投獄された悪役令嬢は、ブチ切れながら監査する
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
「アメリア・フォン・ローゼンベルク!」
卒業パーティーの最中、王太子の声が響き渡った。
「お前との婚約を破棄する!」
会場がどよめく。
アメリアは静かに瞬きをした。
「理由をお聞きしても?」
「貴様は聖女エリナへの嫌がらせを繰り返した!」
「しておりませんが」
「証人はいる!」
「誰ですの?」
「エリナだ!」
「本人ですわね」
話にならなかった。
そのままアメリアは衛兵に連行された。
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そして投獄された。
狭い牢屋。
冷たい石床。
硬いベッド。
アメリアはため息を吐く。
「最低ですわね……」
処刑だろうか。
追放だろうか。
どちらにせよ碌な未来ではない。
そんなことを考えていると翌日、牢の扉が開いた。
兵士が何人も入ってくる。
そして運ばれてきた。
机。
椅子。
帳簿。
書類。
帳簿。
書類。
帳簿。
帳簿。
帳簿。
「……」
アメリアは黙った。
兵士も黙った。
部屋の半分が帳簿で埋まった。
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「何ですの、これは」
「監査資料だ」
「監査……?」
「王命だ」
わけがわからない。
兵士はさらに書類を積み上げながら言った。
「喜べ」
「喜べ?」
「これを終わらせる限り生かしてやる」
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アメリアは人生で初めて思った。
処刑の方がマシではないかと。
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数日後。
アメリアは机に向かっていた。
目の下には隈。
髪は少し乱れている。
そして。
「不正だらけですわね」
静かに呟いた。
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王立騎士団。
消耗品費。
年間金貨三万枚。
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「剣を何本購入したらこうなりますの?」
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調査。
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実際の購入数。
帳簿の半分。
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「横領ですわね」
ポイ。
証拠箱行き。
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次。
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王宮厨房。
接待費。
年間金貨一万二千枚。
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「どなたが毎日宴会してましたの?」
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調査。
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王太子派閥。
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「横領ですわね」
ポイ。
証拠箱行き。
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次。
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魔導省。
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研究費。
金貨五万枚。
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「研究成果は?」
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空白。
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「横領ですわね」
ポイ。
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一週間後。
証拠箱が十個になった。
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二週間後。
二十個になった。
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三週間後。
牢屋より証拠箱の方が広くなった。
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「おい」
見張りの兵士が言う。
「また増えたのか」
「増えましたわ」
「不正か?」
「不正ですわ」
「毎日見つかるな」
「毎日ありますもの」
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兵士は王国の未来に絶望した。
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さらに一か月後。
アメリアはとある帳簿を発見した。
王太子直属特別会計。
閲覧禁止。
極秘。
そう書かれている。
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「……あら?」
めくる。
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「あらあら?」
めくる。
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「まあ」
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そして美しく微笑んだ。
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兵士は震えた。
この一か月で理解していた。
アメリアが笑う時。
誰かが終わる。
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「見つかりましたわ」
「何がだ?」
「私が無実である証拠ですわ」
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兵士が固まる。
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「それだけではありませんわ」
アメリアは帳簿を持ち上げる。
「王太子」
ドン。
「財務大臣」
ドン。
「騎士団長」
ドン。
「魔導大臣」
ドン。
「宰相補佐」
ドドドドドン。
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「全員終わりですわ」
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数日後。
王宮大法廷。
王太子は余裕の笑みを浮かべていた。
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「罪人アメリア! 最後に言い残すことはあるか!」
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アメリアは微笑む。
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「ございますわ」
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バン!
法廷の扉が開かれる。
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兵士たちが入場。
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帳簿。
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帳簿。
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帳簿。
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帳簿。
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帳簿。
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帳簿。
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帳簿。
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「まだあります」
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王太子の顔が引きつった。
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財務大臣が青ざめた。
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宰相補佐が倒れた。
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アメリアは優雅に紅茶を飲む。
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「それでは監査報告を始めます」
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六時間後。
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王太子、失脚。
財務大臣、逮捕。
騎士団長、逮捕。
魔導大臣、逮捕。
関係者百三十二名処分。
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そして。
王はアメリアへ頭を下げた。
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「本当に申し訳なかった」
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アメリアは笑顔で答える。
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「構いませんわ」
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王は安堵した。
優しい人だ。
なんて心の広い女性だろう。
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そう思った瞬間。
アメリアは一通の書類を差し出した。
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「ところで陛下」
「うん?」
「監査したところ王家の予算管理にも問題がありました」
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王の顔から血の気が引く。
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「三年分ほど確認いたしましょう」
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「アメリア?」
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「逃がしませんわよ?」
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その日。
王は初めて理解した。
悪役令嬢とは。
悪ではない。
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帳簿で殴ってくる生物である、と。
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