10
前回と会議の内容は変わらなかった。呆れつつも、いつもと変わらない時間に教室に入れば
「おはよう」
リリィがいた。時計を確認してみるが、始業50分前。部活でもなければこんな早くに来る人間はいない。俺みたいなただなんとなく暇だから来る…って人間もいなくはないが。
「ヴェル君?」
「どうして、ここにいるんだ?」
「え?だって、昨日言ったじゃない。イヴちゃんの記憶を思い出すためにって。ほら、昨日の放課後出来なかったから」
そういうと、リリィは俺を真剣な目で見て
「実はさ…」
「イヴがここから追い出されそうになってるんだろ?」
「知ってたの!?」
「あぁ。まぁな」
物凄く納得いかないような顔をしているが、何も言わずに俺の向かいの席に座る。
「そうなの。だから、時間がないの」
「…そうだな」
「どうにかしてあげたいの。ヴェル君。協力してくれない?」
「協力といっても、俺に手伝えることはないだろ」
「あるよ!ヴェル君、人を言いくるめるの得意じゃない」
そのリリィの言葉に唖然としていたら、理由を説明された。どうやら、一度決めたことをなかったことにするのは、学園にとっても管理者にとっても都合の悪いことらしい。だから、それなりの理由がないと取りやめは行われない。だが、俺が適当な屁理屈を考え、リリィと共に発言すればもしかしたら取り止めを行うかもしれない。という理由らしい。
「ね?どうかな?」
俺がどう…とかそれ以前に、イヴの記憶がもどることが第一条件だ。頷いても意味がない。
かといって、断る理由もない。
「イヴの記憶が戻ったならな」
「うん!それは、私が頑張ることだから!」
始業15分前になり、イヴがやってきた。いつもより少し早い時間。俺と同様、リリィがいることに驚いたが、理由を聞いて困った表情を浮かべる。
「やらないよりは、やってみよ?」
「…」
イヴは下を向いたまま、頷かない。リリィも俺にどうにかして欲しいと視線を向けてきたが、さて…どういったものか。
「イーヴー?」
そんな時だ。能天気な声が窓から聞こえた。体操服姿のマイクだ。
「お、これから治療ってやつ?見たことないから、気になっててさ」
どうやら、この能天気、昨日のリリィの言葉をしっかり覚えてた上で、治療の状況を見に来たらしい。とりあえず、今の状況を伝えれば、驚いた顔をしたあと
「当たって砕けてみなきゃわかんねぇって!」
「砕けるの前提だな。その言い方だろ」
「あ゛っ…言葉の綾だろ…!!」
「ほぅ…言葉の綾というのを知っていたのか」
「馬鹿にすんな!!」
「ふふっ…」
声を押し殺した笑いに、振り返ってみればイヴが笑っていた。
「先輩。やってみます。できるか、はわかりませんけど…」
何がイヴをそう思わせたのか、ついいつもの展開と違って、驚いていたから調べ損ねた。
「うん!わかった!一緒に頑張ろ!」
リリィとイヴは互いに集中して、そして…
リリィが倒れた。
「「先輩!?」」
マイクは窓を飛び越えて教室に入り、イヴは駆け寄り先輩と叫び続けていた。俺は、ただその状況を理解することもできず、とにかくやるべきことはひとつだった。
「早く保健室に連れて行くぞ!」
その言葉に、マイクがやっとリリィを抱えて教室を出た。




