01
気がつけば、朝だった。ここ最近、ぼんやりといつの間にか寝て、起きている気がする。
いつものように、制服を着てごはんを食べていつもの通学路を歩く。
通学する生徒の流れが、校舎の中に入り、教室に向かう。だが、その教室の流れから反対に流れる女子生徒がいた。そのまま、まだ薄暗い廊下を突き当たりまで進むと、小さな一つの特別教室がある。
生徒はそのドアを開け、中にはいる。席はたった3席。
「あ、おはよう!ヴェル!相変わらず、早いね」
「あぁ。イヴか」
一度、時計を見ると始業10分前。
「今日はずいぶんとギリギリじゃないか」
「え…まだ10分あるけど…」
2人の時間の感覚はずいぶん違うのだろう。イヴは席に座り、荷物を置いて準備を始めた。
そして、5分前になると今だに空いている最後の席を気にしだす。
「マイク、遅くない?」
「ん…いつものことじゃないか?」
何事もないかのように、そう言い、こう続けた。
「おおかた、寝坊でもして、今頃全力で走って登校している最中だ――」
その言葉が終わる前に、ドアが勢いよく開く。
「すみませんでしたぁあ!!寝坊しましたぁぁああ!!!」
「ほらな」
始業のチャイムをかき消すように入ってきた、ここの3人目のクラスメイト マイク。
「あ、先生いない。こりゃラッキー」
まだ教師がいないことを幸いに、そのまま席に座り何事もなかったかのように振り返りイヴに挨拶をした。
「おっす。イヴ」
「おはよう。今日はギリギリだったね」
「ほんとっすよ」
「ギリギリアウトだろ」
「それは言わねぇ方向で。ま、遅刻確認をする先生が知らなければいいんだよ。はーあちっ…」
下敷きで扇いでいるとやっと教師が来た。
「マイク。職員室まで聞こえてたぞ。遅刻だからな」
「そ、そりゃないっすよ!」
結局、遅刻になったマイクだった。
「まったく…お前といったら、成績も悪ければ素行も悪い…いったいお前には何があるんだ?」
「元気とか運動神経とかっすかねぇ」
さらっと返すマイクに、教師の長い説教が始まる。この話の内容はいつも同じだ。
ここは箱庭と呼ばれている。その理由は簡単なもので、辺りを囲む高い壁。
行き来するには壁に開いた唯一の小さな穴を通るしかない。そこには、関所があり、普通の人はは行き来なんてできない。
そこを通り、中に入ることができるのは、政府の一部の人間と、能力者と呼ばれる667名の生徒。
それぞれ何かしらの能力を持ち、その中でも人にとって有意義であるとされる順番に順位付けされている。その順位が高ければ、後にこの学校を卒業し、社会貢献をする際に待遇がよくなるとされている。
だが、この離れの教室にいる生徒はというと…
「『自分の五感を他人に共有させる』程度の能力に、元々の才能があるおかげで能力がどれほどのものかわからない生徒に…」
教師は一度イヴを見ると、続ける。
「能力者の判定は出ても、能力が引き出せない記憶障害の生徒」
この教師は別に能力者でもないのに、いつも3人を蔑む。
いや、この教師に限ったことではない。この学校にいる生徒のほとんどが同じようなものだ。特に能力の低い3人を、影から笑っていた。
「イヴはそのことでちゃんと今治療を受けてるじゃないっすか!」
マイクがそう怒れば、教師はため息をついて呆れる。当たり前だ。
その治療は一体いつからやり続けているのだろうか。
「アホらしい…」
「ヴェル!?」
「別に能力を選んだわけでもない。たまたま、能力がそれだっただけで、それに今更嘆いたところで意味がないでしょう?今すべきなのは、授業だと思いますが」
「っ…そうだな」
教師はやっと説教を終えて、授業を始めた。




