第40話 辺境伯領への帰還(最終話)
王太子ハロルド、及びガルアス・ローレアは幻獣保護に関する世界法に違反したことを主軸に、王都引きずり回しの上、民衆の前での磔刑となった。
ハロルドに関しては、聖女の殺害未遂及び辺境伯への殺害――私が治癒をかけ続けていなければ死んでいたため――が加わり、引きずり回しの前に、鞭打ちが追加される。
「ローレア侯爵領が、まさかアルディス辺境伯領に併合されるとは」
「海が手に入ったからな。農業畜産業に加えて、漁業ができるようになるぞ」
「うまく資材をやりくりして、良い循環を作りたいわね」
二人の処刑は見たいとも思わないし、それを見届けることが大切とも思わない。
ヴィルも同じ考えだったので、私たちは速馬の馬車で領地に戻ることにした。
私の足元には幻獣の幼体たちが、丸まって眠っている。
「ローレア侯爵家で働いていた方たちはどうしましょうね」
「正直、あの狩猟会や夜会での動きを見ると、あまり雇用したくないんだよなぁ」
「あら奇遇。私も同じ考えよ」
顔を見合わせ、笑い合う。
彼ら彼女らには、紹介状を書いて暇を出そう。
それからローレア侯爵家の邸は、豪華な宿にでもして観光業も始めようか。
「メルダ嬢は、無事に着いた頃かしらね」
彼女は王太子が私を誘拐して、監禁しようとしていたことは知っていたが、幻獣に手を出していたことは知らなかった。
――らしい。本当かはわからないけど、ガルアス・ローレアもそう主張していたので、そうなのだろう。
ローレア侯爵家はガルアスをスケープゴートにして、他の家族を逃がそうとしたのかもしれない。
(ガルアス・ローレアが納得しているなら、別にそれでいいけど)
だからといって、お咎めなしとは当然ならない。
ローレア侯爵家はお取り潰し。領地は隣であるアルディス辺境伯領のものに。
そして、残りのローレア侯爵家の人々は、三十年の北の鉱山の労役が課された。
三十年はなかなか長いが、生き残れないわけでは――多分ない。
すごく、寒い場所だと聞くけど。周りも囚人だらけだというし。
「国王があの詮議書を俺に送ったことで、政治手腕なしとなって退位になったのも、悪くはない」
ヴィルは私を膝の上に横抱きにしながら、そう言う。
「クッションを山ほど乗せてきたから、お膝じゃなくても平気よ?」
「俺がセレナを抱いていたいんだが――ダメか?」
(ぐっ……! そんなしょぼんとした顔をしないでよ! 耳も尻尾も下がりっぱなしで!)
「もう! しょうがない人ね」
こんな顔を見せられたら、私だってこう言うしかなくなる。
すぐに耳も尻尾も元気になるんだから、かわいいったらないのだ。
「もうすぐ領地ね」
婚約を破棄して初めて来たときとは、景色が随分と変わった。
これからこの領地は、もっともっと豊かになって、領民たちの暮らし向きも変わっていく。
そして、この領地を治めるヴィルと私の関係も。
「ヴィル」
名前を呼べば、嬉しそうに私を見るヴィル。
そんな彼の頬へ、私の頬をぐりぐりと擦り付ける。
「セレナ」
触れるだけのキスを何度も繰り返し、やがて額と額をコツリと重ねた。
目を合わせ、笑い合う。
「ヴィル、ヴィルレアム。愛してるわ」
私の告白に、ヴィルはその目を細め、抱きしめる。
触れあう体温が、まるで一緒に溶け合ってしまいそう。
「俺も、セレナを愛してる」
そうしてまたキスをする私たちを、丸くなって眠っていた筈の幻獣たちが、なんだか楽しそうに見ていた。




