02
授業が終わり、放課後になるとマイクは早々に部活へ向かう。
「それじゃあ、イヴとヴェル!また明日!」
「じゃあね」
「あぁ。また」
それぞれ帰り支度を終えると
「それじゃあ行くか」
「ヴェル…いつも来てくれるけど、大丈夫なの?」
イヴが心配そうに見上げるが、特に気にした様子もなく
「あぁ。どうせ帰っても、本を読むだけだしな」
「そっか」
安心したようにイヴは笑って、教室のドアを開けた。向かう先は、生徒相談室。
元からあまり使われていないが、この時間はいつも使用禁止にされている。その使用禁止の札を気にせず、イヴがドアを開ければ中から、いらっしゃいとの声がする。
「すみません。遅れました」
「全然。そっちの方が遠いんだから、大変でしょ?」
そう笑って返すのは、1つ先輩のリリィだ。能力でいえば、必ずトップ10位以内に入っている。
ここ最近、イヴは毎日ここで治療を受ける。治療といっても、効果的なことが起きたことはない。
「じゃあ、とりあえず、座って」
治療は簡単なもので、このリリィの能力を使う。
リリィの能力は『対象の過去を視る。そして、過去の記憶を思い起こさせる』
治療は後者の能力が見つかってから行われ始めた。
「人の過去を勝手に見るもんじゃないもんね」
そういう持論を持っているかららしい。
イヴはこの学校に入る前の記憶が一切ない。思い出せないらしい。
そのせいで、能力が使えないのだろうと推測されてはいたものの、脳に異常はなく、精神的なものだろうと今までもメンタルの治療を受けてきたが、効果はなかった。そして、現在このような処置に移った。
欠点はリリィが多少の記憶を知ってしまうということだが、できる限りみないように努力はしているらしい。
イヴの目の前に手をかざすと、うっすらと緑に光る。
「…」
時間にして10分だろうか。それくらいの時間が過ぎた頃、リリィは手を下ろす。
そして、何度も見た難しい顔。
「やっぱりうまくいかないわねぇ…ほかの子だとすぐにうまくいくんだけど…」
「すみません…」
「あ、ごめん。謝らなくていいのよ?私の力不足なわけだし…大変でしょ?記憶ないのって。それに、能力も引き出せないとなると…」
「いえ!そんなことは…能力が無くても、別に楽しいですから」
「…そっか。それはいいことなんだけどね…」
「?」
「…ううん!今日はこのへんにしてもいい?あんまり脳に負担かけるわけにもいかないし」
「あ、はい!ありがとうございました!」
結局、イヴは今日も成果は無かった。
「あ、ねぇ。ヴェル君」
「?」
「ちょっといい?」
リリィに呼び止められ、イヴが先に下駄箱に行ってるね。といって、外に出た。部屋には2人だけになった。
「どうせ、上がイヴを追放しようとでもしているんだろう?」
「!知ってたの…?」
「おおかた想像がつく」
「…うん。まだ、議題の1つってところだけど」
「偉い人間ってものは、自分の汚名には敏感だからな。いつまでも議題の1つってわけでもないだろうな」
リリィは困った表情をしたが、すぐに
「能力者であることは検査結果にでてるんだから、大丈夫だよ」
「…それは、そっちの勝手な意見だろう」
「なんでそんなにわかってるように言うの?ヴェル君は」
「わかってるようなものだからな」
少しだけ怒ったように口を尖らせると
「案外、想定通りって少ないんだよ?それに、そんなことになるなら、私が止めるし。これでも10位以内の成績保持者って重宝されてるし、意見も結構通るんだから」
「…その言葉、最後まで言ってほしいものだな」
「当たり前でしょ!」
リリィは胸を張って答えた。自分ならある程度の発言権があると。イヴが箱庭から追い出されそうになっても止められると。
そして、できるなら、そうしてくれと答えた。




