魔女の森A
童話「魔女の話」
これはとある魔女のお話
ですが、街の人々の視点でのお話と、魔女の視点でのお話がございます。
そして暗い話で終わることもあれば明るく救われる話もございます。
まずはもっとも一般的な街の人々の暗い話を。
これは街の人々のお話。
愚かだった人々のお話。
むかしむかし、魔女は森に住んでいました。
ただし、人間の街の近く、普通の人間たちが気軽に行ける程度には近くに。
魔女は薬草を育て、あるいは木々から薬となる実を集めるためにわざわざ森の中に住んでいたのです。
魔女は普通の人が持つことができない力を持っていました。
その力を薬を作るときに混ぜ込むことで普通の薬師より効き目の強い薬を作ることができたのでした。
それは多少薬師の作る薬よりも高くはありましたが、薬師が投げ出したような病気さえも治すことのできる魔女の薬は信頼されておりました。
しかし、その平和な日々は壊されてしまいました。
ある日、旅人が街中で倒れました、あまりの痛みように街の人間は魔女を呼びにいきました。
しかし、魔女はその旅人を見るなり、こういったのです。
この人間に売る薬はない、と
そういって森へと戻ってしまった魔女に街の人は困惑してしまいました。
こんなにも痛んでいるのに売る薬はないとはどういうことか、と
そんななかどこからか女が現れました。
若い女でした。
その女は倒れていた旅人になにやら液体を与えました。
するとどうでしょう。
倒れていた男はたちまち回復したではありませんか。
旅人は感謝をし、彼女に名を尋ねました。
その女は魔女だと名乗りました。
そしてしばらくここにいるとも言いました。
旅人が御代を問えば、またでいいと笑いました。
街の人は彼女を歓迎しました。
森の魔女が救えなかった人間を救ったのだから、彼女のほうがすごい人間に違いない、と。
こんなにすごい薬をタダで渡すなんて素晴らしい人だ、と。
街の人々は彼女に居ついてもらおうと様々なものを差し入れました。
家をタダで貸し、食べ物を差し入れました。
旅人はせめてものお返しにと彼女の家に住み、手伝いをしているようでした。
彼女はいつでも明るく振る舞い、朗らかな人柄をしていました。
人々はさらに彼女を好きになりました。
差し入れはどんどん増えていきます。
だれも森の魔女には会いに行かなくなりました。
あんな森の中に住む魔女なんかより明るくてすごい薬を持つ彼女のほうがいい、と。
そんな日々がしばらく続きました。
しかし長くは続きませんでした
彼女は捕らえられたのです。
国の兵士によって
一緒に住んでいた旅人ともに
街の人は抗議しました。
何故、彼女を捕らえるのか、と
兵士の返答にみな驚きました。
いわく
彼女は魔女の名を騙るが、魔女足りえる力を有しない偽者である。
彼女は旅人に扮した男を救って見せ自分の力を本物だと信じ込ませたあと、その街の者から様々なものを貰えるだけ貰い逃げる詐欺師同然のことをしてきた悪人だ。
また、魔女から奪った秘薬を使って人助けをし、さらに信じ込ませたこともあったらしい。
この言葉に誰もが驚かずに入られませんでした。
つまり森の魔女が言った、売る薬はないというのは、真実、そのままの意味だったのです。
治す病気がない人間にどうして薬が必要なのかということだったのでしょう。
街の人々は慌てて森へと向かいました。
しかし、そこには何もありませんでした。
魔女の家まで続くはずの道も、その先にある家も、薬草園もなにもかも。
街の人々は女を恨みました。
あんな女がいたせいで魔女が出て行ってしまった、と。
あんな女にだまされた自分たちがかわいそうだ、と。
毎日毎日恨み言を言い、過ごしました。
そんなある日
男の子がぽつりと言いました。
ごめんなさいしなきゃ
街の人々は男の子を見ました。
男の子の母はどういうことかと尋ねました。
男の子はだってと続けます。
まじょさんはなんにもしてないのに
みんながまじょさんにあいにいかなくなったのに
あのおんなのひとはわるいひとだけど、あのひとはまじょさんにあいにいっちゃだめなんていってない
あいにいかなくなったのはぼくたちがかってにきめたことだ
ごめんなさいっていいにいかなきゃ
大人たちははっとなりました。
同時に恥ずかしくもありました。
そんなこともわからない人間になっていたのか、と。
そうです、街の人々は恨み言を言っていい人間ではなかったのです。
むしろ恨み言を言ってもいい魔女は何も言わずそっとあの森を離れたのです。
魔女は以前から言っていました。
必要とされるところに魔女はいるのだ、と。
自分たちが必要としなくなったから、魔女は消えてしまったのでしょう。
それがわかった街の人々はみな暗い顔になりました。
謝りもせずただただ恨み言を言うだけの自分たちの何と愚かなことか、醜いことか、と。
こんな年端のいかぬ少年にさえ分かることが分からぬ自分たちは大人としてどうなのだろうか
その日から街の人々はさまざまなことを始めました。
男たちは森を壊してしまわぬよう小さな小屋を建てました。
女たちは草花の手入れをしました。
子供たちは小屋の掃除をしました。
ただ、この森と街を愛してくれた魔女のために。
一度でいい、会って、謝る機会が得られますように、と祈って。
しかし魔女はその後、街には現れませんでした。
この物語には悪い偽者が出てきたでしょう?
だから一番正統派な物語だといわれています。
そうですね。
次は魔女の暗い話をいたしましょうか。