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第25話 帰還

 響いた声の方向から、数人の騎士が即座にメルダを拘束した。

 私は彼女の足下にいたフィーを抱き上げ、撫でる。


「お帰りなさい、ヴィル」

「ああ。無事に帰った」

「ということは、スタンピードは収まったのですね」


 私の問いに、彼は頷く。

 僅かに瞳が柔らかく緩んだのを見逃さなかった。


(きっと最前線では、気を張ることばっかりだったでしょうに)


 穏やかな表情を浮かべてくれるのは、嬉しい。


「酷いですわ、ヴィルレアム様! わたくしをこんな目にあわせるだなんて」


 あ、そう言えばメルダ嬢がいたんだったわ。

 ヴィルが彼女を睨む。表情はいつもの無表情に、スンッと戻っていた。


「こんな目? そもそも幻獣を害そうとしたのは、ローレア侯爵令嬢だろう」

「幻獣だろうと、何だろうと、わたくしの手に噛みついたのですから、躾をしないといけませんわ!」


 その言葉に、この場にいる全員が殺気立つ。

 幻獣に躾? メルダ嬢は何を言っているのか。


「本気なのか?」

「ええ。ガルアスお兄さまはいつもそう言っているわ」


 ヴィルは軽く眉を上げると、軽蔑するような目線を彼女に送る。

 それにメルダ嬢はどうやら気付いていないらしい。


「まぁ、ヴィルレアム様ったら。そんな風にわたくしを見つめるだなんて」


(つ、強い……! これが、断っても断っても勘違いしてくる女なのね)


「俺の不在中に、強引に家に上がり込む。それはローレア侯爵家の()なんだな」

「なっ! 我が家からは正式に、婚約の申し込みをいたしましたわ」

「アルディス辺境伯家からは返事をしていないが」

「ということは、受け入れたのでしょう?」

「話にならん」


 ヴィルは私とフィーを纏めて横抱きにすると、彼女を抑えている騎士たちに指示を出す。


「今日はもう遅い。ローレア侯爵家へは、明日帰って貰おう。令嬢を客間へ」


 そのまま、私とフィーはヴィルに抱えられたまま、執務室へと向かうことになった。


   ***


 翌日。

 メルダ嬢は着てきたドレスを身につけて、私たちの前に現れた。


「ローレア侯爵家へ帰れと仰るなら、せめてヴィルレアム様がご同行くださいませんか。スタンピード後ですし……」


(昨日あれだけ醜態を晒していたのに、ここでかわいこぶりっこできるのは、貴族令嬢らしいのかもしれない)

 

 ヴィルはその必要はないという顔をしているが、もういっそここで白黒付けた方が早い気がする。


「ヴィル。メルダ嬢の言うとおり、もしもローレア侯爵家へ送り届ける際に馬車が意味もなく転倒したり、よくわからない第三者に矢で射貫かれたら面倒だから、送ってあげるのもいいんじゃない?」


 私の言葉に、メルダ嬢は顔色を悪くした。

 あれ、もしかしてその可能性を考えていたわけではないのかな。


「セレナは、俺がローレア侯爵令嬢と出掛けても嫉妬しないのか?」


 今日、ヴィルはメルダ嬢に感情を悟らせないために、耳も尻尾も隠していた。

 なのに……。


(見える! 耳がぺたりとしてるであろう状態が、まるでそこにあるかのように見えちゃうのよ!)


 当然、ヴィルの表情は無表情だ。

 きっとメルダ嬢から見たら、私は冷たくあしらわれている平民女にしか見えないのだろう。


「ヴィルは、野菜を漬ける石が同じ馬車に乗っているからといって、嫉妬をするのかしら」

「ちょっと! なによその野菜を漬ける石って!」

「あ、ごめんなさいメルダ嬢。その石の方が役に立つわね。私ったらうっかりだったわ」


 軽く頭を傾げれば、膝に座っていたフィーも同じように頭を傾げて「キュウ」と小さく鳴いた。


「そうだな。わざと令嬢を狙ったあとで、侯爵家から文句を言われたらたまらんな」

「お、お父様はわたくしを狙うなんてなさいませんわっ! 侮辱なさるの!?」

「誰が、とは俺は言ってないけどな」


 結局、ヴィルが同行しついでに直接婚約の申し込みを断ることになった。

 二人が出掛けた後、私は領地を回ることにする。


「アン。特に森の近くの村は、魔獣が森から溢れたときに被害が大きいと思うから、最初に向かいましょう」

「そうですね。畑が踏み荒らされている可能性が高いです」


 まだ辺境伯邸には多くの患者がいるけど、私がすべき治癒は全てかけ終えた。

 あとは皆の体力の復活を待つだけだ。

 そうなると、今度はスタンピードで荒れた大地の治癒が必要になってくる。


「騎士さんたちはスタンピードを終えたあとだし、ゆっくり休んでいただきましょ」


 アンと二人で馬車に乗ると、ザルナの森近くまで向かって貰った。

 この領地にきたときは、まとめて領地全体を治癒したけど、今回はそこまで治癒力が余っていない。

 なので、少しずつ村を回ることにしたのだ。


「アン、私は森の近くを確認してくるから、村長さんを呼んできて貰える?」

「ですが、セレナ様の近くを離れるわけには……」

「大丈夫よ。この領地で私を狙う人もいないし、スタンピード直後だからよそ者もいないでしょ」


 私の言葉に、アンは頷く。

 そうして彼女と離れた少しの間だった。


「――っ!」


 森の中から突然大柄の男が二人現れると、あっという間に私の口を塞がれた。

 身動きしても声が出せない。木の陰になって、御者からも見えないらしい。


(助けて!)


 その声は、男の手の中に消えていき、私は記憶を手放してしまった。

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