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11.ミコトの記憶(4) 体育祭準備

 まゆの視界が、すぅーっと白くなって、次に現れたのは、再び教室。だけど、今度は、今までとずいぶん様子が違う。机といすがない代わりに、あちこち、雑多に、いろいろな物が置かれている。空き教室だろうか。

 教壇の上に立っていたまゆは、その乱雑な様子に気を取られて、教室にいる人物に、一瞬気づくのが遅れた。

「お母さん! ……ひ、広瀬くん!」

そう、お母さんと広瀬くんが、段ボールを前に、かがんで何か作業に取りかかろうとしていたのだ。他に生徒はだれもいない。ふたりきりだ。

 お母さん、大丈夫だったのかな? あのバレンタインから、どれくらいたっているのかわからないけれど、とりあえずは、大丈夫そうだ……って、ふたりきりじゃないのっ! ちょっとでも、心配して損しちゃったわよっ。

 だけど、ふたりきりで甘い雰囲気ってわけでもないよね。周りに乱雑に置かれた物の様子からすると、どうも体育祭の前のようだ。旗とか、鉢巻とか、応援用のポンポンとか、他にも、段ボールや布で作った小物類も、体育祭で使いそうなものばかりだ。とにかく、ふたりの様子を見てみよう。

「ごめんね、あたしのミスで一個足りなくなっちゃって」

「いいよ、別に。予行明日だしさ、十分間に合ったしさ」

「だけど、もうちょっと早く気づいたら、他のみんなにも手伝ってもらえたのに」

「いいって、いいって。こんなの一個ぐらい、ふたりでも、すぐできるって」

「うん、ありがと」

 広瀬くんとお母さんは、段ボール箱に印をつけて、位置をたしかめながら、カッターで切り取っていく。どうやら、お母さんのせいで、広瀬くんとお母さんは、体育祭で使う何かを居残りで作るはめになったようだ。

「だけど、吉岡がまた体育委員っていうのには、ちょっとびっくりしたな。一年のとき、けっこうキツそうだったし」

「一年のときはいろいろありがと、何でも広瀬くんにやってもらって。あ、今もか」

「だから、いいって」

「委員決めのとき、体育委員と風紀委員しか残ってなくて、風紀委員よりはいいかなって」

「そっか。三年で、体育委員て、みんなやりたがらないもんな。うちのクラスも、けっこう残ってたしな」

 ふうん、どうやらこれは、体育委員の仕事らしい。で、お母さんと広瀬くん、三年では、別のクラス。

 広瀬くんとお母さんは、段ボール箱に、カッターで穴をあけていく。

「ところで、吉岡、志望校決めた?」

「えっ、あたし?」

「うん」

「行きたいところはあるけど、まだ迷ってる」

「そっか、オレは、秀英にしようかなって思ってる」

「えっ、北高じゃないの? 広瀬くんの成績なら、北高、楽勝でしょ」

お母さん、目を丸くして、広瀬くんを見る。広瀬くん、その顔を見てくすっと笑った。

「えっ、何?」

「吉岡ってさ、ときどき面白い顔するよな」

「えっ」

お母さん、耳まで真っ赤になる。

「ごめんごめん。だけど、別に変だって言ってるんじゃないんだ。いい意味で面白いっていうか、もっと見たくなる顔っていうかさ」

お母さん、これ以上ムリっていうくらい真っ赤になる。

「気にしたんなら、ほんとごめん。悪口じゃないから」

「うん」

 広瀬くんとお母さんは、別の段ボールで、筒のようなものを作り始める。

「オレもさ、北高のつもりだったんだけど、秀英で、甲子園目指してみようかなって思い始めてるんだ」

広瀬くん野球部だったんだ。

「ここの先輩で、秀英に行った三輪さんているんだけど、知らない? この間、甲子園に行ったんだけど」

「うん知ってる。一年でひとりだけベンチ入りしたんだよね」

「そ。その三輪さんからいろいろ話聞いてさ、秀英で野球やってみようかなって。オレなんか、そう簡単には、レギュラーは無理だろうけど」

「広瀬くんなら、無理じゃないよ。キャプテンだし」

「アハ、キャプテンは、関係ないよ」

「でも、四番でしょ」

うっ、広瀬くん、スポーツもできるんだ。

「ま、相当がんばらないと、秀英のレギュラーはキビシイってのは、わかってるんだけど、それでも、がんばってみっかなって思ってるんだ」

「そうなんだ……」

「まだ、ちゃんと決めたわけじゃないけどさ。あ、これ、まだだれにも言ってないから、内緒ね。親にもまだ言ってねーつうの」

「えーっ!」

お母さんの目、再びまんまる。

「アハ」

お母さんの顔、再び真っ赤。そして、照れ笑い。

「……吉岡もさ、秀英にする?」

「えっ」

お母さん、一瞬キョトンとする。

「また、一緒に体育委員したらおもしれーかもよ」

「……」

お母さん、広瀬くんの言っていることが理解できない、とでもいうような、ポカーンとした表情。これも、相当面白い顔だけど、今度は、広瀬くん、お母さんを見ていない。手元の段ボールを見ている。

「ハハ、冗談……よし、できた。オレ、つけてみる」

「え、あ、うん」

広瀬くんが、ふたつの段ボールの筒をひとつずつ両足のすねにはめた。そして、別の段ボール箱を頭からかぶって、穴から頭と腕を出す。

「ちょっとでかかったけど、まあオーケーかな。それにしても、こんなんで走れるのかな。ロボットにも見えねーし。誰だ、ロボットリレーなんて競技、考えたやつ……あ、オレか」

「アハハ」「アハハ」

いい笑顔だよ、晴美ちゃん。

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