第二十一話
「ぬおおおおおおお!!!!!」
モンスターの攻撃を間一髪で避ける。
ミチヤはちょっと荒川に復讐心が宿った。
「やっぱり……ゾンビになったか……」
元の種族はしらん。
それが今現在。ゾンビとなって蘇生……いや、動いているだけか。ともかく戦闘中である。
神聖属性の判子。もってきてよかった。持ってなかったら普通に即死している自信がない。フルーセがいるからな。
「ていうか、どうやって焼いてやろうかとか思ったが、自分で炎吐くしなぁ、たぶん耐性も戻ってるか」
「すごくめんどいですね」
ミラルドも嫌そうにしている。
「しかし、ホラーだな」
素材になりそうな部分が全てない。
内臓は変な感じに回復している。巨人を食べる種族はいなかったようだが、その分腐敗がかなり進んでいるようだ。
本当に最低限必要な部分のみ、なんらかの再生機能が働いたようである。
まあ、心臓が戻っていない時点で、必要な部分の基準がよく分からないが。
「さて、なんか決定打がフルーセの蹴りだけなんだよな」
神聖属性はミチヤもミラルドもフルーセも付けているが、ミチヤの魔砲銃はダメージはあるものの、決定打にはならず、ミラルドはゾンビを相手にするにはちょっとレベルが足りないようで、ダガーがあまり通っていない。
ヨシュア作のダガーなのでダメージが無いわけではないだろうが。
「しかし、面倒だな……」
三人とも、範囲的に思いっきり攻撃できる何かを持っている訳ではなかった。
というか、再生能力は残っているので、神聖属性でダメージはあっても、HPという概念で生命力が存在するわけではないのだ。なんかいろいろと面倒である。
というか、レベル七百台のフルーセの蹴りでそこまで削れないって、どんな体をしているんだ?
「しかたない。このままじゃらちがあかない」
一応、ミーティアに町でやることが終わったら来るように言ってある。
魔法がすさまじい威力なので、神聖属性も使えるはずだ。
……多分。
「なんでこんなことになったんだか……」
死体を焼こうと思ったら動き出したのだ。もう心臓がバクバクになったよ。
「今は耐えるしかないか」
ゾンビに限らず、骨になって出てくるモンスターは、本来の個体より強いというケースがある。
スキルとかはさすがに使えないだろうが、アンデッドであるがゆえに、体の生存本能が存在しないからである。
近距離においてはかなり強いものになる。
そう言う種族なのだ。
しかも、その媒体が巨人であれば、その戦闘力も高い。
「ミチヤ様!」
呼ばれた方を見ると、ミーティアが背後の上空で跳んでいた。
そういや天使だったな。跳べるんだった。
「ミーティア。思いっきりよろしく!」
「畏まりました。それではいきましょう。『復讐の骨に憎しみの肉をまとうもの達の魂よ。自らの愚かさに気付き、天に命を返しなさい。【フォールサテラナー】』」
巨大な魔方陣がゾンビの足元に出現する。
そして、極太の閃光が魔方陣から出現し、ゾンビを浄化していく。
で、跡形もなくなった。
こ、コエー……。
詠唱アリのミーティアの魔法って……存在レベルで消えるんだな。覚えておこう。
「これで大丈夫ですね」
「そうだな。で、町の方は?」
「もう大丈夫ですよ。町の空気の浄化も行っておきました。もうあの町に、疫病はありませんよ」
「それならよかった」
次の瞬間。空間が割れた。
「な……」
ドラゴンゾンビが消滅した場所。その空間が割れたのだ。
「ん?ここに巨人の死骸があると聞いてきたが……なるほど、天使が消したか」
暗黒を体現するかのような鎧をまとった青年が、その裂け目から出てきた。
黒髪黒目。そして、背には紫色の大剣をさげている。
「誰だ?」
ミチヤは聞いた。
「私の名前か。魔王親衛隊兼暗黒騎士団団長、カルカロスだ」
役職がぶっ飛びすぎて全然わからない。
「ミチヤ様、魔王軍では、魔王の親衛隊をつとめる者は、同時に専用の軍を持っている場合があるのです」
「持っていない場合もあるのか?」
「はい。しかし、私が知る限り、彼は十五年前、騎士団の新人だったはずなのですが……」
なにかはよくわからないが、しかし、親衛隊所属か。戦闘力は恐ろしいものだろう。
戦う気が向こうにないのなら逃げるのが勝ちか。
「ふむ……」
カルカロスは指をならす。
すると、魔方陣がそばに出現して、そこから黒い鎧の女性が出現した。
カルカロスと同じく黒髪黒目、長い髪を紐で後ろで束ねている。
顔はきれいだし、やや童顔だったが、無表情だった。
「ハーメル。あのものたちをどう思う?」
少女、ハーメルはミチヤたちを見る。
次の瞬間、その目に魔方陣が出現した。
そして、直ぐにカルカロスの方を向いた。
「吸血鬼は、潜在能力はありますが今現在は驚異ではないかと、馬竜は機動力は高いと思いますが、団長の防御力なら問題はないかと、天使は実力はあると思いますが、動きとステータスにギャップを感じます。魔法に関しても、団長の魔法耐性なら問題はないと思われます。そして奴隷であるため、行動にはいくつか制限があると思われます。人族ですが、見たこともないものを持っていますが、恐らく遠距離武器かと、ですが、この中では一番注意すべきかと、総合的に見れば、人族の行動に注意していれば団長が苦戦することはありません」
「ふむ……」
カルカロスは顎にてを当てる。
次の瞬間、カルカロスはミチヤに大剣による攻撃を防御されていた。
ミチヤはとっさに地面を蹴って距離をとった。
それにあわせてミラルド、ミーティア、フルーセもミチヤのもとに集まる。
「む、よく防いだな」
「なかなか重い攻撃だな。手がしびれる」
大剣の攻撃を銃で防いだのだ。なかなかヤバイことになっている。
一秒二発ペースで普通なら撃てるが、この状況では無理か。
「小僧、レベルはいくつだ?」
「ちょっとまえ二百になったばかりだが」
「と言うことは五倍の差があるわけか。ある意味で信じられんな」
五倍の差って……こいつのレベル、1000だと!?
「不思議に思っているようだが、親衛隊ともなればこのくらいは普通だ。そして、私は『魔人』という種族だが、この種族は、最大レベルが1000なのだよ」
「団長、敵に情報を与えるのは控えた方がいいかと」
「む、そういえばそうだったな。まあこのくらいはよかろう。人族はレベルが255までしか上がらぬというのに魔王様に歯向かうものたちなのだ。召喚された勇者であってもそれは変わらん」
「それはそうなのですが……」
魔人はレベルが1000まで上がるのか……となると、魔王はそれ以上に上がるのだろう。
しかし、魔人。とても特徴が人族に近いな。
「さて、どうするか。ドラゴンの死体は、この空気を感じる限りではすでに使い物にならなかったと思うが、手土産がないというのも妙なものだな。まあどのみち、少々遊んでいくつもりだったからな」
カルカロスは大剣を構え直す。
「さて、出来る限り楽しむとするか……」
「オリャアアアア!」
急にイナーセルが頭上から大剣を振りおろしながらカルカロスに飛び込んできた。
カルカロスは大剣でイナーセルの攻撃を防いだ。
「む、オーガか」
「いくらなんでも空気中に魔力が多いと思っていたが、暗黒騎士が来てたのか。ていうか、昨日の夜辺りにも来てたんじゃないか?」
「なかなか教養のあるオーガだな……」
「カルカロス様、ここは退くべきかと」
ハーメルが突然カルカロスにいった。
「む……私が負けると?」
「いえ、可能性がほんの少しあるだけです。人族から目を放しましたので。万が一、団長が負けた場合、騎士団の士気と、私の給料の低下が発生します」
「何気に自分の給料の心配をする辺り余裕あるな……」
魔王軍ってどういう雰囲気なんだろうな。
カルカロスがミチヤを見る。
その時のミチヤは、二丁の魔砲拳銃を構えて、さらに、速度以外のエンチャントがミーティアによってかなり施された状態であった。
「ふむ、この間でそこまでの指示が出せるとはな……」
「いちいち話が長いタイプで助かった。あとな、全員の強化、もうすっかり終わってるんだよ」
イナーセルもミーティアもミラルドもフルーセも、ミーティアのエンチャントがすでにかけられている。
「なるほど、小僧から目をそらすと言うことはここまでの厄介さがあると言うことか」
イナーセルが来たのは予想外だったが、結果的に準備は整ったので良いとしよう。
しかし、歴然とレベルに差があるのは事実。
そして、カルカロスがその気になれば、ミチヤたちに命はないことも事実だった。
「まあ、今日はそういう気分ではない。小僧、名前は?」
「茅宮ミチヤだ」
「ミチヤか。覚えておこう」
できれば忘れてくれれば嬉しいんだけどな。
「ハーメル。帰るぞ……もういないな」
カルカロスは溜息を吐いたが、そこからはなにも言わずに、大剣で空間を斬って、そこから帰っていった。
「ふう、なんとかなったな」
「まさかあんな化け物が来るとは思わなかったな」
「イナーセルは知ってたのか?」
「親父は遭遇することを避けていたからな。ヤバイことは知っていた」
ふむ、それにしても……。
「隙があれば攻撃を仕掛けようとは考えていたが……見たところ無かったな」
「普段があれなんだ。戦闘中なんて想像したくないぜ」
ミチヤたちが攻撃しなかったのは、する気がなかったのではない。出来なかったのである。
「あれが親衛隊か……」
さすが、階級通りの強さと言うことか。
「……海道があれに勝てるビジョンが浮かばないな」
魔王を倒したら帰ることができることを信じているわけではないが、それはそれとして、いろんな意味で妙な話だ。
しかし、これからのこと考えさせられる時間であった。
「……帰るか」
ミチヤの言葉に反論はなかった。




