表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

第28話 リボン

 ローレア侯爵領へと向かう馬車の中。

 俺の向かいに座るメルダ・ローレアは、どうして理解ができないのか。

 彼女がわずか十二のときに、我がアルディス辺境伯家に俺とローレア侯爵令嬢メルダとの婚約話が持ち上がった。


(年齢差を言い訳にしたが――そもそも俺はこの娘を好まない)


 当時俺は十八歳、メルダは十二歳だ。

 当然そんな気にもならない上に、ローレア侯爵家と縁が繋がったところで、我が家に何の得もない。

 政略結婚としての旨味もないのだから、そこで話は終わる筈だった。

 

(だがそれ以来、ことあるごとに俺を見つけては纏わり付いてくる)


 何度断っても、しつこくついて回るから、正式に抗議文も送ったというのに。

 そのすぐあとに魔物のスタンピードが起きて、両親が他界した。

 それに付け入るようにして、抗議文がなかったかのごとく、メルダはつきまとい続けてきたのだ。


「ヴィルレアム様。そろそろわたくしを見てくださらないと」

「……は?」


 侯爵家まであと半分。

 そろそろ辺境伯領を出ようかというときに、そんなことを言い出した。


「いつまでも、あんな平民女を隣においていては、辺境伯家の名が汚れるでしょう」

「貴様……。本気か」

「ひっ!」


 一応貴族の娘だからと、剣を抜くのは耐える。


「外からの襲撃の前に、俺に斬られたいのか」

「ヴィルレアム様にそんなことを言わせるなんて……。平民女が何か呪術でも使ったのでしょう!」

「言わせておけば――」

「閣下!」

 

 気絶させて黙らせようとしたところで、馬車の外から声が聞こえた。


「おい、馬車を止めろ」

 

 緊急事態かもしれない。

 馬車を止めさせて、外に顔を出した。

 

「どうした」

「セレナ様が誘拐されました!」

「なんだと」

  

 騎士団長のケイトが血相を変えて、駆けてくる。

 ケイトの胸元には、幻獣クレフォンの幼体が収まっていた。

 

「クレフォンの足に、リボンが! それと、アンが怪しい幌馬車が駆けていった方角を確認しています」

「今すぐ動ける騎士団員を捜索に当てろ!」

「このクレフォンが場所を知っているかもしれません」


 ケイトの胸元から出てきたクレフォンは、俺の元へと羽ばたいてくる。


「ヴィルレアム様、わたくしは」

「ローレア侯爵令嬢。一人でお戻りください。馬車の馬は一頭減りますが、御者が問題なくお送りします」

「酷いわ! 平民女なんて放っておけばいいでしょう! どうせ王太子のものになるんですから!」

「……なんだと」


 剣を抜く。

 切っ先を娘の喉元に近づけた。


「おい。お前は何を知っている」


   ***


 耳と尻尾を露わにする。

 獣人としての能力を最大限に引き出すと、セレナの居場所探すために集中した。

 クレフォンが先導するが、細かな場所まではわからないらしい。

 潮の匂いが立ちこめる、海辺の町まで着いた。


「クソ……。潮の匂いが邪魔だ」


(集中しろ。セレナ……どこだ)


 セレナの匂いを辿る。

 海辺に並ぶ倉庫。

 近くには船が停泊していた。


(まさか船の中じゃないよな)


 だが、彼女の気配が、匂いが、まだこの陸地にある。

 立ち並ぶ倉庫の中、酷く気になる場所があった。


(あそこか――?!)


 馬を駆ける。


「ええ、クレフォンを逃がしたのは私よ! 幻獣を捕えるなんて、どうなるかわかってるの!?」


セレナの声が聞こえた。


(セレナ!)


「まさか……辺境伯領を初めて訪れた六年前から……」


 声のする倉庫へと向かう。

 馬を下り、入り口へと駆け寄った。

 

「初めて辺境伯領に行ったときに、幻獣が走り回ってるのを見てね。ザルナの森に幻獣の樹があると気付いたのさ」


 セレナの声に続けて、聞いたことがある声がする。

 ローレアの次男だ。


「何度か幻獣を狩ったら、スタンピードが起こってびっくりしたよ!」


 笑うような声が混ざるその言葉に、頭が一瞬にして沸いたと思った。

 開け放たれていた扉の中に飛び込むと、鞘に入れたままの剣を振り落とす。


「ヴィルっ!」


 セレナは俺の動きに合わせて、男どもからずれる。

 それを見切り、続けざまに鞘付きの剣を二人のみぞおちに押し込んだ。

 あっけなく二つに折れて倒れる男たち。


「セレナ! 無事か?!」

「ヴィル、助けに来てくれてありがとう!」


 俺は男どもを踏みつけて、セレナを抱き上げる。


「大丈夫か? 何もされていないか?」

「ええ。気持ち悪いことは言われたけど、私は無事よ」


 そう言って俺に抱きつくセレナの体は、小刻みに震えていた。

 安心させるように、背中を撫でる。

 それに合わせて、彼女は呼吸を整えていく。


「絶対にヴィルが助けに来てくれると思ってたから」

「こいつら……。王太子とその側近か」


 足下で意識を失っている男二人を見て、メルダ・ローレアが口にしたことが正しかったと証明された。


「閣下! セレナ様はご無事ですか!」

「おう。今そっちに行く。どこかで水を分けて貰ってきてくれ」


 手分けして探していた騎士団が、俺の馬を外で見つけたらしい。

 中で倒れている男を見て、目を丸くした。


「閣下、ソレどうしましょう」

「王太子は正妃のお気に入りだ。そして国王はその正妃に夢中だ」

「つまり、放っておくということで?」

「細切れにして、海に流してしまいたいが」


 側近はともかく、王太子は手順を追って追い詰めないと、面倒なことになる。

 下手なことをして、セレナを奪われたらたまらない。

 スタンピード、幻獣、セレナの誘拐。


「さて、どうやって、追い詰めていくか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ