12
朝練の声がこの教室まで響いてきていた。教室のドアが開く音。目を向ければリリィだった。
「おはよう」
「お前はいつからこの学級の生徒になったんだ?」
「あははっちょっとなりたいかも」
「それなら、留年が必要だな」
「それはちょっと無理かな…?」
そんな冗談はさておき、リリィは俺の向かいに座るといきなりあの質問をしてきた。
「イヴの記憶に何度も同じ日が繰り返されてるの」
「まぁ、似たような日常だしな」
「違う。似たようなじゃなくて、同じ。全く同じなの。イヴが追放されるところで、いつも巻き戻ってる」
「…」
「もしかして、ヴェル君。知ってたの?」
「あぁ」
頷く俺に、なにか怒鳴ってくるかとも思ったが、意外にもリリィは笑った。
「そっか…なら、説明はいらないね。じゃあ、この状況になってる理由を考えよう?」
「…」
「?」
「いや、どうして黙ってたの!?と怒鳴ってくるものだと思っていた」
「まぁ、そう言いたいのは山々だけど、こんな話して信じる人、そういないし…もしかして、だけど、ヴェル君…学校に能力のことで嘘ついてるでしょ」
言っておこう。嘘はついていない。言葉にするのがめんどくさい。それに、こんな能力あることを伝えた瞬間、何に利用されるかわからない。
「図星?」
「いや、嘘はついていない」
「嘘『は』?」
「実はリリィじゃないだろ…お前」
「じゃあ、ヴェル君にだけ教えてあげる。私の能力は、最大の力で使えば私自身も巻き込むけど、私が能力を使ったって事実は変わらないんだよ」
つまり、昨日イヴの記憶を探ろうとして間違えて自分の記憶を探り、結果能力で戻ったことを知った。…ってところか。
「偶然の成果ってことか」
「う゛っ…」
「図星だな」
「…と、とにかく!ヴェル君はこの状況を知ってたんだよね」
「あぁ」
「なら、状況を整理して、どうにかこの時間からでないと。イヴちゃんが能力を暴発させる訳じゃなくて、私が何度も繰り返してるんだから…なにかあったんだよね」
「そうだな」
リリィの考察に相槌を打っていると、突然顔を上げると
「そういえば、ヴェル君の能力ってなんなの?」
なぜだ。リリィは俗に言う天然なお姉さんなキャラだと思っていたが、無駄に今日は鋭い。
「五感を共有するわけじゃないんだよね?」
「…はぁ…」
負けた。今回リリィに能力を言ったところで、問題はないだろう。
「五感っていうのは、一体どこで感じてると思ってる?」
「どこでって…手とか足とか鼻とか?」
「それは受容器。そこから神経を伝って、いずれは脳に届く。そして、その刺激がなんなのかを理解して感じ取るのは脳だ」
「………え!?もしかして…」
「脳の共有…というよりも、脳の情報の共有が正しいが…」
あまり言いふらさないでくれと、念を押したあとリリィは頷き
「じゃあ、私の心とか読めるってこと…?」
「まぁ、読めなくはないな」
「…」
「必要がなければ読まない」
「必要があれば読むんだ…」
事実読んだ過去があるから、そこは否定しないぞ。
「まぁ、いいや。じゃあ、ヴェル君。他にイヴのことで知ってることはない?」
「…なくはない。だが、言う気はない」
「え…」
「これを上が認めれば、イヴが箱庭から追放されることはないだろう。だが、まず認めないし、認めた場合、それはイヴが求めてるものではない」
「…じゃあ、このままこの変わらない毎日が続いていいの?」
「あぁ。別に苦痛でもないからな」
リリィは何か言いたそうだったが、入ってきた人物を見て口を閉じた。
「あれ…先輩。体はもういいんですか?」
「あ、うん!もう平気。心配かけちゃったごめんね」
「いえ!でも、もう治療は、いいです…」
それはリリィを気遣ってなのだろう。リリィも何も言えずに、わかった。とだけいって、教室を出た。




