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リリィが目を覚ましたと、連絡は入っていない。
あの時、何が起きたのかイヴを含め全員がわかっていなかった。とはいえ、リリィが倒れたのは事実。教師は慌ててイヴに事情を聞くために、また呼び出しをしていた。
俺とマイクは保健室にリリィの様子を見に向かっていた。
「失礼しまーす」
マイクが先に入れば、電気も消してあり誰もいない。奥のベッドのカーテンが閉められているから、おそらくあそこにリリィはいるだろう。
「…なぁ、ヴェル」
「なんだ?」
「リリィ先輩、まだ寝てるよな?」
「そうだろうな」
「…オレらが開けていいの…?」
「…」
男が2人で女が寝ているであろうベッドに、放課後やってきた。
「どうでもいいことだな」
後ろで悲鳴が聞こえたが、カーテンを開ければ眉間にしわを寄せているリリィがいた。起きかけているみたいだ。
「あーあー!!やっぱ寝てんだろ!?というか、おまっ…!!少しは恥ずかしいとか、そういうのってねぇのかよ!?」
寝てる相手がいる前で大声で怒鳴るのはどうなんだ?
…と、口に出す前にリリィの瞼が微かに持ち上がる。これが、病人だったらマイクが悪いが、今回ばかりはいいことだ。
「ヴェル…君?」
「あぁ。おはよう。リリィ」
「…え?なんで私!?」
色々混乱しているようで、飛び起きると頭を抑えながら何が起きたのか、整理していた。その間、隣のベッドに腰掛けていた。
やがて、真っ青な顔で俺たちを見た。
「そうだ!!大変なの!!」
「大変?どうしたんすか?急に」
「すぐに先生たちに伝えないと…!!」
「お、落ち着いてくださいって。先輩」
「落ち着けるわけないでしょ!?イヴちゃんが…!?」
差し出した紙コップに、リリィはしばらくそれを見て、そのあと俺を見た。
「茶でも飲んで落ち着け」
「…」
「それ、どこから持ってきたんだよ…」
「そこの給湯器はお湯が出る。ティーパックは机に置いてあった」
「勝手に取ったのかよ…」
「問題ないだろう。たぶん」
リリィはそれを受け取ると、ベッドに座った。
「と、とりあえず、先輩、もう体はいいんですか?」
「あ、うん。今は平気。ごめんね。心配かけちゃって」
「いや、全然!」
リリィは俺を見ると、先程あったことを語りだした。
「イヴの記憶をほんの少しだけ見ようとしたのは知ってるよね?」
「あぁ」
「その時に、本当に一部だけを掬いとったはずだったの。だけど、私の頭が処理できる量じゃなかった」
「え…?」
マイクが隣で驚いていたが、俺はある意味で納得していた。何度繰り返したかわからない今の記憶ごと一気に見たなら、倒れるのもわかる。俺は、一部しか見ていないから、倒れるまではいかなかったが、間違えればリリィと同じ状況になっていたかもしれない。
「でも、寝てる間に私はその記憶を夢として見てたの。だから、イヴちゃんの記憶を見ること自体は出来た」
「じゃあ、能力についても」
マイクの言葉には首を横に振った。わからなかったという。
「最初に見たのは、今と変わらない学校での記憶だった」
「確かに、それでは能力はわからないな」
「うん。それで、次に見たのは、昔…だと思う」
「思うって、ちっちゃい時のイヴとかが見れたんじゃないんですか?」
「主観だから、そういうのはわからないんだけど、目線はそんなに変わってなかったかな…それに、あまりいい記憶じゃなかったから」
リリィには何も告げず、能力を発動させればリリィが今思い出していることが目に浮かぶ。
道行く人は恐怖の色を瞳に宿し、皆一様にこう告げる。
『化け物』
イヴはただひたすらに泣いていた。1人で、ずっと。
「ヴェル君?」
「…」
「おーい。ヴェル」
2人に呼ばれ意識を戻せば
「化け物って呼ばれてたってことは、何かしら能力はあるってことよね?」
「そうだろうな…無意識に能力を使わないようにしてた。というところか」
これといって、何か能力がわかったというわけではないが、一つだけ重要なことはわかった。
イヴは確かに能力者だ。だが、それを証明する手立てはない。
「私、もう少し探してみる。どっちにしても、先生が言ってからじゃないと帰れないし」
「え、でも…先輩無理しない方が…」
「大丈夫。それに、時間もないし」
そう。明後日にはイヴは箱庭から追放される。
リリィが自分の世界に入っていった。




