第十六話
「容姿の優れた女の子がいるっていうのは商売で得するものだな」
「マスター……俺こういう裏方に徹するの好きじゃねぇ……」
「仕方がないだろ」
現在、ヨシュアとミーティアが、最低限の大きさの馬車と荷車を引かせているフルーセとともに商売を行っていた。
まあ、物資が安定するまでの格安販売である。
しかも、良質なものばかりというオマケ付きだ。
ミーティアは普通に笑っていればなんか色々売れるだろうし、ヨシュアは無表情だが、あれはあれでキャラとしてはオッケーだ。
痴漢対策?ヨシュアは言わずもがな。ミーティアは十五年のブランクはあったが、それ以前に二百年というキャリアがあったので、レイピアも魔法も抜群、しかも、そのレベルは981。なにそれって言いたいレベルであった。むしろ怖い。
商売に必要そうな道具は既にヨシュアが作ったので問題ない。
商業権限を役所で購入したあと、大量の鉱石や食料を売りさばいていた。
で、むさい男二人は、町周辺で売り物を集めている。
要するにモンスターを倒しまくっているのだが、まあそれはいいだろう。
「マスター。これって根本的な解決になるのか?」
「根気よくやっていく必要があるな。ただ、買っていく連中のなかでラシェスタの者が混じっていたのが少々腹立つ部分ではあったが、格安販売でも金にはなっているから問題ない」
問題はないが、確かに根本的な解決にはならない。
それに関してはミチヤも重々承知している。
バセルークは狭くはないし、すんでいる人数も少なくはない。
村程度なら、ミチヤたちも本気を出せば普通に救えるだろう。
しかし、大規模になってくると話は違う。
さらに言うなら、変な欲望も混じってくるのが商売である。
考えられる対応策はすでに説明しているので問題はないと思うが、出来れば早く解決してほしいものだ。
「一番厄介なのは、引き際がまだ分からないってことだな」
「それは俺も思うぜ。活力が戻ればいいが、俺たちがいなくなったあとはどうするのかって話にもなる。感謝されて悪い気分にはならないが、だからっていつまでもいるわけにはいかないもんな」
「まああと……」
「何だ?」
「いや、ミーティアのレベルが高すぎて……ちょっと差を埋めておかないとミーティアだけでワンサイドゲームになる。それじたいは悪いことではないが、胃薬が必要になるからな。いろんな意味で」
「ああ、なるほど」
「そのためにこうしてモンスターを倒しまくってるんだ。というか、この国、一々移動距離が長いもんだからフルーセに乗っていても結構時間がかかる。なんだかんだ言って、戦う時間が短いんだよな……」
「メンバーが変に強いのも困るってことか?」
「心のオアシスがほしいレベルだ。子供の奴隷を大量購入して、遊び道具を与えて、楽しく笑顔で遊んでいるところを眺めていたい」
「マスターって子供好きか?」
「恋愛に発展するタイプではないが、見ていて和むと思うタイプではある」
「なるほど」
いやもうほんとね。変に胃がいたいんだよ最近。
「それにしても、今のところ問題はないっぽいけど、ミーティア、痴漢の反撃でやり過ぎてないかものすごく不安なんだが……」
「なら見張っておけばいいじゃねえか」
「俺とイナーセルは漠然とレベルが開いている訳じゃないけど、それでも抜かれ続けているのもなんかしゃくだ」
「負けず嫌いなんだな……」
「そうだ」
「まあ、気持ちがわからない訳じゃねえけどよ」
「そうだったら黙っていろ」
「了解」
イナーセルが大剣で、ミチヤは魔砲拳銃で、とにかくモンスターを倒していく。
途中から単純作業なのだが、まあそれは事実なので仕方がない。
「昼飯は弁当をしっかり作ったから問題はないと思うけどな……」
「マスターは心配性だな」
「君たちって常識から外れている気がするんだよね、俺。まあ、全員が俺とは種族違うけどさ」
「そういやそうだったな……」
特に問題がないといいのだがな。
あえてあるとするなら、ちょっと商売をやり過ぎてこの町から出るのは困難になることだ。
だからこそ引き際が重要なのだがな……。
「最悪、情報収集が得意そうな奴隷を購入して調べさせる必要もあるな」
「必要があるかどうかはともかく、斥候は必要だと思うぜ」
職業的には、暗殺者とか、文字通り斥候だとか、まあ色々あるが、優れた人材が必要だろう。
まあ、経済知識とか商売知識があればなおいいのだが、それは高望みし過ぎか。
「そういや、格安販売している訳だが、無償提供は視野に入れなかったのか?」
「俺は偽善者じゃないし、俺が勇者だって言う話がこの地域にまで来ているかは不明だからな。そうなると、無償提供は虫がよすぎる。それに比べて、格安販売は気前がいいと思われるだけだ。要するに営利目的があることを明確にしてやれば、普通に買ってくれるんだよ」
「マスターって商売うまいよな……」
いろいろ気にしなければいけないことはあるし、その対抗策も考えているが、一番気にするのはやっぱり引き際だ。
長くいすぎると、町民はミチヤたちに依存する可能性がある。
はっきり言ってそれはめんどくさい。
だがしかし、変に速く退散すると、それはそれで変な噂が立つだろう。
メンバーのルックスが並ではないからな。女子二人が。
「マスターはミーティアについてどう思う?」
「頼りになる存在だし、魔法もかなり使える。ミーティアに馬車の中で魔法について教えてもらったしな。ヨシュアも、自分が知らなかった魔法理論を使って今までできなかったことにチャレンジしているみたいだし、俺も各属性の初級魔法は全部取得できた。教える能力も高いってことだな。あと、俺らに会ってまだ数日なのに、なんていうか、俺達に対する信頼がかなり大きい。知識もあるし、戦闘力もかなり高い。しかも容姿も優れているしな。身長はほぼ俺と同じだから幼い感じはないけど、あれはお姉さんタイプかね?まあそれはいいが、いて悪い部分は何一つないな」
「だが、俺はなんかあやしいんだよな」
「あの店主が言っていたことが本当だとするなら、ミーティアは天使族の王が売った存在だ。あれほどの逸材。白金貨百二十枚は安い買い物ではないが、俺は適正価格ではないと思う」
「本来はもっと高いか?」
ミチヤの予測では……、
「あの金額の三十倍だと言われても納得できる。それほどの人材だ。奴隷にしていくことは惜しいだろう」
「マスターは何がいいたいんだ?」
「俺の奴隷である以上、もう彼女は天使族の王とは直接的な関係にはなることができない。ただまあ、戦力的にも知識的にも優良物件だが、政治的に見れば曰く付きだろう」
「天使族の王が奴隷商に売ったんだもんな……」
「いろいろ総合すると、あの白金貨百二十枚というのは、本来の金額ではなかったのだと思う」
「だが、あの金額は、様々な騒動がある途中に起こったものだけどな」
「要するに、エルーサにいた商人にまんまと乗せられたってことだ」
イナーセルはミチヤの言い分を聞いて苦い顔になった。
そしてそれは、ミチヤも同じだったはずである。
「思えば、ガベルスネークの死骸が、一トン銀貨八十という向こうの初期掲示額、あれもいろいろと嘘だったんだろうな」
「かなわないってことか……」
「長年やってきている相手だからな。勝とうとは思わない。そう思うといろいろとお互いに面倒なことになる。こっちだうまい話だと思えばついていけばいい」
ミーティアの値段。ガベルスネークの死骸の値段。もし双方が本来の値段で取引していた場合。おそらくミチヤは億万長者になっていたかもしれないが、興味はない。というか金がありすぎても困る。
「今頃どうなっているんだろうな」
ミチヤのこの言葉は、一つのことに対していったのではない。
自分たちのこれからのこと、ラシェスタの狙い、そして、今も活動しているであろう勇者たちの問題行動など……。
胃薬、また買っておくか。




