18.まゆの驚き(2)
お母さんたら、今日は、まゆが珍しく素直なのをいいことに、きっと、そんな話を始めたんだ。だけど、こっちは、なんて答えたらいいのよぉ。
「お母さんもね、中学生のとき、好きな人がいてね」
ううっ、それ、もうガッツリ知ってますけど。まゆは、うかつなことを口走らないよう、気を引き締めた。
「だけど、お母さんの頃は、中学生どうしでつきあうとか、そういうの少なかったから、告白もできなくて」
うーん、お母さんの場合は、そういう問題じゃなかった気が……
「よりちゃんみたいに、堂々と付き合ってるのって、珍しかったのよ。あ、よりちゃんと田島くん、中学生のときから付き合ってて、結婚したんだよ」
「へーっ、そうなんだ」
まゆ、ちょっとおおげさに、驚いてみせる。
「そうなのよ。高校もいっしょで、高校生の頃にはもう、結婚するって決めててね」
「ふうん」
「ま、よりちゃんたちは特別だけど、だいたい、思春期のころの恋って、片想いが多いでしょ」
「うん、ま、そうかな」
「遠くに好きな人の姿が見えるだけでうれしかったり、廊下ですれ違うだけでドキドキしたり、そういうのがいいのよねぇ」
「そんなもんかな」
「そう。今思えば、宝物のような時間だったなあ」
「ふうん」
色々あったけど、広瀬くんのこと、今でもいい思い出なんだね。
「まあ、今も、お母さん、幸せだけどね」
「え?」
「お父さんと出会って、好きになって」
ちょっと、子どものあたしにそれ言う? こっちが恥ずかしいよ。
「結婚して、まゆと一平が生まれて、大切な家族ができて、ほんと幸せだなあって思う」
恥ずかしいんだけど、そんなこと言われると、やっぱり、うれしい、って思っちゃう。
ふと、広瀬くんだったら、友だちに自慢できるお父さんだったかも、って考えた。
うーん……だけど、やっぱりダメ。ゲジゲジ眉毛でも、団子っ鼻でも、まゆのお父さんは、お父さん以外に考えられない。結局、あたしも、お父さんとお母さんと一平の、この家族で満足してるってことだね。
「ねぇ、まゆは、保くんのことが好きなんでしょ」
えーっ、な、何なのよ、お母さん! それ聞く? でも、今さら誤魔化したってしょうがないか。ここは、より子おばちゃん方式でいくしかない。
「うん」
「お母さんね、まゆが、保くんのこと好きなんじゃないかなって気づいて、あっ、手紙は読んでないけど、ほら、宛名見て」
「うん」
「それで、ほんとのこと言うとね、お母さん、ちょっとうれしかったのよ」
えっ、何それ。
「だって、お母さんも、保くんのこと好きだから」
「え?」
「保くん、小学生のとき、何回かうちに遊びにきたことあったでしょ」
「うん」
「まだ小さかった一平とも、仲良く遊んでくれて、優しくていい子だなあって思って。まゆなんか、チビはあっち行けとか、言ってたのにね」
「そ、そうだった?」
「それに、お母さん認めちゃったしね、あんたたちの結婚」
プーッ。まゆ、思わず、口の中の紅茶を噴き出した。
「ケ、ケッコン!?」
お母さん、笑いながらティッシュを差し出す。
「お母さん、保くんに聞かれたことあるのよ。大きくなったら、まゆちゃん、おヨメさんにしていい?って」
「うそ」
「ほんと。だから、お母さん、あんなんでよかったら、どうぞどうぞ、って」
「あんなんでって」
そう言いながらも、まゆのほっぺた、ゆるんでしまう。
「ただいまー」
一平だ。
「あ、ケーキ食べたの?」
「一平のもあるから、ちゃんと手洗ってきて」
「やったー」
一平が、洗面所に飛んで行った。
まゆの心は、じんわり、幸せに包まれている。
その日の晩ご飯のあと、恵理子から電話がかかってきた。
「えりちゃん、どうだった? 県大会」
「ダメ、一回戦負け。それがさ、松田先輩、熱出したらしくて、あたしが代わりに出ることになっちゃって」
「えっ、そうなの」
「うん。守備は、まあまあだったけど、打つほうが全然。二三振にゲッツーだよ、もう散々。って、それよかさ、ビッグニュースだよ」
「え、何?」
「さっき、学校寄って帰ってきたんだけどね、田辺、三位だったんだって」
「えっ、ホントなの?」
「ホントホント」
「すごい、すごいね!」
「うん、すごい。だけど、これからは、気をつけてよ」
「えっ、何が?」
「増えるかもよ、まゆのライバル」
「えっ、うん……でも、きっと大丈夫」
「えっ?」
なにしろ、あたしは、許嫁ですから。




