08
マイクはその日も寝坊していた。それは、珍しくはない。珍しくはないのだが…
「今日か…」
記憶によれば、今日がイヴが箱庭から出ていくように通告される日だ。
そんな日は決まってマイクは寝坊せずにくる。
「ヴェル君!!」
慌てて入ってきたリリィは、下駄箱のある方を指しながら言った。
マイクが喧嘩しているから止めてくれと。俺が止める道理はないが、イヴまで巻き込まれていると聞けば、いかないわけにもいかない。
だが、下駄箱で思っていた以上の光景が広がっていた。
「どういうことだ…?これは」
「別にオレらのせいじゃないからな!!こいつらが絡んできたのが問題なんだからな!!」
目の前には、生徒が2人倒れていた。1人は何が起こったのかわからない様子で、イヴのことを化け物のような目で見ていた。
「なぁ?ヴェル!?お前信じて…」
「今は、何があったのか聞いてるんだ」
とはいえ、実際口に出されなくてもわかる。リリィは一応イヴたちの話を聞いているようだが、一番話を聞かなくていいのはあいつだ。能力で見ればいい。
何かを思い出すように…先程まで何があったのか思い出すだけだ。
マイクはいつもの廊下へ向かおうとしたとき、リリィを見つけた。
「あ、マイク君」
「先輩?どうしたんすか?」
「イヴちゃん待ってるんだけど…」
「あれ?イヴまだ来てません?おかしいなぁ…いつも俺より早いのに」
「そうなの…?」
何となく向けた下駄箱の方で、イヴが3人に絡まれていた。
そこからはあっぱれというか、なんというか…一番イヴの近くにいた男を殴っていた。
「てめぇら!!いい加減にしろ!!」
「んだよ!!落ちこぼれが!!」
きっと、このタイミングで既にリリィはこっちに走ってきていたんだろう。毎度のことながら、殴り合いに発展しそうになり、イヴが止めに入るがあまり聞こえていないようだ。
「邪魔だ!!クソ女が!!」
男の一人が殴ろうとした時、イヴの華麗なるカウンター(ビンタ)が決まった。
いや、そこはいいんだ。驚いたが、まぁ…それよりも、驚きなのは、その男が倒れたまま動かないことだ。
そこで、能力をやめてもう一度そこを見れば
「なるほど…」
この状況にもやっと納得がいった。これの犯人がマイクであるなら、またマイクが呼び出しで住んだ話なのだが、そうはいかないらしい。
「お前たち!!なにしてるんだ!!」
担任が慌てた様子で階段を駆け下りてきて、イヴもマイクもまた同じ説明をすることになった。
もちろん、2人とも呼び出しだ。そこでやっと隣にいたリリィに声をかける。
「なんで、ここにいたんだ?」
「え?あ…イヴちゃんに用があったんだけど…」
リリィは俺の方を見ると
「私が過去を見て、何か特徴的なことがあればそれを伝えれば、芋づる式に思い出せるんじゃないかって…そう思ったんだけど」
「…」
「あ、も、もちろん!イヴちゃんの許可が必要だから、聞きに来たんだけど…」
そんなことをあの最後の日まで思いつかないはずだ…
「ヴェル君?」
「あ、いや、前までできなかったのにそれができるのか?」
「うん。あ、えっと、多分…私の一番長い間使ってる能力はそっちなの。今までイヴちゃんに対して使ってたのよりも、ずっと使い慣れてる能力だから」
「そうか」
「お昼休みって、教室?そしたら、私いくから」
「あぁ。教室だが…」
「じゃあ、お昼に行くね!」
リリィはチャイムに慌てて、それだけ言うと行ってしまった。




