表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

第36話 ピアレント商会とガルアス・ローレア

「ガルアス・ローレア卿の申し開き(いいわけ)の途中で申し訳ないが、本件に関する重要な証拠が届いたので、入室させても良いだろうか」


 当然、前もってジティスタ公爵には伝えてある。

 ヴィルの申請に、すぐに許可が下りた。


「……っ、な!」


 ガルアスは、入場してきた辺境伯領騎士団員たちを見て声を上げる。

 辺境伯領騎士団数名とともに入るのは、六人の男。

 そして、檻に入れられたままの幻獣たちだった。


「王国騎士団団長であるソグリ公爵のご子息立ち会いの下、我が辺境伯領騎士団がピアレント商会にて身柄を拘束した者、及び接収した檻にございます」


 檻の中の様子をちらりと見たヴィルが、眉根を寄せる。


「失礼します。聖女セレナ様、多くの幻獣の幼体が怪我をしております」


 檻を運んできた隊員が、私へと話しかけた。

 ヴィルも頷く。

 

「すぐに治癒をするので、こちらへ」


 私の言葉に、入り口からこの場所までの間の道を、貴族たちが空ける。

 幻獣たちが入れられている檻が、ゆっくりと近付いてきた。


「かわいそうに……」


 檻の中にはいろいろな種の幻獣の幼体がいる。皆一様に、傷を守るようにして、こちらを見ていた。

 私は両手を広げ、檻を抱え込む。

 瞳を閉じ、意識を集中した。


「女神ザルナークよ。ここに捕えられた数多の眷属の傷を癒やしたまえ」


 私の体が光り、檻の中にいる幻獣たちに降り注ぐ。

 周囲から、感嘆の声が漏れるのが聞こえた。


「閣下。幻獣たちの傷は治癒しました。檻から出してあげても良いでしょうか」

「無論だ。幻獣をそんなところに入れておくなど、()()()()()()()()()()()けして許されることではない」


 ガルアスを見れば、顔が真っ青だ。

 当然だろう。

 世界法で禁止されている幻獣の密猟だけでも、極刑ないしは無限労働のいずれかと定められているのだから。


 檻から出された幻獣たちは、私の足元に走ってきた。

 抱き上げられるだけ抱き上げ、追いつかない子たちは私の隣の席に座らせてあげる。


(この空気の中、癒やしだわぁ。うう、このままずっと撫でてモフモフしていたい)


 もちろん、そんなことはおおっぴらにできないので、そっと撫で続けるだけだけど。


「ピアレント商会の責任者は、ガルアス・ローレア卿であると、先ほど本人の口から供述があった。王国騎士団長立ち会いの下に拘束した者は、後ほどじっくり話を聞くとしよう。この件については、ローレア侯爵家の皆さまにも話を聞かせて貰う」


 法務大臣であるジティスタ公爵自らの口から出たその言葉は、判決に近い。

 幻獣に手を出すことを許す。それをしてしまったら、国家運営自体が危うくなるのだ。


「ガルアス・ローレア卿、席に戻って構わない。あぁ、ローレア侯爵家の周囲には、騎士を立たせて貰う」


 ジティスタ公爵が手を上げると、すぐに騎士たちがローレア侯爵家の周囲に立つ。

 貴族席は貴族家ごとにまとまっているので、周囲に座る家門が少しだけ場所を譲っていた。


「そういえば、アルディス辺境伯への国王陛下からの詮議書ですが、ローレア侯爵家とともに王太子殿下が関わっていたかと思いますが」


 公爵が王太子へと責任追及の手を伸ばしかけると、それまで黙っていた正妃が扇子をばさりと広げ、立ち上がる。


「わたくしのかわいい王太子は、ローレアの息子に利用されたのですわ」

「そ、そうだ。僕は無関係だ」


 王太子ハロルドが正妃に続きそう宣言すると、ガルアスの表情がごっそりと抜けた。


(つく相手を間違えて悪いことをすると、こうなるのよ)


 切り捨てるタイミングも最悪。

 上に立つ者は、無慈悲な判断もしなければならないというのなら、もっと早く処断するべきなのだ。


(つまりは結局、王の器ではないということ)


 ハロルドに並んで座る、第二王子を盗み見る。

 動じることなく、真っ直ぐにジティスタ公爵を見ていた。


(第二王子が、繰り上がりかな。まぁその辺は、貴族のおじさまと側妃に任せるとして)


 ガルアス・ローレアを、ローレア侯爵家を切り捨てて安穏といられる立場ではないと、思い知らせてやらないといけない。


「ジティスタ公爵閣下。私からも資料の提示と告発を」

「ふむ。では、セレナ辺境伯夫人証言台へ」


 もっともらしいやりとりをしているけど、事前の打ち合わせは勿論してある。

 こういう根回しが大切だということも、王太子妃教育でマーヨルド伯爵夫人に教えて貰ったのだ。

 せっかく学んだ王太子妃教育の成果をここで、王太子にお返ししないとね。

 

 モフモフたちも三匹ついてきたので、証言台の机に乗せてあげた。

 様子を見ている貴族たちや閣下の表情が少しだけ緩む。わかる、わかるよ! かわいいものね、モフモフ。

 ――気を取り直して。

 

「閣下のお手元にお出しした、資料八ページをご覧ください。また、別途証拠品を提出いたします」


 私の合図で、アンが銀のトレイに乗せた証拠を公爵の手元に届ける。


「これは、ボタンかな?」


 公爵はそれを手にし、じっくりと見た。

 そこに掘られた模様を見て、「ほう」と小さく声を出す。


「はい。ご覧の通り、王太子殿下のお印が掘られたボタンです」

「つまりこれは、王太子殿下がお使いだったもの、と」


 そう。以前ローレア侯爵家の狩猟会の夜、ハロルドの着ていた服から引きちぎってしまったボタンだ。

 ただのボタンではない。

 私は頷き、口を開く。


「それは、幻獣バイコーンの角で作られたボタンであると、教会が証明しました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ