03
いつものように駆け足でマイクが教室のドアを開き、時計を確認。
「よっし!5分前!」
そう喜んでいると、意外にも1人しかいないクラスメイトに、首をかしげる。
「あれ?イヴは?」
イヴの席にはイヴどころか、カバンすらない。
「まだ来ていない」
「ん?風邪でも引いたんすかねぇ?」
マイクが首をかしげていると、ゆっくりとドアが開きイヴが入ってきた。
「おはよう」
「あ、遅かったな!寝坊とか?」
マイクはいつものようにそう聞けば、イヴは言いづらそうに頷いた。
「?寝坊は俺もよくするし、気にしなくていいって!」
そうやって背中を叩きながら、机に連れてくると、2人は座った。
だが、1人だけ察したようにイヴに挨拶のかわりに言った。
「あんな戯言まともに聞かなくていい」
「!!」
「え?」
マイクもその言葉に、驚き納得した。
「また嫌がらせか!ったく…なんなんだよ。ホント…」
そう。落ちこぼれ3人衆と呼ばれるこのクラスのイヴ、マイク、ヴェルの3人は、時折他のクラスメイトから嫌がらせを受けることがある。特に、学園667位、つまり最下位のイヴはよく受ける。
他の2人も受けることはあるが、気にしないか、その場でやり返すと、それぞれの対処法を持っている。やり返すマイクは、その度、職員室に呼ばれることになるが。
「何された?とっ捕まえて、殴ってくる!」
「あ、いや!大丈夫だから…!」
「いやいや!こういう時にやっとかないと、あいつら調子に乗って――」
「本当に、大丈夫だから。落ち着いて。先生ももうくるからさ」
午前の授業中、イヴはずっと暗かった。いままで、嫌がらせを受けても、昼には治っていることが多かったため、これは異常だった。マイクももちろん気づいていた。
「…よし。ここは男だ!今日の昼飯は、俺が購買まで買ってくる!」
昼の購買は戦場のようだ。食べたい物があるなら、素早く行動しなければいけない。そこに関して、マイクは人一倍得意だ。
「俺はコロッケパンとメロンパンで頼む。あと緑茶」
当たり前のようにそういえば、マイクはなぁぁ!?と驚いたあと
「ヴェル!お前は飲み物持てよ!?男だろ!?」
「なんだ。運動部に入っているっていうのに、3人分の飲み物とパンが重いっていうのか?」
「物理的に持てねぇよ!!パンのかさばり具合知らねぇのか!?」
「あ、じゃあ、私が――」
「イヴは女だからダメ!ここは男が」
「そこに男女の差は必要か?差別は好まないが」
「差別なくして、女にめんどうごと押し付けようとするとか、いい度胸だな!お前!!」
結局、マイクに負けイヴから注文と金を受け取り購買に出かける。
購買は、案の定、戦場と化していた。あの人ごみの中パンを取り、確保したあとおばさんの所に持っていく。
「俺は苦手なんだが」
「任せろって!声のでかさは誰にも負けない!」
「頼もしいな。なら、飲み物は俺が確保しておこう」
「サンキュー!」
マイクが後ろで人気のあるパンを欲しいと大声で言えば、気を利かせたおばさんが「はいはい。」と呆れながらも確保してくれている。そこまでして、欲しいかと時折感じてしまうが、言ってしまった者勝ちとはこのことだ。
無事にパンを買い終え、教室に戻る廊下で、マイクは突然切り出した。
「イヴ、マジどうしたんだろうな。ただの嫌がらせなら、あそこまでならないだろ?」
「そうだな。何かあったのだろうということしかわからないが」
「はぁ~…どうにか、元気づけてぇけど…」
「…」
それ以上何も言わずに教室に入った。
「――放課後、第3会議室に来なさい」
教師のその言葉はイヴに向けられていた。




