表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

3.恵理子と、まゆ

「ホント、一平って、四年のわりに幼稚なんだよね」

次の日の昼休み、まゆは、教室で、恵理子を相手に一平の悪口を言っていた。

「でも、四年の男子なんて、そんなもんじゃないの」

 まゆの友だち、原口恵理子は、今では、ソフトボール部期待のキャッチャーだ。肩はいいし、どんな荒れ球でも捕ってくれるから、ピッチャーからの信頼が厚い。三年生が引退したあとの、正捕手候補ナンバーワンだ。まゆには言っていないけど、恵理子は、まゆとのキャッチボールで、鍛えられたと思っている。何しろ、暴投にショートバウンド、何でもありの投球だったから。

「あたしも、えりちゃんみたいにお兄ちゃんがよかったなあ」

恵理子には、高一と高三の兄がいて、ふたりとも、バレーボールをやっている。なかなかのイケメンくんたちだ。

「ダメダメ、弟のほうが、かわいいって。とくに、ウチの兄どもなんか、ガサツでデカくて、家にいたら邪魔だよ~。ご飯のときもすごいの、おかずの取り合いが。昨日もね、唐揚げだったんだけど、家族五人で鶏肉二キロだよ。それでもペロッとなくなっちゃうもんね」

 まゆには、鶏肉二キロがどれくらいかわからなかったけど、とりあえず、大皿に山盛りの唐揚げを想像してみた。

「いつもそんなかんじだから、鶏、揚げながら、先につまみ食いしとくの。つまみ食いっていうより、どっちかって言うとガッツリ食いだけどね」

たしかに恵理子はよく食べる。給食の時間も、気持ちいいくらいガツガツ食べている。

「えりちゃん、唐揚げ作るの?」

「二キロもあると、お母さん一人じゃ大変だから、手伝ってるだけだけどね」

 昨日、お母さんの手伝いをしなかったことを思い出して、まゆの心が、ちくんとした。ちょっぴりだけど、まゆにだって罪悪感はある。今日は、手伝おう……かな。

「それよかさあ、明日だね」

まゆの後ろの席の恵理子が、ぐっと前に身を乗り出して、意味深にまゆの顔をのぞきこんだ。

「えっ、あ、えりちゃん、明日、県大会なんだよね」

県大会は、中学生の総合競技大会で、競技ごとに、各会場に分かれて試合が行われる。恵理子たちのソフトボール部も、市の大会でベスト4に入って、県大会に出場することになっていた。

「あたしはいいの、補欠なんだし。それよか、タ、ナ、ベ」

恵理子が声を落とした。そう、恵理子だけは知っている、まゆの想い人のこと。あ、ミコトもだっけ。

「アイツ、がんばってるよね。この間もさ、他の部員はみんな上がってるのに、一人で残ってサーキットやってんの」

「へえ」

「なんかさ、一人で黙々とがんばってるとこ、ちょっとカッコよかったよ。なんかこう、カ、カ……」

ううっ、えりちゃんまで。

「えーっと、そう、寡黙! 寡黙なファイターって感じだった」

でも、えりちゃんだと、こういうとこ好きなんだよなあ。

 それにしても、ファイター、か。たしかに、保くん、最近、男らしくなったなあ、ってまゆも思う。小学生のころの保は、運動神経は良かったけど、ひょろっとして、力強さがなかった。

 それに、保は、運動ができるのに、なんでだか、運動会も球技大会も、それほど目立たなかった。六年生のとき、みんなでリレーの選手を決めようってなったときも、保は、クラスで一番か二番くらいに足が速かったはずなのに、なかなか名前が挙がらなかった。最後に選ばれたけど、それも、推薦したのは、まゆだ。

 そんな保が、県大会の代表だもの。たしか、陸上部でも、代表になったのは、三、四人しかいないはずだ。

「明日、がんばってほしいね」

恵理子の言葉に

「うん」

まゆも、静かに、でも力強くうなずいた。心から応援しているよ、って思いを込めて。おっと、忘れちゃいけない。

「えりちゃんも、明日、がんばってね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ