第24話 治癒と令嬢
メルダ嬢を部屋に押し込めたのと時を同じくして、ついに怪我人の第一陣が運ばれてきた。
六人ほどの騎士たちは、酷い怪我から軽い――といっても、戦闘継続は難しい程度だ――怪我まで様々。
「奥に連れて行って」
寝台を並べたホールに連れて行かせると、怪我の程度の順に寝かせる。
「順番に治すから、待っていて」
今到着した六人の怪我を見て、これはまだ運び込まれるという予感がした。
(これまでの経験上、今日だけでもあと二十人は来る筈。ということは、力の配分は)
私は比較的魔力量も多く、治癒力は持つ方だ。
それでも、万一急な重傷者が運ばれたときのためにも、余力を残すように治癒をしていかないと。
(人のできる医療で治せるところまでは治す)
複数人の医者、看護師を用意している。
メイドや侍女たちにも、湯冷ましの水や清潔な布巾、シーツなどの準備を頼んであった。
「あなたの腕は、すぐに戻るわ」
治癒をかけると、彼の体が仄かに光る。すぐに深くえぐられた肉が元通りになった。
一番傷が深い騎士の腕を治し、その後のケアを看護師に頼む。
「足と耳……。安心して、大丈夫」
次に重傷な者を治し、次に、と六名の治癒を終えたところで、今度は領民が運び込まれた。
治癒を終え、体を清めたあとは体力の回復を待つだけ。
それも騎士たちは鍛錬の賜なのか、すぐに動けるようになる。
「動けるようになった人は、奥の食堂へ。いくつかの種類の料理を用意しているから、自分の体調にあうものを選んで。分からない場合は、食堂にいる看護師に相談するように」
そうして空いたベッドには、すぐに清潔なシーツが掛け替えられた。
(野戦病院状態の、最前線で治癒するよりもずっといいわ。ここまで運べる余裕がまだある、ってことだしね)
以前この領地へ治癒に来たときは、そんな余裕がなかった。
最前線で戦う騎士たちを、次々と治癒しては再び送り出すしかなかったことは、胸の中でいつまでも濁り水のように残っている。
「怪我人が到着しました!」
再び玄関から響く声に、私はすぐに治癒の準備にかかった。
***
「いい加減にしてっ!」
体力の回復過程の騎士や領民たちは、いくつもある客間を数人で使って貰っている。
彼らのところには稀にフィーが現れては、そのふわふわの毛を撫でさせているらしい。癒やされる、と蕩けそうな声が、客間の前を通ると聞こえてきた。
そんな中、突然私の耳に飛び込んできた声に振り返ると、メルダ嬢がまるで悪鬼のように足を開いて立っている。
(高位令嬢がする立ち方ではないと思うけど……。まぁいっか)
王太子妃教育で、なんども扇子で叩かれながら身につけた立ち方とは大違いだ。
とはいえ、貴族の目がないところではそんなことを気にせずに、過ごしていたけど。
「メルダ嬢、お部屋で過ごすようお願いしておりましたが」
「そう言って、もう一週間よ! どうしてこのわたくしが、一週間も客間に押し込められないといけないの」
キィキィと甲高い声で叫ぶように言うので、耳がおかしくなりそうだ。
ヴィルの従姉妹にあたる子爵夫人が、若い頃に着ていたドレスは、時を経ても十分にきれいなままだった。
(あれ、私が領地を回るときにも使わせて貰ってたやつだけど)
それを知ったら、絶対に着なさそうだったので黙っていた。
同じようなドレスが数着あったので、それを着回して貰っている。
「きちんとお食事とお着替え、入浴にはメイドを手配しているでしょう」
「どうして侍女じゃないのよ! 下級使用人なんて、侯爵家ではわたくしに触れることすらできないわ」
「では、侯爵家にお帰りになればよろしいのでは」
今がこんな緊急事態でなければ、もう少しそれなりの対応もできただろうけど、今は怪我人が最優先だ。
何もできないお嬢さまに、邸内をうろつかれても迷惑でしかない。
(そもそも、勝手に執務室を見つけて入られたりしても困るしね)
だから、気位の高い令嬢が人前に出られなさそうなドレスを手配した。
(まさかついに、部屋から自分で出てくるとは)
さすがに部屋に鍵を掛けることはしていない。
あとで訴えられでもしたら、たまったものではないからだ。
「ヴィルレアム様がお戻りになるまで、婚約者として邸を管理しないといけないじゃない」
「……それなんですが」
忙しいので本当は彼女に構っていたくもない。
でも何も言い返さないのも、正直腹立たしいのだ。
少なくとも。
「アルディス辺境伯家当主の婚約者は、私ですけど」
このくらいの主張はするべきだと思った。
「そんなの、あなたが勝手に言ってるだけでしょう?」
「そっくりそのままお返しします。私はヴィルに直接求婚されたけど、あなたは断られてるじゃない」
「――このっ!」
メルダ嬢が手を上げ、私の頬目がけて降ろしてくる。
(このまま私の頬を打たせれば、追い出せる!)
手間がかからなくていいとばかりに、彼女の平手をまっていると
「キュウッ」
「痛っ!」
フィーがメルダ嬢に飛びつき、手に噛みついた。
「このっ! ケモノごときがっ!」
「フィーっ!」
噛みついたフィーをメルダ嬢が振り払うと、フィーが床に落とされる。
あっと思ったが、さすがは幻獣。きれいに床に着地した。
そのフィーを蹴り上げようと、メルダ嬢が足を上げたその瞬間。
「その女を拘束しろ!」




