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森の魔女B

森の魔女の続きもお聞きになるって?

分かりました

お話いたしましょう。

どれだけ過ぎたのでしょう。

それすら分からなくなるくらいには長い時間が過ぎました。

魔女の寿命というものはとてもとても長いものでしたから。

誰だってそうでしょう?

過ぎてしまえば長かったのか短かったのか分からないものです。

そう、そんな感覚の中でもそれなりに過ぎたのかなというくらいには過ぎたのです。




魔女はそっと街を覗きました。

街はまだそこにありました。

しかし思い当たる顔はありませんでした。

魔女の感覚でも時が経つことを感じたくらいです。

普通の人ならば生きていなくても仕方ないでしょう。

しかし魔女が記憶しているのと同じくらい賑やかでした。

子供は元気に駆け回っていました。

大人は忙しそうに仕事をしていました。

それはそれは賑やかでした。



魔女のことなどすっかり忘れたように。



魔女は寂しくなりましたが、仕方がないと思いました。

それだけの時が流れていたのですから。



ふと懐かしさを覚えて森も覗きました。

新しい家が建てられていました。

薬草園もありました。

誰か住んでいるのだろうか

一瞬思いましたが、人の気配はありません。

小さな家と薬草園。

それはあの頃のようでもありました。


もしかしたら

今なら

戻ったら


そう思いました。



家の前に見慣れないものが建てられていました。

花束が捧げられていました。

それは石碑でした。



『私たちを救ってくれた心優しき魔女の家

ごめんなさい

いままでありがとう』



魔女はぼろぼろ泣きました。

暴言を吐かれても、暴力を向けられても泣かなかった魔女は初めて泣きました。

ありがとうという言葉に涙を流したのです。



そうしてもう一度街を覗きました。

あのころと同じくらい賑やかでした。

大人たちも子供たちも元気です。

魔女は悟りました。


私はもうあの街にはいらないのだ、と。


しかしそれは街を離れたときの悲愴なものではなく、子供の独り立ちを見守るような一種晴れやかなものでありました。

あれは魔女にとっても必要な旅立ちであったのでしょう。



あの街はきっと魔女を暖かく迎え入れてくれるでしょう。

ですが、あの街はすでに独り立ちしたのです。



ならば



私の力を必要としてくれる、私の力がなければいけない街に行きましょう。

その街が独り立ちするまで見守りましょう。



そういって魔女は人の住まぬ氷に閉ざされた場所から消えました。





いまでもこっそり見に行きます。

そう、こっそりと。

今日も綺麗な花束が捧げられていました。




これは森の魔女のお話。

心優しい魔女のお話。

人に傷つけられて人に癒されて、人を知った魔女のお話。

ってね。

こちらには石碑の言葉がありますからねぇ。

これが最初だという人も結構居ますよ。


いかがでしたか?

どこまでが、どこからが本物の話なんでしょうねぇ。

しかし、今となっては分かりません。

鶏が先か、卵が先かくらいには。

あなたはどうお思いですか?



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