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第32話 国王からの使者

 国王の使者だという二人の男は、随分と偉そうにふんぞり返るようにして応接室のソファに座っていた。

 ヴィルは感情を悟られないために耳と尻尾を隠し、部屋に入る。


「アルディス辺境伯だな。エルタード王国国王陛下より、そなたに詮議の儀がある」

「心して受け取られよ!」


 ヴィルが部屋に入っても礼もせずいきなりそう話し出した二人に、ヴィルは無表情の上に薄氷を貼り付けたかのような瞳で睨めつけた。


「呆れたぁ。国王陛下の使者って、挨拶一つできないのね」


 部屋の中が凍ってしまいそうなくらいのヴィルの気配だったので、とりあえず彼を落ち着かせようと声を出す。

 それに気付いたのか、ヴィルは彼らを見て鼻で笑った。


「どうも貴殿らは、自身の置かれている立場がわかっていないようだな」


 そう告げると、ヴィルの手が小さく動く。

 すぐに同じ部屋にいた騎士二人が、使者を拘束した。


「なっ、なにをする!」

「我らは国王の使者ぞ!」


 家令のゲッセルンは、彼らが持ってきた国王の封緘の施された封筒を取り上げる。

 それを改めて銀のトレイに乗せて、ヴィルへと差し出した。


「本物かどうかわからんな」

「偽物じゃない? だって王国一の軍事力を誇る辺境伯に対して、礼の一つもとれない人間を、使者に選ぶわけないもの」


 実際は、本物だろう。

 私もヴィルも、国王の封緘は幾度も見たことがある。

 王国の紋章に現王朝の紋章を重ねて押印するそれは、重ねる角度などにも全て決まりがあった。

 今ヴィルの手元にあるそれは、決まり全てに則った正規のものだ。


「そうだな。では、はっきりするまで地下牢にて滞在して貰おうか」


 騎士たちの手際は良く、私とヴィルがそんなことを話している間に、使者の二人の両手と腰を縛り上げ逃げられないようにしていた。

 流石は辺境伯家の騎士たち。

 魔獣を相手にしている彼らには、剣を下げていても碌に使えなさそうな使者二人など、赤子の手をひねるようなものだっただろう。


「このことが国王陛下に知られたら、アルディス辺境伯領はどうなるか分かってるんだろうな?!」

「今なら我らが国王陛下に取りなしをしてやってもいいんだぞ!」


 どうして今の状況で、あんなことが言えるのだろうか。

 首を傾げれば、ヴィルが私を見て笑った。


「彼らは、国王が自分たちを見捨てないと信じてるんだろう。幸せだな」


 ヴィルの言葉に、使者の二人は急に静かになる。


「えっ。もしかして本当にそう思っていたの? あ、でも見捨てられる以前に、ここに到着してないことになっちゃうかも」


 私がそう続けると、彼らの顔は青くなっていった。

 思ったよりも早々に心が折れてしまって、拍子抜けだ。


(だったら最初から、丁寧な対応をすればいいのにね。まぁ、どちらにしろ地下牢行きだろうけど)


 二人がこの場からいなくなると、ヴィルと私は執務室に戻った。

 国王からの詮議書なるものを確認するためだ。


「……なんだこれは」


 先に読んだヴィルが、うっかり書状をぐしゃぐしゃにしそうになったので、慌てて手元から引き抜く。


「えぇと――はぁ?!」


 そこに書かれていたのは、あまりにも突拍子もなく荒唐無稽なものだった。


「アルディス辺境伯領で多発している魔獣のスタンピードは、辺境伯領民が幻獣をいい加減に扱い、怪我を負わせたことによる。この度聖女セレナを無理矢理辺境伯領に連れて行き、幻獣の治癒をさせ、かつスタンピードの最前線へと連れ出したことが、それを証明している――ですって」


 私が読み上げると、執務室に同席していた皆の表情が一気に怒りに満ちていく。


(これは、王太子ハロルドが正妃経由で国王に出させたものね、きっと)


 正妃はハロルドのことを溺愛している。

 国王は正妃を溺愛している。

 つまりはそういうことだろう。


「至急、聖女セレナを王城へと戻せば不問とする」


 そのまま私が続きを読むと、バキッ、と大きな音がした。

 ヴィルが手にしていたペンを折ってしまったらしい。


「あらまぁ。付けペンタイプで良かったわ」

「セレナを戻すことなど、絶対にしない」

「私も戻る気なんてないわ。それに、やっつけてくれるんでしょ?」


 書状をゲッセルンに渡し、ヴィルの膝に乗る。

 ぎゅうと抱きしめてみれば、彼の感情が落ち着いたのか。

 私の背中にそっと手を回した。


「当然だ。我が領地とセレナを侮辱した罪がどれほどか、わからせてくれよう」

「私だって黙っていないわ! 決行は?」

「十日後。二隊にわかれ、俺たちは貴族議会へ」


 その言葉に私はもちろん、部屋にいる誰もが口の端を引き上げて笑った。

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