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react a time  作者: 廿楽 亜久
第2幕
12/18

11

リリィが目を覚ましたと、連絡は入っていない。

あの時、何が起きたのかイヴを含め全員がわかっていなかった。とはいえ、リリィが倒れたのは事実。教師は慌ててイヴに事情を聞くために、また呼び出しをしていた。

俺とマイクは保健室にリリィの様子を見に向かっていた。


「失礼しまーす」


マイクが先に入れば、電気も消してあり誰もいない。奥のベッドのカーテンが閉められているから、おそらくあそこにリリィはいるだろう。


「…なぁ、ヴェル」

「なんだ?」

「リリィ先輩、まだ寝てるよな?」

「そうだろうな」

「…オレらが開けていいの…?」

「…」


男が2人で女が寝ているであろうベッドに、放課後やってきた。


「どうでもいいことだな」


後ろで悲鳴が聞こえたが、カーテンを開ければ眉間にしわを寄せているリリィがいた。起きかけているみたいだ。


「あーあー!!やっぱ寝てんだろ!?というか、おまっ…!!少しは恥ずかしいとか、そういうのってねぇのかよ!?」


寝てる相手がいる前で大声で怒鳴るのはどうなんだ?

…と、口に出す前にリリィの瞼が微かに持ち上がる。これが、病人だったらマイクが悪いが、今回ばかりはいいことだ。


「ヴェル…君?」

「あぁ。おはよう。リリィ」

「…え?なんで私!?」


色々混乱しているようで、飛び起きると頭を抑えながら何が起きたのか、整理していた。その間、隣のベッドに腰掛けていた。

やがて、真っ青な顔で俺たちを見た。


「そうだ!!大変なの!!」

「大変?どうしたんすか?急に」

「すぐに先生たちに伝えないと…!!」

「お、落ち着いてくださいって。先輩」

「落ち着けるわけないでしょ!?イヴちゃんが…!?」


差し出した紙コップに、リリィはしばらくそれを見て、そのあと俺を見た。


「茶でも飲んで落ち着け」

「…」

「それ、どこから持ってきたんだよ…」

「そこの給湯器はお湯が出る。ティーパックは机に置いてあった」

「勝手に取ったのかよ…」

「問題ないだろう。たぶん」


リリィはそれを受け取ると、ベッドに座った。


「と、とりあえず、先輩、もう体はいいんですか?」

「あ、うん。今は平気。ごめんね。心配かけちゃって」

「いや、全然!」


リリィは俺を見ると、先程あったことを語りだした。


「イヴの記憶をほんの少しだけ見ようとしたのは知ってるよね?」

「あぁ」

「その時に、本当に一部だけを掬いとったはずだったの。だけど、私の頭が処理できる量じゃなかった」

「え…?」


マイクが隣で驚いていたが、俺はある意味で納得していた。何度繰り返したかわからない今の記憶ごと一気に見たなら、倒れるのもわかる。俺は、一部しか見ていないから、倒れるまではいかなかったが、間違えればリリィと同じ状況になっていたかもしれない。


「でも、寝てる間に私はその記憶を夢として見てたの。だから、イヴちゃんの記憶を見ること自体は出来た」

「じゃあ、能力についても」


マイクの言葉には首を横に振った。わからなかったという。


「最初に見たのは、今と変わらない学校での記憶だった」

「確かに、それでは能力はわからないな」

「うん。それで、次に見たのは、昔…だと思う」

「思うって、ちっちゃい時のイヴとかが見れたんじゃないんですか?」

「主観だから、そういうのはわからないんだけど、目線はそんなに変わってなかったかな…それに、あまりいい記憶じゃなかったから」


リリィには何も告げず、能力を発動させればリリィが今思い出していることが目に浮かぶ。

道行く人は恐怖の色を瞳に宿し、皆一様にこう告げる。


『化け物』


イヴはただひたすらに泣いていた。1人で、ずっと。


「ヴェル君?」

「…」

「おーい。ヴェル」


2人に呼ばれ意識を戻せば


「化け物って呼ばれてたってことは、何かしら能力はあるってことよね?」

「そうだろうな…無意識に能力を使わないようにしてた。というところか」


これといって、何か能力がわかったというわけではないが、一つだけ重要なことはわかった。

イヴは確かに能力者だ。だが、それを証明する手立てはない。


「私、もう少し探してみる。どっちにしても、先生が言ってからじゃないと帰れないし」

「え、でも…先輩無理しない方が…」

「大丈夫。それに、時間もないし」


そう。明後日にはイヴは箱庭から追放される。

リリィが自分の世界に入っていった。

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