第十話
さて、テリリアルに向けて出発しているミチヤたちである。
ガベルスネークの毒の解毒剤は、今は頑張ってヨシュアが制作中だ。
シュルワームがさっきからケースのなかで五月蝿いのだが、まあそれはしかたがないとして。
ミチヤはイナーセルと話している。
ヨシュアはまだ12歳。フルーセは長生きしていると思うが(厳密には無論知らないが)、さすがに話すことはできない。
ヨシュアも話すための魔法具は作れるかもしれないが、今は解毒剤作りに専念してもらっている。
イナーセルは、なんだかんだ言って物知りなのだ。
「マスターはどう思ってるんだ?今回の騒動について」
「カテゴリーは違うが、あいつらがなにか面倒なことをするのは想像できていた」
「それって大丈夫なのか?なんか、次また妙なことになりそうだが」
「まず、前提として聞きたい。イナーセルは、召喚された勇者と言うものをどのような存在と認識しているんだ?」
「召喚された勇者ねぇ」
イナーセルはちょっと考える素振りをみせる。
「そうだな、まず、人数はバラバラだな。ステータスが高かったり上がりやすかったりする。でも、魔王軍の驚異が七年ほど前から激減したから、もうしばらくは行われないと思ってたな。オーガの男の平均寿命は160歳で、俺は今は24歳だ。生きている間にもう一度行われるとは思ってなかった」
魔王軍の驚異が激減した?
「その魔王軍の部分、教えてくれないか?」
「俺の故郷は魔王軍の支配領域にまあまあ近い場所だったから知っているんだが、前に召喚された勇者の誰かが魔王と一騎討ちしたらしい。俺もそこから先は知らないけどな」
10人が召喚されて、魔王と戦ったのは一人だけか。
「ただ、その一騎討ちのあと辺りから、魔王軍の驚異が激減したって話だ」
「なんか色々と新事実があったな。城にいたとき、魔王軍の驚異が進んできてるって話だったが……」
「国王デブだったか?」
「ああ」
「それならもうほとんど嘘だな」
判断基準がよく分からない。
いや、納得ができないわけではない。
切羽詰まっているのに何でそんなに裕福な暮らしをしているのか。
他にもいろいろ言いたいことはある。
が、まあ今はいいか。
「……大丈夫なのか?この国」
「それは知らんな。ただ、いつでもどこかに逃げれるように考えておいた方がいいと思うぜ」
「どないやねん」
イナーセルはかなり実力はある方だ。そのイナーセルが言うのだ。絶対訳の分からないことになる。
「王族って言うのはずるがしこいもんだぜ。エルフは長いこと生きているし、その分、同種族間の認識共通もかなり進んでいるから問題はないんだけどな」
竜はそれ以上に長寿命らしいが、それはいいとして。
「イナーセルは勇者についてどう思う?扱いに関して」
「勇者の扱いか。隣の国が完全実力主義でな。確か『ザウスフィード帝国』って言う名前だったか。現皇帝が、強いって言えば強いんだが、まあそこは微妙だ。でも、カリスマがあるんだよ。そのおかげかどうかは知らないが、帝国騎士団は、末端にいる人間までかなり優秀だ」
「やっぱり帝国って言うのはそう言うものなのかね」
「勇者召喚なんてものが行われたんなら多少は興味は持つかもな。まあ、経験主義だから今は来ないだろうけどよ」
ザナークル王国、ザウスフィード帝国、他にもいろいろありそうだな。
人族は全種族の中で数が多いし。
「ただ、親父が言っていたが、今までに行われた勇者召喚において、やっぱり面倒なことになるパターンはあったらしいぜ」
「イナーセルの父親のことも気になるが、まあ今は置いておこう。そのパターン。あるカテゴリーの人物がいることだろう」
「ああ」
「その内容だが『容姿を含め異様にポテンシャルが高い』『無駄に変なカリスマがある』『困ったいたらなんだかんだ言って助ける感じ』『理想世界に住んでいるかのような思考回路を持つ』『ちょっと引くレベルで頑固かつ面倒な性格』って感じか?」
「マスターが言うと、なんかすごく生々しい話に聞こえるんだが」
「というより、現在進行形なんだよ」
イナーセルはかなり遠い目をした。
「あー……国王の傀儡決定ルートだ」
「あと、こんなのもいるぞ。『無駄にポテンシャルが高い』『何でも自分の思い通りになると思っている』『無意識型の強引マイウェイ』みたいなのとかな」
「マスター。なんかすごい人間関係だったんだな」
「仲間じゃなくて同郷だといいたい理由が分かったか?」
「よくわかった」
まあ、失敗を重ねて良く学ぶのだ。勇者たちよ。
若さゆえの過ちというものは誰にでもあるのだから。
あと、俺に迷惑をかけるな。
「ただ、これはいろんな意味で勇者に遭遇すると面倒だな」
「その通り、特に、その、頭がイってる系の勇者がな。奴隷とかそういうのが認められないんだよ」
「……そう言えば、マスターの世界での文化では、奴隷ってどんな扱いなんだ?」
「そうだな。召喚されたとかそんなパターンの世界になると、『戦闘奴隷』とか『労働奴隷』とか『性奴隷』とか、とにかく、持ち主の言うがままって感じだな。奴隷紋があるかどうかは世界によると思うが」
「まあ、漠然と間違っているわけでもねえけど、奴隷って言うのはな、裕福な貴族にとってステータスみたいなもんなんだぜ」
む、ステータス?
「そういうものか?」
「ああ、奴隷商も、奴隷になったものの病気を治す必要はないが、生きる分の食料は出すところが多いしな。奴隷って言うのはな、『奉仕者』か『道具』でしかないっていうのが認識だ。どちらにしてもいろんな意味を含んでいるがな。無論、性的、暴力目的で奴隷を買うものもいる。でも、大切な道具として扱うものも多いんだ。この世界にはな。一度奴隷になると、もうそこから普通の人間に戻ることはできない。大昔に誰かが決めたのさ。だからこそっていうわけでもないけどな」
「複雑、と言うものでもないか」
「奴隷に、主人を裏切る権利はない、俺の故郷にも奴隷制度はあったさ。まあ、ほとんど別の種族だったけどな」
「そういうものか」
「場合によっては、主人の悩みを、最初から最後まで聞いてくれる相手とも言える。奴隷は教養がない場合は多いけど、その分、感情でいろいろ考えるからな。奴隷が言った一言が主人の活力になって、大成功につながったっていう話もある。人族主義のこの国も、俺らみたいなのは亜人だから差別することはあっても、奴隷だからって何か言ってくることはないさ」
ミチヤが考えていた状況が無いわけではない。
しかし、考え方は変えた方がよさそうだ。
「ただ、奴隷があまりにも笑顔でいすぎると、引きこもりだったりとかボッチだったりとかすぐに見抜かれたり誤解されたりするから気を付けろよ」
「……よく覚えておこう」
「でもやっぱり、笑顔の方がいいと思うけどな」
「それは同感だ」
この世界も、多分、誰かが生み出した世界なのだろう。
そんな中にも、様々な形がある。
ミチヤたちは、アムネシアの人間からすれば異世界人だ。
いらない偏見を持ったりして、変な方向に突っ走ったりすることもあるだろう。
ただ、目の前にいる人間が、本当の意味で悪なのか、正義なのか、それはしっかりと見分ける必要があるだろうし、その技術は、まだミチヤには足りない。
食物連鎖が恐ろしいほど機能しているので、何事もやりすぎてはいけないし、また、やらなさ過ぎるのもだめだ。
ただまあ、自然と言うのは、守ろうと思ってやれるほど弱いものでもないし、そのあたりの配慮は必要最低限でいいかもしれないが。
まあいい。今は、テリリアルの問題を解決しよう。




