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8.ミコトの記憶(1) 晴美の恋

「うわっ、な、何これっ!」

まゆは、思わず大声をあげた。

 目を開けると、まゆは、いきなり教室の真ん中に立っていたのだ。しかも、授業中の。まゆ、あわてふためいて、周りを見回す。ん? あれっ、誰も何も反応しない。あんなに大声をあげたのに、何事もなかったように、授業が続いている。もしかして、これは……

 これは、ミコトの記憶の映像なんだ。そうか、映像を外から見るんじゃなくて、映像の中に入って見るってことだったんだね。まゆ、手近の机をそっとさわってみる。ほら、やっぱりね、すり抜けた。足元だって、なんだかおぼつかない。床の上あたりに立ってはいるけど、そう、地に足がついていない、そんな感じ。もうっ、ミコトったら、ビデオに近いって言うもんだから、こんなの全然想像してなかったよ。

 そのとき、手近の机の女子が、ノートから顔を上げて、まゆの方を見た。いや、まゆを通り越して、黒板を見た。その女子の顔を見て、まゆは、ハッと息をのんだ。

「あ、あたし?」

の、はずはないよね……てことは、やっぱり……

「お、お母さん!」

 もちろん、何の反応もない。だけど、間違いなく、お母さんだ。まゆの知っている、四十一歳のお母さんの時計の針を、ぐるぐる元にもどしていけば、間違いなくこの少女にたどりつく。

 まゆは、中学生のお母さんに興味津々。もっとよく観察しようと、身を乗り出した。すると、まゆのすぐ目の前で、お母さん、ノートの隅に小さく何か書き始めた。なになに、「広瀬渉」。そう書くと、口の端で、ちょっとニンマリして、またすぐ消しゴムで消してしまった。

 ははーん、お母さんの好きな人、ヒロセワタルっていうんだ。それにしても、やだな、お母さんたら、あたしと同じことしてる。

 教室では、数学の授業が行われている。ちょっとかすれた先生の声が、まゆには、BGMのように聞こえてくる。

「えー、じゃあ、次、問2は……広瀬くん、前に出てやってみなさい」

まゆ、思わず、びくっとして顔を上げる。今、ひ、ひろせって、言った? あわてて、周りを見回す。すると、一番後ろの席の男子が、はい、と言いながら立ち上がって、こっちのほうに歩いてきた。まゆのすれすれ横を通って、黒板の方に向かう。

 まゆ、その男子から目を離せない……カ、カッコイイ

 そう、広瀬くんは、十人中九人の女子が、かっこいいと認めるであろうイケメンなのだ。すらっとして、高い身長。きりっとした眉に、通った鼻筋。それにあの目、いわゆるパッチリオメメじゃないけれど、切れ長で……こういうの何て言うんだっけ……えーっと、そう、涼しげな目元。頭は丸刈りにしているけれど、それがまた、よく似合って、りりしさをかもし出している。しかも広瀬くん、黒板の計算式をスラスラと解いてしまった。

 ま、まさか、お母さんが好きな人って、この広瀬くん? 違うよね、別の広瀬くんだよね。まゆ、確かめるつもりで、お母さんの方を振り向いた。……ううっ、違わない。お母さんの好きな人はこの人です、って、まっすぐに広瀬くんを見つめる、お母さんの目が語っている。

「よし、正解」

見事、問題を解いた広瀬くんが、ちょっと恥ずかしげに席にもどっていく。お母さんの机の横を通るときの、お母さんのドキドキが、まゆにも伝わってくるようだ。

 ちょっと、ちょっとぉ、晴美ちゃん、高望みしすぎじゃないのぉ。こんなイケメンに失恋したって、あたし、同情しないからねっ!

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