17.まゆの驚き(1)
翌朝、いつも通りに起きて、いつも通りにご飯を食べて、いつも通りに家を出た。
だけど、今日の学校は、ちょっと違う。恵理子もいないし、保もいない。県大会だ。
まゆのクラスで、県大会に行っている生徒は、恵理子も含めて、四人。担任の山本先生も、卓球部の顧問で、県大会に行っている。先生も生徒も、いない人が多いせいで、今日の授業は午前中で終わりだ。
復習中心だったり、自習だったりで、なんだかふわふわしてしまりのない授業のあと、給食を食べて、掃除をして、まゆは家路についた。
「おかえり。ケーキあるから、食べない?」
家に帰ると、いきなり、お母さんがそんなことを言う。ケーキ? 特別なイベントでもないのに、ケーキを買ってあるなんて、お母さんの魂胆は見え見えだ。まゆと、ちゃんと話をしたいんだ。
まゆも、今日は、素直にお母さんに従うことにした。お母さんにひどいこと言ったこと、謝らなくちゃ。それに、まゆには、お母さんに後ろめたいこともあるしね。
まゆが、手を洗ってダイニングテーブルにつくと、お母さんが、チーズケーキと紅茶を出してきた。まゆの好きな、中村屋のチーズケーキだ。
「さっき、よりちゃんから電話あったんだけど、田島くん、昨日よりも落ち着いてるし、もう安心していいって」
「そっか、よかった」
「ほんと、一時はどうなるかと思ったけど。医学って、進歩してるんだね、すごいよ」
「うん」
「あのね、まゆ……」
きた。
「昨日のことだけど、勝手に部屋、掃除してごめんね」
先に謝られた。
「だけど、お母さん手紙は読んでないよ」
「うん」
まゆが、素直に認めると、お母さん、ちょっとびっくりしたような、拍子抜けしたような顔をした。
「そう、信じてくれたんならいいけど」
「あたしも、ごめん。ひどいこと言って」
お母さん、また、ちょっとびっくりした顔。
「え、いいのよ、そんなこと」
謝ったら、胸のつかえが取れたみたい。まゆは、ホッとして、チーズケーキに手をつけた。
しばし、黙って、チーズケーキを味わう。
「ねえ、お母さんて、中学生のとき、部活何してた?」
まゆは、話のネタをふるつもりで、昨日、ミコトの記憶の中で、ちょっと驚いたことを聞いてみた。
「手芸部よ」
「ふうん」
もう知ってるんだけどね。
「今は、もう手芸部ってないでしょ」
「うん」
たしか、手芸部なんてなかったはずだ。
「あったら、まゆにも勧めたんだけど。けっこう、楽しかったからね」
「へえ、どんなことしてたの?」
「最初のころはね、文化祭で、個人の作品を展示するくらいのことしかしてなかったの。だけど、横山さんて子が部長になったとき、みんなで、何かちゃんとしたものを作ろうってことになって、タペストリー作ったのよ。この間、参観に行ったとき、職員室の前にまだ飾ってあるの見たけど、まゆ、知らない?」
「えーっ、あれ、お母さんが作ったの?」
たしかに職員室前の、トロフィーやら盾やらが飾ってあるガラス棚に、キルトのタペストリーが飾ってある。大きな花束が、色々な柄のアップリケで描かれた、縦横一メートルくらいある大作だ。今では、だいぶ色あせているけれど、まゆは、こんなのだれが作ったんだろう、すごいなあと思っていた。あれが、お母さんたちの作品だなんて、今度は、すごい驚き。
「お母さんひとりじゃなくて、みんなでよ。横山さんが、すごく一生懸命でね、みんなを引っ張てくれて」
「あ、もしかしてメガネの子?」
「えっ、たしかに横山さん、メガネかけてたけど、まゆ、何で知ってるの?」
しまった! 油断して、ミコトの記憶で見たこと、口走っちゃった。
「え、あの、ほら、そういうマジメな子って、たいていメガネかけてるでしょ」
「フフ、ドラマとかでは、たしかにそうね。だけど、実際は色々なんじゃないの」
「そうだよね」
ふー、危なかった。気をつけなくちゃ。
「とにかく、みんなでがんばって、一つの作品を仕上げるのって、楽しかったのよ。中学生のときの、いい思い出のひとつかな」
「ふうん」
そのあとだ。お母さんが、突然、変なことをしゃべり出したのは。
「だけどさ、若いときの恋っていいわよねぇ」
お、お母さん、一体、何を言い出すの!?




