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聖女アマンダは悪女になりたい!!

作者: 久遠れん
掲載日:2025/11/22

「私は悪女になる!!」


 誰もいない自室で宣言するのはアマンダ・ヴィアール。

 半年ほど前に聖女として教会に正式認定された女神の加護を受けた聖なる乙女である。


 だが、彼女自身は「聖女などクソ食らえ」だと思っている。

 むしろ、目指すべきは「悪女」だと信じていた。


 なぜなら、アマンダの両親はとても人の良い医者で、清く正しく生きてきた。

 なのに、王都を流行り病が襲った際に、他人を優先して病人を看病し続けた結果、本人たちが病によって命を落とした。


 両親が病で苦しんでいるときに見捨てたのは、両親が親身になって助けた人々で、一人きりになったアマンダが人間不信になる理由として十分だ。


(善人だけが損をする)


 そう信じてしまうほど、両親の最後は呆気なく悲しいものだった。

 だから、彼女は聖女だと教会に認定されてなお、悪女になりたいし、悪女こそが目指すべき人生の到達点だと考えている。


(大体、お父さんとお母さんが死んだ直後に聖女認定だなんて!)


 元々片鱗はあった。

 父も母も治せない重篤の患者――とくに瘴気に蝕まれた魔物討伐を行った後の騎士などは、アマンダが励ますために手を握るだけで症状が緩和していた。


 両親は「うちの子は天才だ」と褒めて、教会に届け出た。

 生きている間に聖女に認定されていれば喜んでくれたかもしれないが、両親亡きいま聖女として認められても空しいだけだ。


(お父さんとお母さんが病気で死にそうなときに『聖女候補が死んだら困るから』とかいって引き離した教会なんて信じられない!)


 アマンダが助かったのは、聖女として認めるかどうか教会で議論が行われている最中だったことに起因する。

 もし本当の聖女ならば、流行り病で死んでもらっては困ると強制的に両親から隔離された。


 だから、彼女は両親の死に目に会えていない。

 患者から病気を貰ってやつれている両親から引き離されて、次に会ったときには両親は物言わぬ状態で、棺桶の中だった。


 それも『死んでなお病を保有しているかもしれない』と顔すら見せてもらえなかったのだ。


「絶対、絶対許さない……!」


 教会の一室、聖女として認められたアマンダのために整えられた室内は、医者の娘とはいえ平民だった彼女には広すぎて虚しさを覚えるほどだ。


 教会での生活は、毎日神に祈りながら、信徒の懺悔を聞くこと。

 三食の美味しいご飯に、おやつだってついてくる。ふかふかのベッドで寝れて、貴重な文献を読み漁ることも可能だ。


 決められたルーティン通りの生活は少し不便だったけれど、それ以外は恵まれている。

 人の役に立ちなさい、という両親の教えと合わせて、人が羨む環境である自覚はあった。

 だが、それ以上の嫌悪感と不信感が彼女の胸の中を渦巻いている。


「悪女になって、聖女認定を取り消させてやる……! 私は自由に生きるの!」


 誰もいない室内で、聖女のための真っ白な洋服に身を包み、聖女と認められる少女は『悪女』になるべく決意を固めていた。






 『悪女になろう大作戦』の一環として、まずは神に祈りを捧げる大切な礼拝をサボった。


 王都の街をぶらぶらと歩く。

 聖女の服は目立つが、それ以外の私服を取り上げられているので、仕方なく聖女としての汚れひとつない真っ白な服を身に纏って、彼女は気が赴くまま街中を歩いた。


 その時、ふと大通りを奥に一本曲がった道から人の声が聞こえてきた。


「?」


 足を止めてじっと裏通りに続く路地を見る。

 王都で育った彼女だが、両親から「道を一本奥に行くと危ないから、決して足を踏み入れてはいけないよ」と教えられていた。


 なので、ギリギリまで近づいて聞き耳を立てた。

 風に乗って聞こえてくる言葉は、どうやら言い争いの声のようだ。


 眉を潜めたのは、片方は大人の男性の声に聞こえるのだが、もう片方が明らかに声変わりも終わってない子供の声だったから。


 迷った末に、アマンダは自分の中の正義感に従って路地に入った。

 できるだけ足音を殺して慎重に進むと、路地の奥で案の定揉めていた。


「俺じゃない! 俺じゃないんだ!!」

「お前以外の誰が盗むんだ!」


 薄汚れボロボロになった洋服を見纏った十歳ほどの少年を恫喝しているのは、恰幅のいい男だ。

 アマンダはその男に見覚えがあった。協会によく寄進をしている商人だ。ルチーノ商会の会長ルタスに間違いなかった。


「何事ですか?」


 聖女らしいすんだ声音でなにもわかりませんというように問いかける。

 話の内容から子供の方が盗みを疑われているようだが、そ知らぬふりをした。

 びくりと肩をすくめた少年と商人が同時に振り向く。


「アマンダ様! このような場所にどうして!」


 アマンダの姿を見た瞬間、子供の腕を掴んでいた手をぱっと放したルチーノに彼女はあえてゆっくりと首を傾げる。


「ルチーノ様、なにがあったのでしょうか。表通りまでお声が届いていました」

「ああ、これはお恥ずかしい。この子供が店のものを盗んだもので。追いかけて問い詰めておりました」

「俺じゃない!! 盗んでない!!」


 必死に訴える少年の言葉に、アマンダはルチーノを見上げる。


「彼は自分ではない、と言っていますが」

「こやつに間違いないのです。アマンダ様、私をお疑いになるのですか?」


 このままでは話が平行線だ。

 内心でため息を吐き出して、アマンダはその場に膝を折って少年と目線を合わせる。


「貴方、女神様に誓って『自分ではない』と言える?」

「いえる!!」


 即答した少年に聖女らしく微笑みかけ、再び立ち上がったアマンダは苦い顔をしているルチーノに視線を向ける。


「ルチーノ様、女神様に誓った言葉に偽りはありません」

「ですが……!」


 ここで「貴方も女神に誓えますか?」と問いかけてもいいが、それはすこし意地が悪い。

 なので代わりに、彼女は一つの取引を口にした。


「ここは私に免じて見逃していただけないでしょうか。次の寄進のさい、優先してお祈りをいたします」

「おお! それならば!」


 聖女の祈りは女神の加護だ。商売繁盛の意味もある。

 目を輝かせるルチーノににこにこと微笑み続ける。


「アマンダ様に感謝するんだぞ! では、私はこれで」


 一言釘を刺してそそくさと路地裏から出ていく背中を見送る。

 そっと息を吐き出すと、聖女の服の裾を引かれた。


「……お姉さん、もしかして聖女様なのか……?」

「ええ、そうよ」


 聖女の仮面をかぶりなおして頷くと、途端に少年は小さくなった。


「本当に、俺じゃないんだ……」

「ええ、貴方の言葉に嘘はないと分かっています。場を丸く収めたかったの。ごめんなさい」


 貴方の無罪を証明できなかった。

 そう謝罪して頭を下げると、少年は慌てて両手をぶんぶんと左右に振る。


「ちが! 違うんだ! 助けてくれてありがとうっていいたくて!!」

「丁寧にありがとう」


 そっと洗髪できていない影響でごわごわの髪を撫でる。

 さらに奥の路地から「お兄ちゃん……」という声が聞こえた。


 視線を滑らせると、七歳ほどの幼い少女がこちらに駆け寄ってくる。

 いままで隠れていたのだろう。


「貴方たち、親御さんはいる?」

「いない。死んだよ」


 うつむいた頭をさらに撫でて「それなら」とアマンダは軽やかに一つの提案を口にする。


「孤児院に入らない?」






 偶然拾った子供たち、カイとエルと名乗った二人を孤児院に送り届け、シスターにくれぐれもよろしくお願いします、と頼んだ後。


 結局気晴らしにはならなかったなぁと教会に戻ると、なぜか称賛された。


 通りかかった人たちから「聖女様が孤児を救った」という話がすでに教会に伝わっており、女神への祈りも大切だが、同時に人助けも善行だと称えられたのだ。


 そんなつもりではなかったのに、とキリキリ痛む胃を抑えつつ、彼女は『悪女になろう大作戦』の第二弾を計画した。


 次の作戦は国が行う式典への出席拒否。聖女として行うべき責務を放棄すれば、今度こそ『聖女の自覚なし』として聖女ではなくなるだろうと踏んだのだ。


 そんなわけで、式典当日。


 アマンダは早朝にこっそりと教会を抜け出した。

 向かったのは先日子供たちを預けた孤児院だ。


 一日そこで時間を潰すつもりである。

 王都の外れにある孤児院まで探しには来ないだろうと思ってのことだった。

 だが、そこで目にしたのはまたも揉め事の現場。


(なんでこうなるの……)


 馬車が孤児院の傍にある時点で嫌な予感はしていた。

 話を聞くに屈強な男を二人引き連れた貴族らしき男が、シスター相手に立ち退きを要求している。


「なんの騒ぎですか」


 凛と声を張り上げる。

 自ら揉め事に首を突っ込みたくはなかったが、ここは教会の管轄下の孤児院だ。見て見ぬふりは出来ない。


 聖女であるアマンダの登場に、シスターは目を輝かせ、貴族の男は舌打ちをする。

 しかし、すぐに表情を取り繕って、媚びへつらうような笑みを浮かべた。


「これはこれは、聖女様。どうされたのですか?」

「こちらの問いにお答えください。先ほどの騒ぎはなんですか?」


 聖女の肩書は現時点でまだ有効だ。

 怯む必要はないと厳しく問いただすと、男は露骨に眉を潜めた。表情を隠すのがずいぶんと下手だ。


「大したことじゃあございません。わたくしはただ」

「この土地は己のものだと、立ち退きを要求されたのです!」


 男の言葉を遮ったシスターの勇気ある発言に、アマンダはすっと目を細めた。


「この土地は教会の管轄にあります。孤児院もまた同様に。貴方のものではありません」

「おや、これは可笑しい。なにかすれ違いがあるようだ」

「ご自身の土地だと仰るのであれば、土地の権利証明書をお持ちの上、孤児院ではなく教会をお尋ねください。――お引き取りを」


 背筋を伸ばし続ける。こういう時に弱気になれば付け込まれる。

 聖女の言葉を無下にできる貴族はいない。


 男は「そう致します」と表面上は丁寧に告げて、配下の男たちを引き連れて去って行った。

 馬車に乗った姿が見えなくなってから、浅い息を吐く。さすがの彼女も緊張していた。


「ありがとうござます、アマンダ様……!!」

「いいえ。今後も気を付けてください。理不尽な要求には応じず、私の名前や教会を引き合いに出してください」

「はい」


 今後、聖女アマンダの名前がいつまで有効かわからないが。使える間は使ってもらいたい。


「先日、アマンダ様が連れてこられた二人が、お会いしたいとずっといっているのです。寄って行かれませんか?」

「ええ、ぜひ」


 シスターに案内され、教会より安心できる孤児院の中に足を踏み入れる。

 歓迎する子供たちに囲まれて、さあ、これで今度こそ聖女ではなくなるはずだ、と一日をのんびりと過ごした。






 しかしながら。


 夕方ごろにアマンダを探して孤児院までやってきた教会の人間に連れられて、教会に戻ると彼女はとても労われた。


 なんでも彼女が子供たちと戯れている間にシスターが事の次第を手紙で教会に知らせたらしい。

 その結果、彼女は孤児院の危機を事前に察知して、国の行事より孤児たちの安全をとったことになっていた。


 聖女とは斯くありき、などと持ち上げられ、引きつった笑みしか浮かばない。


(どうしてこうなるのよ~!!)


 自室に戻ってベッドにダイブしため息を吐く。今度もうまくいかなかった。

 ならば。


(次こそ成功させるわ……!)


 覚悟を決める。今度はとびっきりの悪女ムーブをするのだ。

 『悪女になろう大作戦』第三弾の計画を練り始めるのだった。






 王宮に招かれたと聞いた時、今度こそチャンスだと思った。


(ここで思い切り悪女ムーブをするの! そしたら今度こそ晴れて聖女失格の烙印よ!)


 王族の食事会に招かれたアマンダは食事を出されても手を付けなかった。

 いつまでたってもスープを前にスプーンを手に取らない彼女に声をかけたのは王太子のブライムだ。


「どうしたのかな、聖女アマンダ」

「――こんなもの、食べられないわ」


 ふん、とそっぽを向く。心臓がバクバクだ。痛いほど脈打っている。

 やってしまってから、さすがにこれは不敬罪で打ち首になるかもしれないと遅れて気づいて青ざめた。


 そんな彼女の内心に気づくはずもないブライムは「なるほど」といって待機していた侍従長を呼んだ。


「聖女アマンダの食事に毒が混ぜられていないか調べてくれ」

「畏まりました」

「?!」


 思わぬ展開にぎょっとしてそっぽを向いていた視線を戻すと、侍従長がアマンダの前に置かれたスープを下げるところだった。

 ブライムは真剣な眼差しをしているし、それは陛下に王妃も同じ。

 彼らもまた、手を付けていない食事を下げさせている。


「え、あの」

「少し待っていて。すぐに結果が出るから」


 にこりといかにも王子様という笑顔で微笑みかけられ、事態が思った以上に大ごとになる気配に、アマンダは顔色を悪くしたのだった。


 結果からいうと。


 聖女アマンダのスープには毒が混ぜられていた。

 遅効性の毒で、毒見役も気づけなかった代物だという。


 食事会の会場となった王族専用の食堂から応接室に移動してから聞かされた言葉に、彼女は卒倒しそうになった。


(あ、危ない!! 聖女を止める前に死ぬところだった!)


 まさかの『悪女ムーブ』によって命が助かった。素直に食べていたらと思うと怖すぎる。

 ソファに座って真っ青な表情で震えるアマンダの前に、ブライムが膝をつく。


「安心してほしい。犯人は必ず見つけ出すから」

「はい、殿下」


 励ましの言葉に小さく頷く。さすがにここで『悪女ムーブ』をするほど、彼女の心臓は鋼ではなかった。




▽▲▽▲▽




(女神の信託でも得ているようだ)


 無味無臭で遅効性、毒見役も気づかなかった毒に気づいて遠ざけようとした。

 聖女アマンダは女神の加護を受けた、歴代でもトップクラスに優秀な聖女。


 そんな噂が立つのに半日もかからなかった。


 彼女が教会に戻ったのを見届けて、ブライムは自室のソファでくつろぎながら、窓の外へと視線を流す。


 青い空の下で、白い雲が風に流され少しずつ動いている。

 小鳥のさえずりは窓を閉めていても耳朶に届いて気持ちを和らげてくれた。


「面白い子が聖女になったとは思っていたけれど」


 予想以上だ、と彼は一人きりの自室で微笑んだ。






 最初はただの好奇心だった。


 医者の元に生まれた娘が聖女になったと聞いて、教会を訪れた。

 聖女として楚々と振る舞うアマンダは、けれど瞳に憎悪を燃やしていたから、気になった。


 調べれば調べるほど彼女の両親の不遇さが浮き彫りになる。

 助けたはずの人々に見捨てられ、死に目に娘に会いたいと願っても叶えられず。


 アマンダは聖女でありながら教会を憎んでいる。

 そうと気づいたら面白くて、彼女の行動から目が離せなくなった。


 清く正しく聖女らしく。慎ましやかに暮らしているときはつまらないと思った。

 結局、彼女もまた聖女として蜜の味を覚えたのかと。


 だが、三ヵ月ほど前から彼女の行動は大胆に変わった。

 教会での女神への祈りをすっぽかし、裏路地に入り込んで子供を助けた。


 信頼のおける部下から報告を受けた時は偶然かと思ったが、その一週間後に国の式典をサボって足を運んだ孤児院を救ったときに、もしかしたら、と思った。


 そして先日の毒スープの騒ぎで、疑念は確信に変わる。


(彼女は正真正銘の聖女だ。女神に愛されている。――愛されすぎている)


 アマンダの独り言を盗み聞きした部下曰く、彼女は『悪女』を目指しているという。


 それにしては善行を積みに積んでいるが、彼女の中では『女神への祈り』や『国の式典』を欠席することは立派な悪行であるらしい。

 いや、たしかに聖女としては問題行動ではあるのだが。

 ブライムからすれば『本物の悪女』を知らない可愛らしい行動でしかなかった。


 しかしながら、結果的に彼女は善行を積んだ。

 結果が重要視される世界で、彼女は確かに『聖女』であるのだ。


 そこかららさらに発展して『出された食べ物を拒絶する』というなんとも可愛らしい悪行の果てに『毒のスープを見抜いた』あたり、アマンダは女神に愛されているとしか言いようがない。


 なお、毒を盛った犯人はその日のうちに捕まって、いまなお死んだ方がマシという責め苦を受けている。


(女神に愛されている。怖いほどに)


 元々、性根が素直なのだ。

 悪辣非道な行いをしようとして、可愛い抵抗に留まる程度には。


 本当に彼女が『悪女』になりたいのであれば、孤児が責められているのを無視してよかったし、孤児院の不当な立ち退きも見捨てればよかった。スープだって、そっぽを向くんじゃなくてテーブルから叩き落としでもすれば、毒の証拠も露見しなかっただろう。


「ふふ、楽しいなぁ」


 ずっとずっと、決められたレールの上を歩く退屈な人生だった。

 けれどいま、ブライムは格好の玩具を見つけたのだ。


「欲しいなぁ」


 アマンダという名前の、最高の玩具が欲しい。

 そう口にして、彼はにこやかに微笑んだ。






 少しの息抜きにブライムは教会を訪れた。

 息抜きとはいえ、視察も兼ねている。


 荘厳な大聖堂に足を踏み入れると、女神の像の前で真っ白な聖女の服に身を包んだアマンダが熱心に祈りを捧げているのを見た。先に人払いを済ませて、そっと彼女に近づく。


「神に祈るのは止めたのかと思っていたよ」


 軽やかに声をかけると、大理石で反響した足音で存在に気づいていた様子のアマンダが、特に驚くそぶりも見せずに顔を上げた。


 祈りの体制から立ち上がり、怪訝そうにブライムを見る。


「聖女を辞めたいって聞いたんだ」

「……そうですか」


 アマンダは疲れたように微笑んだ。

 どこから聞いたのか、と尋ねないあたり、隠す気はすでにないらしい。


「それで、どうして祈っているの?」

「……一度サボったら」

「サボったら?」


 口ごもった彼女を促すように繰り返す。

 そっと外された視線の先で、心底言いにくそうにアマンダは口を開いた。


「罪悪感が……すごくて……!」

「ふはっ、そうなんだ」


 思わず噴き出したブライムがからころと笑うと、恨みがましい視線が送られてくる。

 子猫にじゃれつかれるより可愛い。笑みを深めてさらに問いかける。


「国の式典をサボったときの心境は?」

「心臓が爆発するかと思いました」

「王宮の料理を食べなかった時は?」

「口からありとあらゆる臓物が飛び出しそうでした」


 なるほど。彼女は緊張感で死にそうになりながら『悪女』をしていたらしい。

 理解した瞬間、肩が震えた。

 くすくすと笑うブライムにじとっとした眼差しが注がれるが、やっぱり痛くもかゆくもない。


「君、本当に面白いね」

「……殿下はそれを伝えるためにわざわざいらしたのですか?」


 早く帰れと言いたげな言葉に「まあまあ」と笑みを含んだ口ぶりで窘める。


「一つ提案があってきたんだ」

「なんでしょうか?」」

「聖女を合法的に辞める方法。聞きたくない?」

「?!」


 かっと目を見開いたアマンダの分かりやすい食いつき方に、やっぱり笑いそうになる。

 少し痛む気がするお腹を押さえて、ブライムは彼女に一つの提案をした。


「私の妃になることだ」

「……は?」

「我が妃となって、国母になれば聖女ではなくなる。合法的だろう?」


 ぽかんとしているアマンダに、ブライムは意味深長に笑う。

 蠱惑的な笑みを意識して浮かべる彼に、一拍おいて意味を理解したらしきアマンダが眉を潜めて絶叫した。


「聖女以上に嫌ですけど?!」

「君は本当に面白いね!」


 王太子からの求婚を断るなんて!


 けらけらと笑いだしたブライムは、これでも本気で求婚していた。

 可愛くて楽しいおもちゃを、それこそ合法的に傍に置きたくて仕方ないからだ。


「帰ってください!! 私は私の力で聖女を辞めます!!」

「そう? なら賭けをしよう」


 にっと唇を吊り上げる。

 彼は生まれてこの方、一度も賭けに負けたことはない。

 同時に、欲しいと思ったものを手に入れられなかったこともなかった。


「半年待つよ。半年後に君がまだ聖女のままだったら、僕の妻だ」

「どうして?!」

「じゃあ、そういうことで」

「待ってください!!」


 ひらりと手を振って教会を後にする。

 一方的だ、無効だと騒ぐ聖女らしからぬアマンダに笑みがこれ以上なく深くなっていく。


(絶対に手に入れる。僕だけのものにしてみせる)


 聖女のまま、たくさんの人のものにはしておかない。必ず自分の妻として、隣に置くのだ。


(君が頑張る様子を楽しみにしているね)


 聖女を辞めるのは、女神の加護がある限り絶対に無理だろうけれど。




 その後、彼らが結ばれたかどうかは。

 女神のみぞ知る。






読んでいただき、ありがとうございます!


『聖女アマンダは悪女になりたい!!』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?


面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも


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