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第27話 密猟と監禁

「……王太子殿下に、ローレア卿ではありませんか」


 扉から入ってきた二人は、私が良く知る男だった。


「まったく、お前が素直にならないから僕がここまで迎えに来ることになったじゃないか」

「は……? 殿下は何を」

「聖女セレナ。殿下はきみを許す、と言っているんだ」


 王太子ハロルドの側近が言葉を足すが、それでも意味が分からない。

 そもそも私は、ハロルドに許して貰わないといけないことなどしていない。


「まぁ、一度婚約破棄を受けているお前だ。僕の元へ戻りたいと言い出しにくいのは、わかっているよ」


(この間の夜会で、はっきりきっぱり断ったのに、もしかしてまだ再婚約しようとしている?)


 思わず眉間に皺が寄ってしまう。

 この未知の生物のような男に、何をどう言えば良いのか。


「勘違いするなよ、聖女セレナ。きみに選択権はないんだ」


(どうやらローレア卿の方は、わかっていてあえてハロルドを助長させてるみたいね)


 ローレア卿は、メルダ嬢の下の兄、ローレア侯爵家の次男だ。

 私をハロルドに引き渡し、ヴィルの配偶者として妹を嫁がせようと思っているのか。


「セレナ、僕は心が広いんだ。お前を表に出す王太子妃ではなく、僕だけの妃として特別な部屋に住まわせてあげる」

「殿下の用意した部屋にいれば、聖女の仕事も王太子妃の仕事もしなくていいんだぞ。平民のきみには過分な待遇だろう」

「なにを……言って……」


(気持ち悪い)


 じり、と壁沿いに逃げる。


(ダメだ。扉の前にあの二人がいるんじゃ、逃げられない)


 ハロルドが言ってるのは、私を監禁して二度と外に出さないということだ。

 さっきクレフォンが逃げてから、どのくらい時間が過ぎた?

 助けは来る。

 ヴィルがきっと気付いてくれる。

 それまで、私はこの二人から情報を得ておく。


(気持ち悪いと思ってる場合じゃない。今すぐ連れて行かれたら、二度と逃げられない)


「そもそも……殿下は私を、お嫌いでしょう?」

「はっ。僕がお前をどう思ってるかじゃない。お前は僕のことを愛しているんだから、それでいいだろう」

「私は殿下を愛してなんていません!」

「本当に素直じゃないな」


 ハロルドが階段を降りてくる。


(近付いてこないで……)


 ゆっくりと歩きながら、ハロルドは楽しそうに笑った。


「ああ! お前は僕の愛を確認したいのか。だから婚約破棄を受け入れたり、夜会で嫌がる素振りを見せたり……」

「何を……言ってるの……? そもそも殿下は最初から私を」

「聖女セレナ。殿下が優しいうちに、手を取る方がいいぞ。じゃないと、強引に箱に詰めて王城に連れて行くことになる」


 箱に詰めて、と言った。

 それはつまり、幻獣を入れていたのと同じような箱だろう。


(幻獣を捕まえていたのは、ガルアス・ローレア。あんただったのね)


 問い詰めたいが、今それを口にしたらそれこそ強引に箱に詰められてしまう。


「セレナ。生意気なお前を、しっかりと躾ないといけない。首輪でも用意しようか」

「殿下、聖女に幻獣の骨で作った首輪をはめるのはどうでしょう」

「――なっ!」

「それは美しいな! ガルアス、ついでに首輪を彩る緑色の宝石を埋め込んでくれ」


 この世界で緑色の宝石とは、ザルナークの瞳を指す。

 つまり、幻獣の瞳を用意しろと言っているのと同義だ。


「ローレア卿。あなた……」

「きみには、もう二度と会うことはないだろうから、教えてやろう」


 ハロルドに続き、ガルアスも階段を降りてくる。

 開け放たれたままの扉を、二人に気付かれないよう確認しても、人の気配はない。


(どうにか二人を躱して、せめて外に出ないと)


「辺境伯領にきみが来てから、幻獣を狩り難くてね」


 トン、とガルアスは、さっきまでクレフォンが入れられていた箱を叩く。


「邪魔なんだよ。妹のメルダが辺境伯夫人になれば、それだけでやりやすくなるっていうのに」

「前に怪我をしていた幻獣たちは……ローレア卿が」

「私は手を下してはいないよ。ただ、鮮度が落ちるから死なない程度に弱らせて狩ってこい、って指示を出しただけさ」


 許せない。

 この男、何を考えているのか。

 幻獣の命だけではない。

 その行為で幻獣の怒りを買い、魔物のスタンピードが起きていたとしたら。


「それで……、何年も幻獣を捕えてはスタンピードを」

「私の目的は幻獣だ。スタンピードを起こしたいわけじゃないが、結果的にそうなっただけだ」


 体の中が沸騰してしまいそうだった。

 目の前の男を、真っ二つに斬ってやりたい。

 ガルアスは、話ながら再び箱をトンと指で叩く。


「……ん? 随分と箱の中が静かだな」


(逃がしたのがバレる……!)


 一瞬、表情を崩してしまったのだろう。

 ガルアスが私の手を掴み引き上げた。


「おい! まさか!」

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