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7.まゆの葛藤

 お母さんが、手紙を燃やしてた……

「ど、どういうこと? お母さんに何があったの?」

もしかして、失恋……?

「晴美ちゃんにはね、ここの生徒だったころ、好きな子がいたんだ。たぶん、初恋だったと思う。手紙はその思い出の印」

 やっぱり、失恋したんだ、お母さん。だけど……だけど……お母さんが恋をした……お父さん以外の人を好きだった……そんなこと、考えてみたこともなかった。

「まゆちゃん、ショック受けてる? だけど、これ普通のことじゃないの。まゆちゃんだって、保くんが好きなんだし」

 そ、そうよね。ごく、普通のことよね。だれにだってあることだもん、お母さんにだって、あって当たり前……だよね。

「ねえ、まゆちゃん、晴美ちゃんが、どんなふうに恋をしたか知れば、ぼくが、晴美ちゃんは手紙読んでいないって言ったこと、まゆちゃんにも、わかってもらえると思うんだ」

「えっ?」

そうだった。あまりの驚きで、ちょっとの間、お母さんに腹を立てていたのを忘れていた。

「ほんと?」

「うん、たぶん」

「じゃあ、ミコトが知ってること、教えてくれるの?」

「うん。ぼく、まゆちゃんの苦しみ、取ってあげたい。それに、晴美ちゃんの濡れ衣も晴らしたい」

 お母さんが、まだまゆぐらいの年だったころの、恋……だけど、そんなもの、知ってしまうのはこわいような気がする。そりゃあ、気になるけど、やっぱりこわい。知りたく……ないよ。

 うーん、どうする、まゆ。とりあえず、決め手を探ってみる。

「ねぇ、ミコト、その話、ドロドロとかある?」

「えっ? アハ、そんなのないよ。さわやかな恋だよ」

「じゃあさあ、お母さんが好きだった人、あたしの知ってる人?」

「知らない人」

「会ったことも?」

「ない……」

 じゃあ、聞いてもいいかなあ。お母さんのじゃなければ、きっと、普通に聞ける恋バナなんだろうし。

 それに、心の中に新たに生まれたモヤモヤを、どうにかしたい、という気持ちもある。実は、ミコトの自信たっぷりの様子や、手紙を燃やしていた、という話から、もしかしたら、お母さん、本当に手紙を読んでいないのかも、って、ちょとだけ思ったんだ。でも、それだけじゃ、もちろん、確信なんか持てない。手紙を読んだ、って、決めつけていたときの怒りはもう収まったけど、代わりに、本当はどうなの? という疑問が生まれていた。

 この、どっちつかずの心のモヤモヤを取り払って、スッキリしたい。よし、ミコトがそこまで言うんなら、お母さんの恋バナ、聞いてやろうじゃないの。まゆは、腹を決めた。


「よしっ、決めたっ。ミコト、聞くよ、お母さんの話」

「うん、だけど、話すとけっこう長くなるから」

「ちょっとミコト、ここにきて、続きは明日、なんてナシだよ。せっかく腹括ったんだから。今日は、家帰るの遅くなったっていいよ」

「そういうことじゃなくて。あのね、話をしてもいいけど、それよりも、もっとわかりやすく、まゆちゃんに教えてあげられる方法があるんだ。それだと、時間も短くてすむし」

「え、あ、そういうこと」

「ぼくね、ぼくの中にある色んな記憶の中から、晴美ちゃんのことだけを取り出して、まゆちゃんに見せてあげることができるんだ。ぼくたちの仲間同士では、普通にやっていることだし、まゆちゃんに対しても、大丈夫なはずだよ」

「……? え、え、どういうこと?」

まゆには、ミコトの言っていることがさっぱりわからない。

「えーっと、何て説明したらいいのかな……たとえば、まゆちゃん、小さい時のビデオとかある?」

「えっ、おゆうぎ会とか運動会とか、撮ったやつ?」

「そう、そういうの」

「なら、あるけど……」

「それの、晴美ちゃんが映っているのを、まゆちゃんに見せる、っていうのが近いかな」

それなら、何となくわかる気もするけど、ビデオ撮ってたってわけではないだろうし……

「じゃ、どこで見るの? テレビとか、スクリーンとかに映すんだよね」

「スクリーンは要らないんだ。まゆちゃんが、直接見るから。だから、ここでいいよ」

「???」

まゆ、ますますわからない。ミコト、じれったくなってきた。

「とにかく、やってみればわかるよ。いい?」

「え、う、うん」

とにかく、ミコトの言う通りにするしかなさそうだ。

 ミコトは、まゆのひざにぴょこんと飛び乗った。

「ぼくが届くところに、人差し指を出して」

まゆは、右手の人差し指を、ミコトが立っているわきに差し出した。それを、ミコトが両手で抱えこむ。

「これからまゆちゃんに目を閉じてもらうけど、しばらくしたら、まぶたの裏に、ぼんやり映像が映るから、そうしたら目を開けて」 

「ぼんやりって、どれくらい?」

「何かが映っているんだけど、何かはよくわからないくらい」

まゆの心配そうな顔を見上げて、ミコト、にっこりと笑いかけた。

「大丈夫。失敗しても、やり直せるから、とにかくやってみて」

まゆ、無言でうなずく。

「あ、あと、ぼくが記憶を送っている間……つまり、まゆちゃんが映像を見ている間だけど、ぼくに話しかけても、答えられないからね。じゃ、いくよ。目を閉じて」

まゆ、決心したように、ぎゅっと目をつぶった。

 しばらくすると、閉じたまぶたの裏に、何かがぼんやりと見えてきた。誰かいる? それも、何人か。ぼんやりの映像って、これのこと?

「もう、目を開けていいの?」

返事はない。開けてみるしかないよね。まゆは、おそるおそる目を開けた。

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