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9.ミコトの記憶(2) 晴美と、より子

 次の瞬間、まゆの視界に映っているいるものが、すぅーっと消えて、一瞬真っ白になった。かと思うと、まゆはまた、教室に立っていた。

 なるほど、こういうシステムね。一瞬びっくりしたけど、今のまゆは、すぐに理解した。違う記憶に、移動したのだ。生徒たちの制服が冬服に変わっているし、授業中でもない。まゆには、わかった。これは、ホームルーム後の放課後の光景だ。何人かの生徒がまばらに残っている。

 お母さんは、窓際の一番後ろの席にすわって、隣の席の女子とおしゃべりをしていた。長い髪を三つ編みにしたかわいい子だ。まゆは、ふたりに向き合うように立っている。

 隣の席の女子が、お母さんに顔を近づけて少し声を落とした。まゆも少しふたりに顔を近づける。

「ところではるちゃん、チョコレート、買った?」

「え、買ってないけど」

「だめだよ、早く買わなきゃ。明日だよ、バレンタイン」

うわっ、明日がバレンタイン! まゆは、少しわくわくしてきた。さあどうする、晴美ちゃん。

「うーん、でも、ムリだよ。渡せないって」

「もうっ、だめだって、もっと勇気ださなきゃ。いつまでも、片思いのまんまだよ」

「あたしのことより、よりちゃんは? 手作りするんでしょ?」

あれっ、この「よりちゃん」って呼び方、すごく、耳に馴染みがある。えっ、まさか、この女の子、より子おばちゃん? まゆは、まじまじと隣の席の女子を見つめた。そうだ、たしかに、この目はより子おばちゃんだ。

 まゆが「より子おばちゃん」、お母さんが「よりちゃん」と呼んでいるのは、お母さんの友だちだ。最近はご無沙汰だけど、小学生のころまでは、まゆもよくお母さんにくっついて、より子おばちゃんの家に遊びに行っていた。まゆよりも三つ上のサトシくんと、二つ上のアキラくんの兄弟がいて、いつ行ってもにぎやかだった。そういえば、中学の同級生だった、って言っていた気がする。

 この女の子がより子おばちゃんだなんて、全然気づかなかった。お母さんの場合は、このまま年とったってかんじだけど、より子おばちゃんは、顔も体型も、途中で化学変化を起こしたみたい。ずいぶん、今と違う。それにしても、昔のより子おばちゃん、けっこうかわいかったんだな。おいおい、まゆ、そんなこと言うと、今は? って、聞きたくなるでしょ。

 で、より子おばちゃんは、チョコ、手作りするんだ。

「もう作ったよ、昨日の晩」

「そうなの。うまくできた?」

「バッチリ。って、ほとんど、お母さんが作ったんだけどね」

晴美ちゃんの目、まんまるになる。

「えっ、よりちゃん、お母さんに言ったの? 田島くんのこと」

「うん。だって、台所でチョコ作ってたら、そりゃ、バレるでしょ。ごまかすのめんどくさいから、話しちゃった。そしたら、お母さん、なんか、あたしより張り切っちゃって。でも、助かったあ、チョコ作るの、思ってたより大変だったから」

「すごいね、よりちゃん」

ほんと、すごいね、より子おばちゃん。

「あたしも、渡すからさ、はるちゃんも勇気出して、ねっ」

「よりちゃんはさあ、たぶん脈アリだからいいよ。だけど、あたしは、どうせ、当たって砕けろ、で、こっぱみじん」

「そんなのわかんないって。だけどさあ、前から聞こうと思ってたんだけど、はるちゃんて、面食い?」

あ、それ、あたしも聞きたい。

「あたし、面食いじゃないよ、絶対」

そりゃそうだよね、お父さんと結婚したんだもん。だったら何で……

「広瀬くん、かっこいいよ」

「むしろ、かっこよくない方がよかったんだよ。そしたら、今みたいにモテなくて、そしたら、あたしももっと告白しやすかったかもね」

「ふうん、じゃあここ? 好きになった理由」

より子おばちゃんが、自分の心臓のあたりに手をあてた。

「うん、広瀬くん、優しいんだよね」

晴美ちゃん、ちょっとはにかんだ。

「一年の時、あたし、広瀬くんといっしょに体育委員やったでしょ。だけど、あたし、運動が苦手で、ほんとは体育委員なんかやりたくなかったから、委員の仕事いやがったり、ドジやったりもしたんだよね。そんなとき、広瀬くん、いつもカバーしてくれたんだ。それも、さりげなく、いつのまにかにかってかんじで」

そうなんだ。広瀬くんて、保くんにちょっと似てる……かな。

「じゃあさ、やっぱり、明日チョコあげよ。体育委員のときのお礼って言えばいいよ。さ、行こ行こ、あたしも一緒に買いに行く」

より子おばちゃんが、お母さんをせかして、ふたりは教室から出て行った。

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