吉川元春の嫁事情
天文16年(1547年)吉川家に養子入りする形で、吉川家をのっとったばかりの吉川元春に、一つの縁談がやって来た。
相手は、安芸国の国人領主熊谷信直の娘だ。
熊谷氏は十四年ほど前、武田光和に嫁いでいた信直の妹が離縁され、そのことで熊谷氏は武田氏と敵対し毛利家と連携を強めその指示に従うようになった。
そんなところの娘なのだが、うわさでは器量が悪く、醜女であるという。
それを聞いて元春は首をかしげた。
信直の妹は絶世の美人でありそんなわけがないと思った。
ともかく、元春も齢17、そろそろ嫁を取らないと不味い。
元春はその娘と会ってみることにした。
「このたびは、縁談を受けてくださりありがとうございます」
「いや、まだ婚儀を結ぶと決めたわけではないからな、一度その娘を見てから決める」
「さようですか、まぁ仕方ないでしょうな。あの容姿では……」
信直に案内され、その娘がいるという部屋にやって来た。
そこにいたのは……
「あ~あなたが吉川元春様ですか~?」
一人の幼い童女であった。
「……おい」
なんともいえない気持ちになり元春は、思わず信直に言葉を求めた。
「申し訳ござらぬ、これでも嫁に出せる歳なのですが、なにぶんこの容姿であって引き取り手がいないのです」
申し訳なさそうに言う信直に、元春はただその娘を見つめたまま立ち尽くしていた。
「父上~?」
するとそんな父の様子を心配してか娘が歩み寄ってきた。
だがその足取りは、おぼつかなく着物を踏んで盛大に前へこけた。
「っと、おい無理するな」
それを元春が受けとめる。
自然と顔が近づく
「も、元春様、ご、ご無礼を~」
娘は醜態をさらしてしまい顔を赤らめてあたふたとする。
しかし、元春のほうはいたって冷静だ。
その体勢のまましばらくして
「……よし決めた。この娘は俺が引き受けよう」
すると予想外だったのか信直が驚いた。
「よろしいのですか!?こんな容姿なのに?」
「かまわん、大事なのは見た目ではなく中身だろう」
その後、無事二人は結ばれ、娘は新庄局と呼ばれ元春との間に四男一女をもうけた。
ちなみに、吉川元春は生涯側室を持たず、夫婦の仲は大変よろしかったそうだ。
今と昔とずいぶん美女の基準が違うことからもしかしたら……
と、思いついたネタ
嘘は言っていない。
ちなみに、誰ももらってくれない娘を引き受けたら、より一層忠義を尽くしてくれるだろう。という下心があった。という説もある。