LOOP
「おっ…俺は」
そこは、とある学校の裏での光景。
「…きみの事が…」
完璧に整えてきた。髪も顔も姿も。
「す………」
心の準備だって、終えてきた。
「………す………」
一也は目前の女の子に告白した。
「好きなんだっ!」
「ずっと…前から」
「好きだった」
「だから…俺と…」
ここまで言葉を紡いだのは、ある種、不正解だった。
だからかもしれない。
「ごめんなさい」
少年は何を想ったのだろう。
少女は何を感じたのだろう。
二人は何を考えたのだろう。
少年はただ立ち尽くし、少女は言葉と共に消え、沈黙の風が訪れた。
現実を受け入れたくないのが、現実だった。
だからだった。
これが夢だと気づいたのは、アラームが鳴った頃。
じりりりりりりりり
「っ」
じりりりりりりりり
うるさいアラームが鳴る中で、俺は飛び起きた。
じりりりりりりりり
夢だった。
じりりりりりりりり
「………うるせぇ」
バゴッ
上部のスイッチを乱暴に叩けば、それは簡単に止まった。
今日告白しようと考えていたのに、朝からいきなりあんな夢を見てしまったら鬱だ。
「なあ一也。今日ゲーセン寄ってかねー?」
更に、予定をぶち壊そうとする友人の言葉で鬱+1。
「行かねーよ。元々そんな気分じゃないんだ」
「どうせ暇なんだろお?」
暇。
その一字で済まされてたまるか。
「んな訳ない。俺にだって用事はある」
「…空気読めよ」
「残念ながら俺は" 空気 "なんて字は読めないんだ」
授業中に馬鹿な話をしながらも、時間は進んでゆくのだ。
「もう放課後…」
朱色の空は輝いている。
それは合図を示す。
俺はある人の元へ向かった。
「か、神前」
「一也くん?」
最初に目を合わせた時から、俺は一目惚れしたのだ。
誰にでも優しくて包容力のある神前に。
だから決めた。
「大事な話があるんだ」
《当たって砕けろ》
この言葉をバネに頑張るしかない。
期待はしているが、覚悟も出来ている。
だから告白する。
「…神前」
よく考えるべきだったかもしれない。
「うん」
学校の裏で告白なんて、現実味が溢れすぎだ。
「……俺は」
そんなことに後悔したところで遅いけど。
「…俺は…」
シミュレートしてくるべきだった。
「……………」
言葉が思いつかない。告白って難しいんだな。
「…どうしたの?」
我に戻る。
そうさ、ありのままに告白すればオーケーだ。
きっとうまくいくはず。
気持ちをぶつけてやる。
「俺は…きみの事が…」
もう踏ん切りは着いた。
「…好きなんだ」
今までの経緯を辿るように、話そうとした。
「……ごめんなさい」
そんな軽い一言で切り捨てられるとは思ってなかった。
だから彼女が消えても逃避し続けた。
「…正夢だったか」
別に涙なんて出てきやしない。
仮にも一也は男だ。
「そうか…」
だが後悔はしている。
「どこで道を踏み外したんだろうな……」
束の間の、一時の青春。
その時は終わる。
アラームが鳴りだした頃に。
じりりりりりりりり
「………」
じりりりりりりりり
アラームが鳴ってても、起きれなかった。
じりりりりりりりり
「………」
じりりりりりりりり
あれも夢だったらしい。
夢の中の又夢。
じりりりりりりりり
「………」
うるさい物体を投げた。
今日、告白をする日のはず。
だからパターンは変わらなかった。
「なあ一也。今日…」
「ゲーセンは寄ってかない」
「なあっ!?…まだ何も言ってねーのに」
「暇じゃないからな」
段々とわかってきた。
どうやら俺は、現実と夢の狭間の並行世界にいるらしい。
現実に戻るには、条件が必要。
それは?
「好きなんだ」
もちろん、神前が鍵になる訳で
「…あの…」
告白を成功させなければいけない。
(失敗か……)
全ては俺の勝手な推測だが、最早確定事項と言える。
「ごめんなさい…」
なぜならば、かれこれ十回も失敗しているからだ。
この並行世界は…まるで恋愛アドベンチャーゲームみたいな世界だ。
選択肢なんてものは存在しない。無限の可能性があるから。
失敗すれば、その日の朝に逆戻り。
じりりりりりりりり
この音はいい加減聴き飽きた。
もう告白する気も失せたのだが、絶対に告白しなければならない。告白を避けようとしても体が勝手に動くのだ。
失敗の道が無いのは嬉しくても、素直に喜べない。
「なあ一也…って!?……いつもより痩せてる…?」
「ああ……疲れてるからゲーセンはいらん…」
そして
「ごめんなさい……」
すぐこれだからな。鬱以上の問題だ。
じりりりりりりりり
何回考えたんだろう。
じりりりりりりりり
セリフを変えても無駄だし。
じりりりりりりりり
場所だって変えた。
じりりりりりりりり
「……ああもう!」
どうせ失敗するなら…。
「なあかず…」
「ああ、行ってやるさ。ただし、全部お前の金でやるんだぞ」
「え……えええっ!!?」
…これで運命が変わるなら、この世界を恨む。
「お、もう出てんじゃん。一也、対戦しよーぜ」
「ああ」
いつもなら体が動くはずなのに…。
……まさか?
「うおおっ!な、くう、この……」
(…それにしても弱いな…)
……まさかな。
「…お前なんでそんな強いんだよ」
「やったことないんだが」
「あっそ……………ん?あれ…」
彼が指さす方向は…。
「…神前?」
神前と、その他の女子が三人。
「何やってんだ?あいつら」
見ていると、四人は…プリクラを撮ろうとしている…?
「……様子がおかしくないか?」
「そうかー?プリクラ撮るだけなんじゃねえの?」
違和感。
神前があの女子達と話してる所を見た事がない。
…こいつが肝心の鍵だったとは。
「…ちょっと飲み物買ってくるから、面白そうな台を捜しててくれ」
「おう、任せとけ」
……金なんかもってきてないのに、馬鹿な鍵だ。
耳を澄ます。
「あ…あの……」
「今日も調子ノってたんじゃないのー?ねーえ?」
「そうね。優等生ぶっちゃって…」
「やっぱウザいわー、あんた」
「………」
一瞬で感知した。
これはいじめだと。
だから飛び出した。
「ウザいのは確実にお前らの方だな」
怒りという感情しか残されていない。
本当の意味で腸が煮え繰り返った。
「……一也…くん」
「はあ?何?」
「十人中、十人がお前らをウザいと言うだろう。いや、億・兆の値でもいいが…とりあえずウザい。これでよし」
そして神前の手を取り、走り出した。
無我夢中で走った。
後ろから怒号を放つ輩がいても気にしない。
気がついたらゲーセンなんてとっくに出ていて、そこは近くの公園だった。
「はぁ…はぁ…」
「ベンチ…座るか」
「…ありがとう」
「いや、大した事じゃない」
きみの事を想えばあんなのは楽勝…とは言えなかった。
それより気になったのは…。
「…前からいじめられてたのか?」
「………」
言って良いものかどうか。神前は話すのを躊躇ってる様子だ。
「…追求しない方がいい…か。そうだな、そうしよう」
「あ…いえ…あの…」
「気にするなよ、大体わかったから。 いつでも助けてやる」
「……」
正義の味方じゃないんだから…。なんて思われてるだろうか?
まあいい。とりあえず…今はチャンスかもしれない。
が、
「………え、ええっと……そ、その………」
神前の様子がちょっとおかしい。
辺りをきょろきょろと見回したり、もじもじと体を動かしたり。
まるで告白する時の俺みたいで…。
「か、一也さん」
「ん?」
その次の言葉を聞いた瞬間、俺は素直に驚けなかった。
「……すっ………好きです…!」
むしろ呆けていた。
「…ま…前から…ずっと…ずっと…好きでした…!」
「…………ちょ、ちょっとストップ!」
「…え?」
だから気の抜けた質問しか出来なかった。
「こ、これは…こっこく…告白と判断して…宜しいのか?」
「は………はいっ……?」
今の神前の返事は肯定なのか、それすらもわからない程に俺は動揺していた。
「お…俺…」
あーとかうーとか唸りながら、やっと言えた。
「俺も……好きだった!」
今度は彼女が驚いて…呆けていた?どっちもか。
神前の話によると、今までずっと俺に告白しようと思ってたらしいが、あの三人に見張られてて怖かった、と。
つまり、あの俺の失敗の数々は…そういう理屈だったって事だ。
それにしても…これは成功なのか?神前の方から告白してきたけど。
…どうでもいいか、そんな事。
「うーん…まぁ…ありがとう」
「…こちらこそ、ありがとうございます」
こうして俺は、ハッピーエンドを迎えるはずだった。
一也は気づかなかった。
ゲームセンターを抜け出した時からずっと着いてきてた悪友の存在に。
「…これは明日の学校のニュースになるな…ふふふ…一也、おめでとう…お前は今日から男の敵だ…」
だから、遡る。
じりりりりりりりり
「……な………なぜだあああぁぁっ!?」
一也は今日も、ハッピーエンドを探し回る。