エイフィア・バーン・ホーエン
「さあ、今日からここが君の家だ」
あの集会が終わり俺とエルフの美女は彼女の家に戻ってきていた。
帰り道、彼女の名前がエイフィアだと。シルフィーの時と同じやり方で教えてもらった。俺の名前の方は彼女はもう知っているようだったが。シルフィーにでも聞いたのかもしれない。
本が乱雑に散らかった部屋で、エルフの美女エイフィアは伝わらない言葉でそう俺に歓迎する。歓迎受けた俺は散らかった部屋を見渡し、改めて見る部屋の惨状に顔が引きつる。すると奥の扉、自分が眠っていた寝室兼書斎室の扉が勢いよく開いた。
「ユキトどうだったぁああ!!」
その言葉と共に扉から勢いよく飛び出した金髪の少女、シルフィーは床に散らばる本を飛び越しこちらの方へ駆け寄る。すぐに俺を確認するとそのまま的を美女から俺にに標準を移した。そのまま俺の前まで走り寄り、止まろうとするが足元の本にふらつき、完全に速度を止まりきれずに俺の胸に顔をぶつけた。
『うわっと』
「あいたた・・・ユキト!!大丈夫だった!?ねえエイフィア!!どうなったの??」
シルフィーの突撃でバランスを崩すが、どうにか体勢を立て直すと、俺の胸からシルフィーの顔が離れると同時に、慌ただしくエイフィアに問いただす。
「大丈夫シルフィー、とりあえずユキトはこの村で暮らしていいとさ、まあ条件とかおいおい出てくると思うけど」
「はぁ、良かったー・・・え?条件って」
「そうだね・・・例えば、外出は一人では駄目とか、今、足にとりあえず鎖無しの足枷つけてるけど、鎖か重りを付け足すとか、手錠を新たにつけるとか・・・かな?」
「なんで!?」
二人の会話を全く理解できてない俺を置いてシルフィーは俺の服の胸の辺りを両手で掴んだまま、エイフィアに先程より声を少し張り疑問を投げかける。
「ここの住人たちはこの子を信用していない。いくら森が認めたとしてもね。それにまだエルクの村から避難してくる者もいると思うし、この件を聞きつけて他の村や町からも来るだろうからね。
となると沢山のエルフ達、特にエルクのエルフからすると、ヒュムの彼は警戒と怒りの対象になる。少しでも自由にはさせたくはないってことになるだろうからね」
「・・・そんな・・・ユキトは悪いことしてないのに!!それに守ってくれたんだよ!!
森も入れてくれたじゃない!!おかしいよ!!お爺ちゃんも森が認めたらみんな仲間だって言ってたもん!!」
エイフィアの言った話を聞くと、シルフィーは強い口調で言葉をぶちまける。エイフィアは、苦笑いでがシルフィーの言葉を受けていた。
一方俺は二人の会話を理解できないまま、まだ寝癖の治っていない後頭部をかきながら、二人の会話を聞くしかなかった。
エイフィアがシルフィーの頭に手をのせ撫で始める。するとシルフィの口は止まり、静かになったところを見計らってエイフィアが口をあける。
「大丈夫シルフィー、私は一応君やユキト君の味方だから、それにまあ、大人達もいくらヒュムだろうと子供ひ手荒なことはしないさ、大丈夫、エルフは森の意思は守るよ。もう一つ言えば、さっき言ったことはあくまで可能性だからね。大丈夫、彼は君たちを守った実績があるから、早々悪いようにはならないさ。
とりあえず。今は言葉が通じないから、この先どうするのか、ユキト君自身の目的や意思もわからない。
ここで言葉を教えながら、ユキト君自身の意思で、ここに残るか出るか決めるようにするさ」
頭を撫で、シルフィーのをなだめるように話すエイフィア。シルフィーは少し不満気ながらも、頬を膨らませコクっと頷く。
「じゃあシルフィー、みんなの所へお戻り、ユキト君ははここで預かるから」
「えーなんで!私もここにいる!」
「君だけいないと他の皆が心配するだろ?もう、お兄さんも戻っている頃だと思うし、それに集会で泣いていたよ、妹の君が慰めてやらないと」
「え!?本当にお兄ちゃんが!?」
「うん、あ、私が言ったってことは内緒にしててね」
「うん、わかった・・・私戻る」
エイフィアの言葉にシルフィーは、あわてて外への扉を手に掛けると、俺に視線を移す。
「じゃあね、ユキト!また来るから、またね!エイフィアも!」
手を小さく振りながら扉を開ける。そんなシルフィーに手を振り返しながら、お互い理解できない言葉だが、自然と口が動き返事する。
『おう、じゃあな!シルフィー』
なぜか、また会えるだろうと思ってしまった。扉が閉まり、シルフィーが出て行った後、小さく『またな』と呟いた。
「はあ、私はついでかー、言葉がわからないのに良くこんなに親密になったもんだね。関心するよ・・・」
シルフィーがいなくなり、少し前までユキトが眠っていた寝室兼書斎室に移動した二人。エイフィアは無雑作に椅子を2台取り出し向かい合わせに並べる、片方に自分が座ると対面した椅子をトントンと叩き、ここに座れと俺を誘導させる。
何をするか理解できなかったが、まあ、従うしかないと恐る恐るその椅子に座った。
「さて、じゃあいくよ」
そう言い俺の頭に手を置き、自分の額と俺の額を付け、瞳を閉じる。一方、恥ずかしさで戸惑ってしまう俺はとりあえず少しでもこの羞恥から遠ざけようとエイフィア同様目を閉じた。
すると頭の中を何か入って来るような感覚がしたら、まるで頭の中に水が入って来るような感覚。気持ち悪くはない。心地よくもないが・・・しばらくして、目を開けようとした瞬間、突然頭に激痛が走った。
『っ・・・!!っがぁ!!〜〜〜〜!?」
頭を中を何かが暴れているような激痛。そのまま椅子から転げ落ち、うずくまる。突然の痛みに思考を奪われ、徐々に意識が暗転する。かすかな視界の中、エイフィアの顔が映る。笑みが消え少し慌てているようだ。痛みは少しずつ引いていくのがわかる。がそれと同時に意識は完全に落ちていった。
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沢山の文字と言葉がが頭の中で暴れている。初めて見るその文字や言葉、濁流のように強引に流れるそれら、でもなぜかその意味が理解できる気がした。そして、言葉と共に流れる音や風景、物語、そして人達・・・違うエルフ達だ。これは記憶だ。でも誰の?・・・あぁ、そうか、これはあの美女だ。幼さを残した美女エイフィア。これは彼女の記憶、そして知識、そして思い出。
知識と記憶の濁流の夢が唐突に終わり、視界に入ったのは天井。この天井を見るのは2度目になる。
あのエイフィアと額を合わせた瞬間。頭の中に流れた何か、夢の中で見ていたもの、あれは何だったのか何も思い出せない。
『・・・っ』
頭の中には、荒らされたような違和感と、頭痛が残っている。まだフラフラとする意識の中、まだ痛む左腕を庇いながら起き上がる。
頭痛で意識が無くなる前と同じ、沢山の本で散らかった部屋を見渡すが、そこにエイフィアの姿はない。ベットの横にある対面した椅子が、あの頭の激痛の前までは夢ではなかったんだとどうにか解った。
部屋の扉の向こうから歩く足音がする。そしてその音が扉のところまで来ると静かに扉が開く。
姿を見せたのは、あの美女、エイフィアだ。
「あ、起きたようだね。おはよう、もう夜だけどね。」
そう言い彼女は対面した椅子のうち一つをベットの横に付け、そこに腰を下ろす。
「大丈夫かい?かなり痛がっていたけど。すまない、一気に入れすぎたのかもしれない」
彼女の声を聞き違和感を覚える。言葉の意味はわからないでも、なんとなく理解できたのだ。なんとなくではない。言葉もわからないが、何故か、それはそういう意味だと、そう思ってしまった。
頭の痛みは未だ続いていた。最初に痛み程ではないが、それでも逃げたくなるような痛みに頭を片手で抱える。
『くそ、何しやがった、この女』
『君の言葉で言うなら、記憶の交換、いや同調が正しいのかな?』
この世界に来て、自分しか話さなかった言葉、聞きたかった言葉がエイフィアの綺麗な声で聞こえた。頭痛が吹き飛んだような感覚。本当に彼女の口から聞こえたのか信じられず、目を開き唖然とエイフィアを見る。
『あ、英語でシンクロなんてかっこいいのかな?まあ、君の記憶をちょっともらったって感じかな。君にも少しは私の記憶が送られたと思うんだけど・・・・あれ?伝わってる?』
いきなり流暢に日本語を話すエイフィア、頭痛で意識を失うまで、一切日本語が通じてなかった相手がいきなり話し始めたことに理解できず反応が遅れる。
『・・・あぁ、伝わってる』
数秒遅れて返事をする。この世界に来て、初めて会話をすることができた。が、なぜか喜びは余り感じられなかった。顔に手を当て考え込む。エイフィアはそんなユキトを静かに見ていた。
『・・・・エルフ、魔法、まあ、そうだよな』
自分で納得するようにそうつぶやく、そしてエイフィアに視線を移す。
『俺の記憶から日本語学んだってこと・・・ですか?』
ユキトの返答を聞き、エイフィアは楽しいかのように微笑み、口を開ける。
『うん、そうだよ。でも君にもこっちの言葉の知識も入っているはずだけど・・・上手くいってないか・・・・やっぱり、まだ慣れていなかったみたいだね・・・』
『・・・え?・・・じゃあこの頭痛て、もしかしたら慣れてないからだったりします』
『あーいやー、それは本当にごめん、うまくいくと思ったんだけど、私からするのはなんせ初めてなもんでね』
『は?』
彼女の言葉に絶句した。記憶の同調、危険なことぐらいは異世界初心者の自分でも解った。この美女は、下手をすれば人格が壊れるかもしれないことを、テスト無しに平然と俺に、この記憶の同調を行なったのだ。
『文字と発音やら、この生活に必要なことを一気に入れすぎたのかもしれない。他にも多分、それ以外のこともね。
『多分初めて知識が沢山来たから拒絶反応が来たのかもしれない。あとは慣れの問題かな・・・
やっぱり、父の時よりも魔力が似ていたから、上手くいきすぎたのかな・・・』
一人でブツブツと考え込んだ黄金の髪の美女のエルフ、本人には頭痛などはないみたいだ。
記憶の同調、上手く行けば簡単にこの世界の言葉を知ることができるということ。あんな激痛は勘弁だが、少し興味が湧く話だ。そして彼女が一旦独り言をやめ、下に向いていた視線が俺に移る。
『まあ後々調整するとして、取りあえず、自己紹介がまだだったね。
ま、名前だけなら知ってると思うけど、私はエイフィア・バーン・ホーエン
よろしく』
そう言って握手を誘うように右手を出すエイフィアと言う美女。少し戸惑いながらその手を握る。
『・・・は、はい。よろしくお願いします』
真っ直ぐに自分を見る視線を受けながら、言葉を返す。同調の件で少し、この人は大丈夫なのかと心配をしたが、見れば見る程、その麗人は美しかった。
『うん、そしてここはエルフの隠れ里アルファナ
君は森に認められたんだ。心から歓迎するよ。
ツグモト・ユキト君』