エルフとの生活3
「とりあえずこれを持ってみろ、子供には少し長く感じるかもしれないが、一般的な片手剣だ。まあ戦闘になると両手で使うことも多いがな、形もいろんな種類があるが、それは後々選んでいけばいいさ」
アルファナの里の端にある稽古場、不運にも断ることができずにエルフ最強の剣士に剣を教わることになった俺とエイフィア達はエルクの住人用の稽古場に着く。カレル達は個々で準備運動をし素振りや、実戦的な試合をしながらアデルさんの指示の元稽古を始めていた。とりあえず稽古指導がひと段落したアデルさんに俺は剣を持たされていた。
「うわ、おも、ホンモンじゃん、木剣とかと思ってました」
「刃は潰してあるから大丈夫だ。木剣より本物に近いものの方がいいからな」
「へぇ・・・てか、すごい音ですね」
「ああ、森の中で実戦演習やら魔法の練習があってるんだろう」
まるで爆弾が爆発したような音だ、離れているはずなのに隣の剣が打ち合う金属音に負けていない音はその激しさを想像させ、身震いした。
―――ほんとにやばいところに来てしまった。
森の中以外でも、見渡せば少し離れた稽古場で他の子供達、若者が剣、槍、弓、魔法、様々な稽古、訓練に励んでいる。剣を打ち鳴らす音や、衝撃音が辺り一面に響きわたっている。
どうやら、グループや武器、流派、教え方や年齢によって稽古場は分かれいているようだ。そしてエルクの村、そして奴隷狩り一件を聞き、アルファナに避難してきたエルフ達は一番森に近い里のはずれを稽古場にもらったようだ。木の柵や地面に刺さっている丸太のかかしがまだ新しい。おそらくあの一件以降に人が増えて狭くなっ為、増設したのだろう。ところどころに切ったばかりの大きなの切り株が見える。
丁度その切り株にはエイフィアとラテアさんが荷物を置き、ベンチ代わりに座って談笑している。
もしかしてラテアさん、手伝いじゃなくて、話し相手がほしかっただけじゃ・・・・
「では、ユキト、とりあえず私を敵だと剣を振ってみろ」
「・・・はい?」
「安心しろ、私は避けるだけだ反撃はしない」
「えッと、最初は素振りとか方とかじゃ・・・・」
「まあ、そうなんだが、とりあえず君の癖というか、どの程度か見てみたいのでな」
「・・・・がっかりしますよ」
「ははは、君みたいなのは珍しいよ」
どうせ華麗に避けて一発もあたらないんでしょ。
とりあえず全力ではいってみるつもりだが。不安はある。彼の記憶だ。エイフィアも予想はしてるはずだが・・・・
「いいぞ、どこからでも」
アデルを向き、剣を前に構える。緊張して手に汗をかいているのがわかる。深呼吸をし一気に前に駆け出す。
アデルさんが剣の間合いに入る。最初の一振り、上から縦に振った剣を案の定綺麗に横に避ける。どうせ避けられるのはわかっていた。すぐにアデルさんが避けた方に剣を横に振る。
が剣を振った先、彼の姿は消えていた。次の瞬間、首にトンと何かが触れた、それは彼の指だとすぐに理解した。すぐさま地面を蹴り体を反転させながら後ろにめがけら剣を上から斜めに振った。
剣は宙を切り地面に思いっきり当たり、振動が手に伝わる。
「っーーーきっくうう~」
「・・・まあ悪くはなかったぞ」
前方から声の聴きこえ痛みで閉じた目を開ける、気付けば彼は剣の間合いの半歩外に何事ももなかったように悠然と立っていた。
「・・・・それは、あ、ありがとうございます」
ーーーーー
その後、剣の待ち方、素振りを教えて貰い、先程の3振りを見ただけで彼は幾つかのアドバイスくれた。
とりあえず、素振りをして剣に慣れろと言った後、アデルさんは、カレル達の指導に戻っていく。
とりあえず素振りをしていると横からエイフィアが声をかけて来た。
「力みすぎ、剣を握りすぎ、腕だけで振るな、だってね」
「・・・バレてねーよな」
「うん、大丈夫だと思うよ、あんな下手くそな振り方、父さんならしないから」
「しばらくはフィンデルトさんの振り方しないようにしないとな、はあ、変なクセ付きそう」
剣を振りながら横に座るエイフィアと会話を続ける。
「なにも考えず振ったらやっぱりそうなるんだね」
「お前もか?」
「剣の稽古なんて、数回しかしたことないけどね。さっきの5人くらいなら余裕で勝てるよ」
「・・・この同調、危険過ぎだろ」
「そうだね、もし、誰にでも使えるようになったら、この世は達人で溢れかえる」
「・・・なんで俺にしたんだよ」
「もう、理由は知ってるんじゃないのかい?」
「・・・荷が重いわ」
「・・・素振り、出てるよ」
「あぶね、アデル見てないよな?」
「うん大丈夫、私が見てるから・・・呼び捨て」
「あ、しまった、、普通に言っちまった。・・・あれか、フィンデルトさんの記憶の方が多いからか?」
「だろうね」
「こうも身体に馴染むもんなんだな、気をつけねーと」
エイフィアの同調で入ってきたフィンデルト・バーン・ホーエンの記憶、彼が習得していた剣術・魔法の知識、経験が今回の、フィンデルトの親友であったアデルと出会い、剣を握ったことでその記憶がより鮮明に思い出された。その前まではうる覚えに近かった記憶や剣術も自然と体に馴染んでいた。
「不思議だな、最初はアデルさん怖かったんだけどな、なんかもう普通にタメ口しそうで怖いわ」
「いいんじゃない?怒らないと思うよ」
「アデルさん怒らなくても他の奴が起こるだろ、アデル様に無礼であるぞ!!みたいな感じで」
「それはそれで面白そうだけどね」
「お前はな」
同調のせいだろう、俺は童貞なのにエルフ一の美貌を誇るこの女に何の緊張もしなくなっていた。
女性として意識していたのは、精々最初の一週間くらいだ。今となっては兄弟のようにためらいなく話せてしまう。彼女の記憶があるせいか、それとも黒歴史をすべて知られ開き直っているのか、もしくは美人は3日で飽きる、と言う説が本当だったのか、俺自身わかっていない。
だが考えてみるとラテアさんの場合はそうではない、ちゃんと女性として意識するし、特にあの胸にはムラムラしてしまっている。
仮説としては、彼女の同調によって、たくさんの記憶を共有し、彼女とはよくある幼馴染や、女兄弟と同じ感覚になっているのかもしれない。エイフィアが薄着の時、健全な男子として目が行ってしまうところを見ると、幼馴染の線が強いかもしれない。
「エイフィアー!!私も混ぜてよ、暇ーーー!」
少し離れたところからラテアさんの声が聞こえた。
切株のベンチで置き去りにされていた彼女がこちらに歩み寄ってくる。
「二人で仲良く話してないで私も入れてよ。」
そういって歩み寄る彼女の放漫な胸が一歩進むたびに揺れる。
俺の脳内は素振りどころではない。全神経は目に集中していた。
「君は手伝いじゃなくて話し相手がほしかったんだね」
「あ、ばれた?、にしてもユキト君、エイフィアとは普通に話すよね、私の時も同じかんじでいいのに」
「いやー、ほらエイフィア・・・さんとは毎日いますから」
「ほら敬語、はい今から敬語禁止!さん付けも無しね!」
ラテアさんは楽しそうにルールを作る。
やめて!女性を呼び捨てなんて童貞には恥ずかしくてできません!
「ほらほらー、行ってみなよーそれとも私のいうことが聞けないのかい?」
ニタニタ顔で顔を寄せてくると同時に前かがみになるラテアさんの谷間が強調される。
「いやー、あ、あのちょっと、近い、、」
やめてください、公共の場で俺の息子が起き上がってしまう。転生2週間でこの世界に黒歴史を残してしまう。必死に目線を逸らそうとするが、自然と目はその谷間へと吸い寄せられる。
なんて吸引力の強い谷間なんだ!
「ラテア・・・あんまりいじめると、嫌われるよ?」
「えーだってさ、この森いたら他の種族とか全然会わないしさー」
そう言って姿勢を戻すラテアさん、誘惑の谷間が離れていく。助かったと思いながらも残念な気分になる。
「それに、この子が私の胸見ないようにしてるのが面白いし」
「え?」
・・・・バレてたの??
「おうおう、ちっこいくせして、ませてんなこのガキんちょは」
ニタニタと笑いながら、ラテアさん、指で俺の額をつつく。
「私から見てもまるわかりだったよ」
「いやーガキをおちょくるのは面白いね」
『・・・・ああ、俺の純情をもてあそばれた』
恥ずかしさの余り膝がガクッと折れ、その場にへたり込む。
終わった俺の印象にスケベ小僧が追加された・・・・
だってしょうがないじゃん!!胸元強調する服装しやがって!!
・・・あ、まさかその服装もわざとか!?畜生!!
「そんなに落ち込むなって!大丈夫大丈夫、他の男共も同じ感じだから!」
「まあ、君にしては見ないように頑張ってたと思うよ」
「ああ、最悪だ、部屋に引きこもりたい。もう帰る」
今すぐにでもエイフィアの家に逃げ帰りたい。
「いいじゃないか、ヒュムとしちゃ健全だと思うよ」
「ヒュムって成長が早い分ちっさい頃からスケベなんだねー」
二人の美女がニタニタと俺をからかう。普通ならこんな状況ご褒美でしかないのだろうが、今回は恥ずかしさやらで少しでも逃れたい。
「じゃ!素振りあるんであっち行ってきます!!」
と話題を変え、二人から離れる。
くそ、同調じゃこんなこと一切わからなかった、同調でかなりの知識を共有しているが、まだまだ穴は予想以上に多いみたいだ。
「くそ、帰ったら同調してやる」
・・・・・あ、今まで同調なんてできればしない方がいいと言っていたのに、初めて同調したいとおもってしまった。あれは楽に知識が入る。もしかして自分でも気づかないうちに同調に甘えてたのかもしれないと気づき、エイフィアと談笑しているラテアさん、そして稽古に汗を流すカレル達を見る。
医学の勉強をしているラテアさんや剣を一生懸命に学ぶカレル達、時間を掛け努力している彼らをみて、俺は罪悪感を覚えた。
「・・・・なんかずりーな俺」