第十三話
森に入ってから八時間四十分後。
いやもうね。全身がいたくなってきた。
え、飯?蛇食べました。
ヨシュアもイナーセルも普通に食べる感じの文化のようで、仕方ないので簡単に調理した。
うん。まあうまかった。
タンパク質が取れる。鶏肉みたいだとよく言われるが、本当にそんな感じだったな。
直径十センチでちょっと怖かったけど。
「マスター……これでもう大丈夫……」
全身が悲鳴をあげているのが丸分かりのヨシュアが言った。
本当だとは思う。
「ヨシュアは大丈夫なのか?」
「ばっちり……」
説得力皆無……。
だがしかし、ガベルスネークは倒しまくった。これで問題はないはずである。
いや、することはまだあるが。
「さて、ウルガニアの繁殖のために移動するか」
「そうだな。もうかなり暗くなってきてるぜ」
イナーセルはそうでもないな。オーガはそういうものなのだろうか。
まあそれはいい。
暗くなっているのは事実なので、さっさと移動していく。
しかし、静かになったな。森。
そして、川に到着。
ヨシュアはイナーセルがおんぶしている。
さすがに限界だったようである。
「なんか、水の量が多くないか?」
いきなり増水して流されたような形跡がかなりある。
そして、川と言うには、なにか妙だ。
水にさわってみる。
「……なぁ、これって……海水じゃないか?」
「む?」
ヨシュアがイナーセルの背中から降りて川の水に触れた。
「確かにこれは海水。しかも、直接流れてきたかのように濃度がやや高い」
「思えば、川の流れもかなり急だな」
「……すまん。俺にはわからないんだが……」
イナーセルもさすがに知らないか。
まず、この世界のモンスターも、地球と同じような部分はかなりあるのだ。
「蛙の幼体ってなにか知ってるよな」
「おたまじゃくしだろ?」
「おたまじゃくしは、塩分の高い海水では生きられないんだ。濃度の低い、いっそほとんどない淡水でしかいきることができない」
「そう言うことか。だが、今までは増えていたわけだから、なにか原因があるのか?」
勇者がウルガニアを倒したことにより、ガベルスネークがウルガニアを倒しやすくなり、さらに、デモニクルが食糧供給を行いやすくなり、結果的に恐ろしい勢いでウルガニアは減少し、ガベルスネークの量は増加した。
まだ理由があるのだろうか。
「とにかく上流にいってみようか」
「そうだな」
またヨシュアをイナーセルが背負って、上流まで走っていく。
そこには、森の端、そしてそのかなーーーーーーーり向こうに別の森があり、その間を海水(多分)が流れている。
そこから流れてきている水が、直接川のほうに流れてきている。
ただ気になるのは、やけに岩の残骸が多いことだ。
「直接流れてきてるな、これなら海水になっちまうのも当然なんじゃないか?」
「というか、本来は海に流れていくはずだからな……この森って、海抜ゼロメートル未満だったのか。あ、ヨシュア。あの岩の残骸、分かるか?」
ヨシュアが触る。
「これは『塩食岩』だと思う」
「塩食岩?」
「海水に面している森に生息する。海水から塩分のみを体に取り込んで、それをもとに魔力を産み出して、その魔力をエネルギーとして生きている」
「塩から魔力を作れるのか?」
「『生体魔法具』を用いている」
生体魔法具。体内の魔力を使って、体内、もしくは体外に影響する魔法を生み出す生物の一部だ。
「魔力を使うんだよな」
「本来ならそうだけど、塩食岩はその逆が出来る。私でも再現するにはかなりランクの高い素材が必要になると思う」
なるほど。逆が出来るのであれば、塩を使って魔力を産み出せる……のか?まあよくわからないが、大量に倒されたのは事実だろう。
「いやに残骸の数が多いな。塩食岩って岩だから、食糧にはならないだろう」
「マスターの言う通り、このエリアにおいては、塩食岩は『食物連鎖外モンスター』に分類される」
「食べようと思うもの、言い換えるなら狙う存在がいないのか」
「でも、素材としてはかなり優秀、でも、勝手に増えることはない。この個体たちは、いつの間にか流れてここに来たのだと思う」
「素材が優秀……ウルガニアを狩りまくってまだやるか?」
「さらに言うなら、塩食岩は体内に、『魔力を塩に変えることが出来る魔法具』を持っているに等しい。もともと数は多く生息しないから、海から遠い国には、莫大な金額で売ることも可能だし、持っているだけでも、塩はどの国にとっても重要だから、行商にてを出せば、魔力が多ければ多いほど稼ぐことも出来る」
簡単に言うなら……。
「塩食岩だけを見れば、倒すだけで一石三鳥くらいあるってことか」
「その認識は正しい」
「ザナークルでは?」
「すでに把握している。でも、この森に生息していたことは知らないはず。ウルガニアは減らなかったから確実。でも、勇者が、運のよさで発見した可能性は否定できない」
「塩を作れる魔法具を献上した、何て話になれば、勇者たちがさらに多くの報酬を貰うことも出来る……か」
「その通り」
荒川のやつ、次あったときどうなっているんだろうな。
クラスでも飛び抜けて女好きだけどな。
メイド喫茶とかキャバクラに入ってたのを見たことがあるし、なんかいろんな意味で予想できそうだ。
さて、今のことだ。
「塩食岩がいたからこの川が淡水になっていたと言うことか?」
「間違いない。なおかつ、効率よく魔法具を運用するために水分を接種していたはずだから、川もそこまでひどいレベルで増水していたわけではなかった」
「……塩食岩って、倒そうと思えば倒せるか?」
「岩を砕くことが出来れば子供にだって倒せる」
哀れである。
「仕方がない。これだとウルガニアが繁殖できないからな。なにか考える必要があるか」
「む……」
塩分を魔力に変えることが出来る魔法具、それらを今すぐに作れば問題はないと思うが、荷車にも適合する素材はないとのこと。
無い物ねだりしても仕方がないので他のことを考える。
フィルターを作る……いや、めんどくさいし直ぐに破られるか。そもそも、蓄積していった塩を誰が処理するのかという話になる。
「一部分にだけ、淡水のエリアを作るか」
「それはさらなる可能性の解決にはならない」
「まだあんの!?」
荒川めえええぇぇぇぇぇぇ。
「今まで淡水が流れていた地域に、急に海水が流れるようになってしまう。これだけならマスターの策で問題ない。でも、この川の下流で問題がある」
「下流?」
そう言えば、海抜ゼロメートル未満で、いったいどこに流れているにだろうか。
海より下の高さなのだから、流れていった先に海があるわけではない。何処かでものすごく深い穴みたいな場所に落ちているのだと考えていたが……。
「マスターが考えている通り、その穴に落ちている。そして、その底にいる種族は、淡水で生活する種族ばかりになる」
「地下世界か」
下層森林、地下大迷宮、地底都市、この世界では、日光をきらうモンスター、または迫害された種族、他にも理由は様々だが、今いる自分達の高さよりも低い位置に世界がある場合もある。
まあたしかに、ガベルスネークの量はスゴかったし、それに見あうだけのウルガニアもいたはずなので、かなり長い年月、塩食岩がいたということになる。
確かに、いなくなったらめんどくさいだろう。
地下世界に何があるかは知らないが、だからこそ、予測不可能の最高峰である。
ちなみに、すべての水がその最終地点となる穴に入るわけではなく、他にも違う穴があるらしい。
なので、他に塩食岩がいる可能性は、無いわけではないが、いまミチヤたちがいる場所にいなければ話にならないのでノーカウントだ。
「……どうする?」
「うーん。塩食岩が一匹いれば、それをもとにして魔法具を作れる」
「うっしゃああああ!探すぞおおおおお!」
「深夜テンションでやるしかねえな。めんどくせぇ」
「必要なことではある。でも、イナーセルはハムスター狩りを達成してから混ざってほしい。私とマスターは、今現時点、デモニクルの集団を相手にしたら、最悪重傷になる」
「分かった」
「じゃあよろしく」
そういってヨシュアはイナーセルに試験管をぶつけた。
パリンと割れて、中の液体がイナーセルに染み付いた。
「なんか冷たくないか?俺に」
「私は疲れている」
「まあいいけどよ。大剣の研磨だけはしてくれ」
「了解」
イナーセルは研磨された大剣を受けとると、森の外に走っていった。
「さあいくぞ!」
疲れているからだに鞭をうって走り出した。
ちなみに、なぜ休んでから行動しないのか。
一応理由はある。
完全に真っ暗になると、塩食岩の魔力放出光が見やすいからだ。
そして、今寝た場合。朝までそのまま寝れる自信がある。
「苦労しそうだな……」
いや、実際苦労している。
一時間探したが見つからない。
魔力光は白いらしいが、ミチヤは極度の疲労でもはやよくわからないのだ。
ものすごく眠い。
オマケに全身が悲鳴をあげている。全身筋肉痛だ。
そして、危険になるとしても、ヨシュアと別行動を取ろうとした次の瞬間だった。
まだミチヤたちには、仲間がいるのだ。
村で荷物の番をしていて、貴重品が全て金庫に入っていることを確認し、森に入ってきたのだ。
銀色の毛並みと金色のたてがみを、『岩から出ている白い魔力光』で輝かせながら、ミチヤたちが倒したまま放置していたガベルスネークの死骸の全てを荷車に乗せて、生体魔法具であるその翼をはためかせ、空からやってきたのだ。
そう、銀馬竜、フルーセである。
「「フルーセーーーーーーーーーーーー!」」
ミチヤとヨシュアは絶叫し、フルーセに抱きついた。
二人揃って号泣である。
やっと解放されるのだ。
しかも、フルーセが持ってきた塩食岩は、特に希少な個体。
作業効率、塩食岩五十匹分という、ヨシュアが作業する必要をなくすという、馬とは思えない知性と運で持ってきた最高のプレゼントであった。
「おーい!こっちも終わったぞー!」
イナーセルがデモニクルの討伐証明部位を五十七個、バッチリと袋に入れて走ってきた。
全員合流し、そして、本来塩食岩がいた場所に、フルーセが持ってきた塩食岩を置く。
すぐに作業を開始。白い光を放出し、流れてくる水を淡水に変える。
急に変わることはないだろうが、それでも、改善はされるだろう。
フルーセに乗って、村に帰るのだった。
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フルーセは馬竜のため話すことはなかったが、一つだけ隠していることがあった。
それは、ガベルスネークの死骸を集めた存在である。
フルーセはポテンシャル高いが、逆に高すぎるので採取に向かないのだ。
出来ないわけではないが、本人のとってストレスのたまる作業である。
本当にガベルスネークの死骸を集めた存在。
それは、ウルガニアの長であった。
フルーセとウルガニアは種族的に意志疎通は本来できないが、ウルガニアからの感謝だとフルーセは分かったし、ウルガニアも、感謝を伝えることは出来たと確信していた。
様々な可能性が混ざって今回の危険は発生した。
背景には、様々なことがあるものなのである。




