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第一話 神隠し編ⅰ

神隠しとは人が前触れもなく消え去ってしまうこと。

昔の人はそれが幽霊や妖の類のせいだと考えていたらしい。

特に純粋な子供は狙われやすく、純粋な魂を奪るために異世界へ迷い込ませる。それが神隠しというものだ。


まぁそんなものは子供の誘拐や迷子など様々な原因で起きたもので、根拠はない。ただの都市伝説だ。

そう思っていた。


その事件が舞い込むまでは


―――


「ニャァァァー!!」

「まぁそう威嚇するなって」


そう優しく声をかけ、猫の大好物を近いところに寄せる。

が、降りてこない。


「どうしたー早く降りてこないとあげないぞー」


もう一度試すが、ネコ(名前はチャマルというらしい)はその場で動かない。

もしかして、降りるのが怖いのか?

恐らく高いところが得意ではないのだろうな。

荒療治だが仕方ない依頼主が待ってる。


「ちょっとびっくりするかもしれんが許してくれ」


そう呟くと、集中して額に手を当てた。

まわりに何の変化もない。彼以外から見たら。

しかし、彼の目の前で、見えない手がゆっくりと形を成していく。

それは、自分の意志に従い、静かに木の上へと伸びていった。


「おとなしくしててくれよ」


チャマルは、突然自分に触れた何かに驚き、体を震わせた。

警戒して威嚇の声をあげるが、その声は震えている。

焦らず、ゆっくりと、そっとその見えない手でチャマルを包み込む。


「ニャ、ニャーー!」


チャマルは抵抗しようと爪を立てるが、見えない手は柔らかく、傷つけることはない。

チャマルを優しく包んだまま、ゆっくりと木から下ろしていく。

地面に足がつくと、チャマルは我先にと腕から飛び降り、よろよろと駆け出した。


「所長、チャマルを抱っこしましょうか?」


助手見習いの天が、そう尋ねながら近づいてきた。


「大丈夫。あいつはもう、自分で歩けるから」


そう言うと、集中を解き、見えない手を消した。

チャマルは、安心したように身体を震わせ、もう一度鳴き声をあげ、こちらを見つめた。

それは、感謝の気持ちを表しているようだった

天が嬉しそうに微笑んだ。


「ああ。さあ、依頼主に連絡しよう。もう依頼は完了だ」


携帯電話を取り出し、依頼主の女性に電話をかけた。

数回のコール音が鳴り、電話がつながった。


「もしもし、私立探偵の仙波千聖ですが…はい、チャマル君、無事保護しました。今からそちらに向かいます」


そう言って電話を切った千聖は、天と共にチャマルを連れて依頼主の家へと向かった。

依頼主の家に着くと、チャマルは彼女を見ると嬉しそうに駆け寄っていった。


「チャマル!よかった、ありがとう!本当にありがとうございます!」


依頼主の女性は、チャマルを抱きしめ、涙ぐんでいた。

千聖は、その様子を温かく見守った。


「お代はこちらになります。本当にありがとうございました」


そう言って、依頼主の女性は千聖に依頼費を手渡した。

千聖はそれを受け取ると、静かに頭を下げた。


「こちらこそ、ありがとうございました。チャマル君も、元気でね」


千聖はチャマルにそっと声をかけると、天と共に依頼主の家を後にした。

チャマルは、千聖の背中が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。


「はぁ〜、無事に戻ってきてくれてよかった〜」


事務所への帰り道、天は安堵のため息をついた。

千聖は、手に持った依頼費を眺めながら、満足そうに頷く。


「ま、儲けは少ないが、猫も人も無事だったんだ。いい仕事だった」


事務所のドアを開ける。

そこは、築年数の経った雑居ビルの2階にある、小さな探偵事務所だ。

壁のクロスは剥がれかけ、所々シミになっている。

窓際に置かれた観葉植物は少し元気がなく、机の上には資料が雑然と積み上げられていた。

来客用のソファは少しへたっており、座るとバネがきしむ音がする。

決して立派な事務所とは言えないが、千聖にとっては居心地の良い場所だった。


「ただいま」


千聖がそう言うと、天は早速机の上の片付けを始めた。

千聖は、依頼費の一部を小遣いとして天に手渡す。


「はい、お駄賃だ」

「わぁ、ありがとうございます!」


天は嬉しそうにそれを受け取ると、笑顔で千聖に尋ねた。

「所長、この後どうしますか?依頼は一旦片付きましたが、新しい依頼も…」


その時だった。コンコン、と控えめなノックの音がした。

千聖は天と顔を見合わせ、軽く返事をした。


「どうぞ」


ゆっくりとドアが開くと、そこに立っていたのは、20代後半と思しき若い男女だった。

二人ともひどく焦っているようで、顔には汗がにじみ、息も少し上がっている。


「すみません、この探偵事務所なら、少し変わった依頼でも受け付けてくれると聞いて…」


男性がそう切り出すと、隣にいた女性も必死な表情で続ける。


「実は、うちの、うちの息子が、神隠しにあったんです!」


「「神隠し?」」


思えばこの依頼からだったのかもしれない。

僕の、いや、僕たちが関わってしまった大きな運命は。

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