスターが存在しない世界だったという話だな」
「強大な力を急に手に入れたものは、その力に溺れるものです」
「ハーメルもそうだったな。私が拳骨をしたのも覚えている」
「頭がへこむかと思いました」
「そうだな」
しかし、ミチヤの行動には注意するべきか。
「ミチヤは現在何をしている」
「人族が保有する七大難関ダンジョンの一つ、『血濡れの聖杯』に挑んでいるとのことです」
「ふむ……」
「どうしますか?脅威となるのであれば、私が出向いて排除しますが」
「いや、構わない」
「何か目的でも?」
「最近実力者と戦えていなかったからな。そのようなダンジョンに挑むのだ。クリアすればかなりの実力者になっていることだろう。再戦を待つ」
変な癖が出た。とハーメルは思ったが、あえて言わなかった。




