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react a time  作者: 廿楽 亜久
第2幕
13/18

12

朝練の声がこの教室まで響いてきていた。教室のドアが開く音。目を向ければリリィだった。


「おはよう」

「お前はいつからこの学級の生徒になったんだ?」

「あははっちょっとなりたいかも」

「それなら、留年が必要だな」

「それはちょっと無理かな…?」


そんな冗談はさておき、リリィは俺の向かいに座るといきなりあの質問をしてきた。


「イヴの記憶に何度も同じ日が繰り返されてるの」

「まぁ、似たような日常だしな」

「違う。似たようなじゃなくて、同じ。全く同じなの。イヴが追放されるところで、いつも巻き戻ってる」

「…」

「もしかして、ヴェル君。知ってたの?」

「あぁ」


頷く俺に、なにか怒鳴ってくるかとも思ったが、意外にもリリィは笑った。


「そっか…なら、説明はいらないね。じゃあ、この状況になってる理由を考えよう?」

「…」

「?」

「いや、どうして黙ってたの!?と怒鳴ってくるものだと思っていた」

「まぁ、そう言いたいのは山々だけど、こんな話して信じる人、そういないし…もしかして、だけど、ヴェル君…学校に能力のことで嘘ついてるでしょ」


言っておこう。嘘はついていない。言葉にするのがめんどくさい。それに、こんな能力あることを伝えた瞬間、何に利用されるかわからない。


「図星?」

「いや、嘘はついていない」

「嘘『は』?」

「実はリリィじゃないだろ…お前」

「じゃあ、ヴェル君にだけ教えてあげる。私の能力は、最大の力で使えば私自身も巻き込むけど、私が能力を使ったって事実は変わらないんだよ」


つまり、昨日イヴの記憶を探ろうとして間違えて自分の記憶を探り、結果能力で戻ったことを知った。…ってところか。


「偶然の成果ってことか」

「う゛っ…」

「図星だな」

「…と、とにかく!ヴェル君はこの状況を知ってたんだよね」

「あぁ」

「なら、状況を整理して、どうにかこの時間からでないと。イヴちゃんが能力を暴発させる訳じゃなくて、私が何度も繰り返してるんだから…なにかあったんだよね」

「そうだな」


リリィの考察に相槌を打っていると、突然顔を上げると


「そういえば、ヴェル君の能力ってなんなの?」


なぜだ。リリィは俗に言う天然なお姉さんなキャラだと思っていたが、無駄に今日は鋭い。


「五感を共有するわけじゃないんだよね?」

「…はぁ…」


負けた。今回リリィに能力を言ったところで、問題はないだろう。


「五感っていうのは、一体どこで感じてると思ってる?」

「どこでって…手とか足とか鼻とか?」

「それは受容器。そこから神経を伝って、いずれは脳に届く。そして、その刺激がなんなのかを理解して感じ取るのは脳だ」

「………え!?もしかして…」

「脳の共有…というよりも、脳の情報の共有が正しいが…」


あまり言いふらさないでくれと、念を押したあとリリィは頷き


「じゃあ、私の心とか読めるってこと…?」

「まぁ、読めなくはないな」

「…」

「必要がなければ読まない」

「必要があれば読むんだ…」


事実読んだ過去があるから、そこは否定しないぞ。


「まぁ、いいや。じゃあ、ヴェル君。他にイヴのことで知ってることはない?」

「…なくはない。だが、言う気はない」

「え…」

「これを上が認めれば、イヴが箱庭から追放されることはないだろう。だが、まず認めないし、認めた場合、それはイヴが求めてるものではない」

「…じゃあ、このままこの変わらない毎日が続いていいの?」

「あぁ。別に苦痛でもないからな」


リリィは何か言いたそうだったが、入ってきた人物を見て口を閉じた。


「あれ…先輩。体はもういいんですか?」

「あ、うん!もう平気。心配かけちゃったごめんね」

「いえ!でも、もう治療は、いいです…」


それはリリィを気遣ってなのだろう。リリィも何も言えずに、わかった。とだけいって、教室を出た。

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