アデルの剣術指南
エルフの長老リンゲルの訪問から翌朝、俺とエイフィアは、早朝に突然来たシルフィーに連れられ、稽古場に足を運んでいた。
「ふぁーあ・・・あー、眠い」
「昨晩は遅かったからね」
無気力に素振りをしながら、大きな欠伸をする俺にエイフィアは声をかけた。
昨晩、リンゲル長老は俺が元いた世界の文化や歴史を興味深そうに聞き入り、夜が更けた頃に帰って行った。
おそらく深夜を軽く超えていたせいか、今日は寝不足である。
「まあ、割と楽しかったからいいけどな」
嘘ではない、自分の話を興味津々に聞いてくれるのは案外嬉しいもので、自分自身、時間のことは忘れ、話すことに夢中になっていた。
「近いうちに、また来るかもしれないね、長老様、未だに知識欲強いから」
雑談をしている俺とエイフィアところに一人の男性が近づいてきた。
「おはよう、よく来たな、エイフィア、ユキト」
エルフ最強と呼ばれる剣士アデルだ。
「おはよう、アデル」
「おはようございます。アデルさん。」
そう行って俺は軽く頭を下げた。
「今日は参加してみるか?」
「え、あーいえ、端の方で素振りだけさせて貰います」
アデルさんの質問に苦笑いで返す。
「遠慮ならいらんぞ?君は恩人なんだ」
「恩人だなんて、逆ですよ逆」
「そんなことはないさ、まあ君が教わりたいと思ったいつでも気軽に言ってくれ、私にできることと言えばこのくらいしかないからな」
「はい、勇気がでたらそうさせてもらいます」
「勇気なら、もう十分あると思うが・・・そうか、じゃあ皆のところに戻るが、用があれば声をかけてくれ」
「はい、有難うございます」
アデルさんが皆のところに戻ったところを見計らってエイフィアが口を開けた。
「参加すればいいのに稽古」
「絶対ヤダ、見ていろよ、この間の兄ちゃんたち来てんじゃん」
「あー昨日の子供達ね、レイル君、ミール君とシカルタ君、あ、女の子も来てるね、ティーシャちゃんにミリアちゃん。ほんとに来たんだね」
「絶対、嫌そうな顔するぞあいつら、ほら眼つけてきた」
カレル達と共に稽古をしていたレイルと目が合う。レイルは敵でも見るかのように目を鋭くした。
「剣だけなら、あの五人と相手してもいけるんじゃないかな」
「それはフィンデルトさん並みの力と速さがあったらだろうが」
「その体作りのためにも稽古には参加した方がいいんじゃない?」
「だから、怖い言ってるだろ」
「ヘタレ」
「なんとでも言えよアホ」
「童貞」
『喪女』
「何その言葉?気になるね、漢字はどう書くの?」
知らない言葉を聞き、エイフィアは目を輝かせた。
日本語を発して、最近こっちの言葉が主体になってきていることに気づく。エイフィアと話すときは日本語でいいのに、
ここの世界に馴染んで来た証拠か・・・少し寂しさを感じた。
「教えなーーい」
『・・・・これは、帰ったら同調だね』
エイファアが悪巧みをしたような表情で言う
『ふざけんな!!そんなことで簡単にすんなよ!!アホかお前!』
『一度知ってもらった以上、とことん付き合ってもらわないとね、それに君には損なんてなんいじゃない』
『罪悪感あんだよ、なんかさ・・・』
『これは特権だよ。せっかく君には同調ができる素質があるのに』
『この同調って、やっぱ俺が森に召喚されたもんだからできるのか?』
『多分ね、父が過去にした時は、色々と失敗してたし、同じハイエルフの私しか出来なかったところを見ると、可能性としては、ハイエルフか高い処理能力を持つ個体にしかこと同調は無理なんだろうね』
『ほんと俺とした時、壊れたらどうするつもりだったんだよ』
『それは大丈夫だって、君がハイエルフに近いものだってわかってたし、同調をする前にテストもっしたよ』
『テスト?初耳なんですけど・・・あ、お前実は俺に送る情報選択できるようになってんだろ!』
『あはは、それはまだ完成してないよ、どうしても関係のない記憶も君に行っているはずだよ。
まだまだ同調も穴だらけみたいだね』
『ほんとかよ・・・テストってどんな?』
『君が寝ている時にね色々と調べさせてもらったんだ。魔力の量や質、その時にどうも私との魔力の相性が良くてね、君がハイエルフに近いものだってわかったのもその時かな』
素振りをしながら、彼女に耳を傾ける。
『前に言ったけど、同調する時も、父よりも魔力が綺麗に合うもんだから記憶が思ったよりスムーズに流れてしまってね、それが君がぶっ倒れた理由、、ホントあんなに勢いよく流れたから私もびっくりしたよ、私も頭痛かったなあれ、他の人にしたら多分、頭痛だけで終わって、記憶なんてお互いに流れることもないからね』
『あれはびっくりしたわマジで、もう2度とごめんだぞ』
『あはは、もうそんなことはないって、まあ話を戻すけど君の言うずるいとか罪悪感を感じる必要はないと思うな』
『・・・・・』
『例えば、前の奴隷狩りの時のような件がまた起こったとして、君がこれを十分に使えれば、皆を助けるんじゃないかな?』
『・・・待てよ、もしかして、お前の同調使って、エルフを守らせるために俺を召喚したのか?』
『さあどうだろう、そうするならエルフの誰かに力を配ればいいし、森が私ならもっと優秀な人を召喚すると思うし、多分君は偶然に近いものだと考えるのが普通だね・・・』
『あーそうでしょうね!』
『君がここに来た理由はともかく、この力を持っていながら、それを生かさずに、もし、身近な誰かに何かが起こった時。
そんなことになれば、そのことをずっと後悔すると思うよ?君は。
自分は怠惰だったと、ずっと責めてしまうんじゃないかな?』
『そこまで情とか厚くないぞ俺は・・・』
『本当にそうかな?』
『・・・脅しに聞こえるぞ』
『そうかな?第一に君自身を守る為にもなると思うんだけどな、君という存在がこの森になにか重要な意味があると思ったから、君自身の身を守る為にも同調をしたんだ。
ま、半分は知識欲もあるんだけど』
そうやって彼女は可笑しそうに微笑する。
『・・・・・・』
少しを沈黙が続く。周りの稽古の音と素振りの音だけが妙に大きく聞こえていた。
エイフィアはいつもの笑みを崩さずに俺に視線を当てる。
『・・・・あーー!!わかったよ!行きますよ!変に勘付かれても知らねーからな!!』
『私は何も言ってないけど?』
彼女が、俺がそう決断するのをわかっていたかのようにそう言った。
『言ってたようなもんだろ!!』
そのままエイフィアに背を向け、俺はアデルさんが稽古をしている方へ歩きはじめた。
すると後ろからエイフィアの声が届いた。
『私もたまには参加しようかな』
『は?』
『あんなこと言っておいて私だけしないというわけにはいかないからね』
『・・・・また貧血起こすぞ』
『最近は食生活もいいし、大丈夫だよきっと』
『・・・倒れても知らんからな』
『うん、気をつけるよ』
以前、木の棒を使って彼女と剣を合わせたことがある。フィンデルトの剣術が馴染んでいるか確かめるためだ。軽くあしらわれて終わった後、彼女が貧血を起こし倒れたことを思い出した。
エイフィアと共に緊張しながら一歩一歩、アデルさんの元へ近づく。
他の子供達は二人一組で対人稽古をしているようだ。皆集中しているおかげでいつもの嫌な視線を受けなくて済む。
声が届く距離に近づくと、気配に気づいたのか、アデルさんはこちらを振り返る。
「どうした?二人とも」
「剣を教えてもらおうと思ってね、この子も一緒に」
「あ、あの・・・・よろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げる。
「そうか、やる気になってくれたのか・・・エイフィア、お前もするのか?」
「うん、久々に体を動かそうと思って」
そう言いながら近くに掛けてある、刃を潰した稽古用の剣を取ると、感触を確かめようにそれを振る。
明らかに稽古をするような恰好ではないが、やけにその姿が似合っているような気がした。
「大丈夫か?お前は激しい運動は・・・」
アデルさんの表情が心配そうな顔に変わる。
「大丈夫、軽くだよ、たまにしないと動かなくなるから」
「・・・そうか・・・・・どうする?俺は彼の相手をしようと思うが、君は・・・・」
「カレル君の相手でもしようかな、彼、もう大人や一回り上の子じゃないと相手に困ってるんじゃない?」
「まあ確かにな、エイフィアならカレルもいい稽古になるか・・・・頼むよ」
カレルか、今シルフィーの相手をしているが、確かにカレル自身の稽古にはなっていないようだ。シルフィーも楽しそうに剣を振るが、カレルは余裕そうにそれを捌いている。
やっぱりあいつそんなに強いのか・・・
「じゃあユキト、行ってくるよ、頑張ってね」
「ああ、お前もな・・・・・無理すんなよ」
「うん、気を付けるって、じゃ」
軽く言葉を交わし、エイフィアはカレル達の元へ向かった。
「じゃあ少し場所を変えようか」
「あ、はい」
アデルさんの歩みだし、少し気まずさを覚えながらも俺はそのあとを付いていく。
流石に稽古をしている他のエルフの視線が突き刺さる。まあ、前に比べれば慣れた気がした。
マンツーマンかかなり緊張する。
そのままそばに立つ大樹の裏へと移動する。大樹のおかげで訓練をしている子供達から見えない位置だ。
これはかなり精神的に楽だ。気を使ってくれたのか。本当にありがたい。
「じゃあ、今日はとりあえず昨日のみたいに好きなだけ私に攻撃してきてくれ」
「あ、はい、わかりました」
とりあえず全力で振っていればフィンデルトの剣に似ているとは思われないだろうし、最悪エイフィアに教えてもらったといえば怪しまれることもないだろう。
とりあえず昨日アデルさんに教えてもらった持ち方で守り構える。
「お、しっかり覚えてるじゃないか、そうだ、だがもう少し方の力を抜いたほうがいい」
「あ、はい」
「緊張しているか?」
「・・・はい、かなり」
「はははそうか、まずは、しっかりと振ることだけを意識すればいい、後のことは気にするな」
アデルさんは言い終わると片手に剣を構える。表情は朗らかだが、その立ち姿に威圧感を覚え俺は唾を飲み込んだ。
「あ、はい」
「・・・いつでもいいぞ」
「はい、じゃあ、よろしくお願いします!」
躊躇いながらもアデルさんに向かい駆け出す。昨日教わった握り、型でアデルさん目掛け剣を振った。
ギン、と剣と剣が当たり、金属の衝撃音が鳴る。昨日とは違いアデルさんは避けずに剣で受ける。がその衝撃で俺の振った剣は、軌道を変えアデルさんの横をすり抜け、地面に直撃する。
昨日よりも明らかに強い衝撃が剣から手、そして腕へと走る。
「つ!!〜〜〜〜〜〜ってぇ!!」
痛みに堪え兼ね、手から剣が地面に落ちる。
ーーー乗せられたーーー
と即座に理解した。俺の剣を受けその衝撃にアデルさんの力も加え流したのだ。
おかげで自分では振ることができないような力で地面を叩いたことになったのだ。
「大丈夫か?」
アデルさんが心配そうに尋ねる。
「〜〜〜!?いえ、大丈夫です。思ったよりも痛くて」
「すまない、思ったよりも乗せてしまったみたいだ・・・やれるか?」
「はい、ちょっとだけ待ってください」
手の痛みが和らぐの待ち、剣を拾う。
「すみません、またよろしくお願いします」
「ああ、もう少し続くように手加減するよ、好きなように来てくれ」
「・・・はい」
内心はもうやめたいが、自分から頼んだ稽古だ、早々にリタイアは言い出せない。
未だ手に残る痛みを我慢し再びアデルさん目掛け駆け出した。
横からの一振り。アデルさん目掛け振られた剣は、アデルさんの剣に受け流される。
勢いは失わない自らの剣に身体を振られ、バランスを崩す。
「!?っうわっと!?」
どうにか脚をバタつかせ倒れる前にバランスを立て直す。
「腕だけで振るな、まだ君にその件は重いだろうが、脚と身体を使えば十分に振れるはずだ」
「ーーーーっ!はい!」
再びアデルさん目掛け何度も剣を振る。アデルさんはその全てを剣を受け流し、ぎん、ぎんと金属音が鳴る。
剣と剣が触れ合う度に手に伝わる痛みに耐え、剣の勢いに身体を振られながらも、必死で体制を立て直し、剣を振る。
腕が悲鳴をあげ、手が痺れていき。踏ん張る度に足が張っていくのがわかる。体幹は力をなくし、剣に振られ、徐々にバランスど取れなくなっていく。
「ーーーっあああああ!!」
数分も経たず全身に限界が訪れ、悲痛にも似た声を上げながら振った剣をアデルさんが受けた瞬間、衝撃に耐え切れなかった手を離れ剣が宙を舞い、地面に転がった。
「ーーーっハァ!ハア!ハア!!!」
剣が手から離れたと同時に足が限界に達し、その場に膝をつく、同時に付いた力のない手
はその体重を支え切れず身体は地面にへばり付いた。
必死に空気を体に取り込めようと、肩を上下に揺れる。
アデルさんは地面に落ちた剣を拾う
「肩の力を抜け、ずっと力んでいては消耗も激しい。後は振っている最中も相手を見ることを心掛けろ、そうすれば自ずと次の手が見えてくるはずだ。
まあ、最初にしてはいい線行っている」
「はあ!!はっ!はい、気をつけますーーーっはぁ!ありがとう、ござ、います」
乱れた息で、必死にアデルさんの言葉に応答する。
「ははは、最初は皆そんなもんだよ。特に君は体力ができていないからな、少しずつ鍛えていけばいいさ。まあ、しばらく休憩していなさい、他の子を見てくる。」
「ーーーっは、っはい!はっ!すみませんそ、そうさせてもらいます」
俺に落ちた剣を渡すと、そう行って彼は大樹の反対側、他の皆の稽古へと姿を消した。
肩を上下させながら近場にある木の根に腰を下ろす。
痛みを感じ自分の掌を見ると新たに出来た肉刺が破れ皮がめくれいていた。
剣を振った回数は然程多くないだろう。恐らく2、3分程しか振ってはいない、それでこんなにも痛々しく手は赤みを帯び肉刺からは血が滲んでいた。
「大丈夫??」
後ろからかけられた女の子の声に振り向く。
大樹の根の陰からひょこっと顔だしていたのは、先程カレルと楽しそうに稽古をしていたシルフィーだ。
「手痛そう、回復するね」
エルフの少女シルフィーはそういうと俺の横に座る。
「ほら手だして」
「・・・ああすまん」
だした両手にシルフィーは手をかざすと、そこが淡く光る。
するとエイフィアの時同様に徐々に痛みがなくなる。
「稽古はいいのか?」
「うん、お兄ちゃんの相手エイフィアがしてるし、退屈で来ちゃった」
「お前もすげえよな、結構な時間剣振ってただろ。俺少し振っただけでこんな感じでさ」
「私たち何年も前から振ってたし・・・あれ?ユキト治り早い?」
「そうか??シルフィーが優秀なんだろ」
「そっかな、えへへへ」
ま、そうだろうな・・・
森に好かれているから・・・か。
色々調べてみないとな、俺がここに来た理由があるのか、それとも偶然なのか・・・
「よし!このくらいかな??」
「ああ、ありがとな、もう全然痛くないな」
そうお礼をいいながら手を握ったり開いたりを繰り返す。本当に便利な魔法だと実感する。
「さて、息も整ったし、素振りでもするか」
「じゃあ私と稽古しよ!!」
「え・・・手加減してくれるか??」
「うん!」
少し不安だが断れば落ち込むのが想像できた。まあ体力付けにも、丁度いいかもしれない。
向かい合わせに立つと、お互いに剣を構える。
「マジで手加減してくれよ」
「うん!」
元気よく返事をするシルフィー、同調で技や経験ならシルフィーよりも上なのは確実だが、体や体力がついていくかが心配だ。
まあ勝つつもりはないけど体力付けるためにも長続きはしたいしな。
「じゃ!いっくよー!」
先に仕掛けたのはシルフィーだった。上段からの振り下ろし。
避けるか受けるかをしなければ確実怪我をするだろう。
とっさに横に避ける。
ーーー手加減は!?
横に避けたが、シルフィーの目は確実に俺を捕まえていて次の剣が俺めがけ振られるのはは直ぐに理解できた。
体制的に避けられない。当たれば怪我をするのは確実、受けるしかない。
俺めがけ横に振られた剣、それをとっさに受けた。が予想より大きな威力を殺せず。自分の剣が頭に直撃。視界がぐるりと回る。そして気絶したのだった。