第62話:配信(デビュー戦)
薄暗い、周囲を石で作られた通路を歩く。
ゲームの仕様でぼんやりと明るいが、ムーン・シャトウ跡地は不気味な雰囲気のダンジョンだった。
「こちらは推奨レベル48。ボスも危険モンスターもいない、お使いクエストなどで使われる気楽なダンジョンとなっております」
横を歩くフィーカが視聴者向けに解説をしている。とても手慣れている。
[スクラちゃんの職業はなんだろ? 近接系?]
[フィーカちゃんが遠距離だから、壁役なんじゃないか?]
配信のコメントに目を向けると、そんな内容が流れてきた。
「職業、伝えた方がいいかな?」
「そこはお楽しみということで。すぐに出番が来ますから。ほら、このように」
他のゲームでやっていたからだろうか。配信慣れした様子で、フィーカが武器を出しながら奥の方を指差した。
真っ直ぐな何もない通路の先に、モンスターが出現していた。
鹿の角が生えた、デフォルメされた兎だ。名前は「あるみー」と言うらしい。
「どうにかして兎を公式マスコットにしたい意志を感じる」
最初の方にもいたよな。デフォルメされた兎。
「スタッフにお好きな方がいるのでしょうね。では、スクラちゃん。デビュー戦です、レディーゴー!」
気合の声と共に、石拾いのスキルを使って攻撃準備に入るフィーカ。コメントに「石拾いありがとうございます」という謎のお礼が満ちた。
「じゃあ、やってみる。……えっと、ライン」
ラインホルストを呼び出す。太刀魚の姿の時は、ラインと呼ぼう。名前から身バレするかもしれないから。
[なにこれ、魚?]
[魚類のフェアリーだ。太刀魚かな?]
[このゲーム、魚類の妖精が強いの謎だよね]
そうか。魚類のフェアリーは強いのか。学びがあるな。
「ライン、行くよ」
「承知」
[喋った!]
[対話AI搭載は現状ちょっとレア。かなり可愛がってるか一発で出すしかないやつだ!]
[スクラちゃん、ベテランか?]
コメントが気になるので、一時的に視界からオフにする。戦闘に集中したい。
角付うさぎのあるみーは二匹。まずは小手調べだ。
俺は大鎖鎌を構え、警戒しつつ接近。
「参る。疾っ」
横から追い越したラインが突撃。デフォルメ兎にそのまま突き刺さった。しかも出血エフェクトつきで。
「ぷみぃ」
可愛い声をあげて、あるみーは絶命した。
敵が弱いのか、うちの妖精が無駄に強いのか、これだけだとまるでわからん。
いきなりの結果に困惑しつつ、もう一匹に接近。気合十分な顔のあるみーが角をこちらに向けて突撃してくる。
「ほい」
とりあえず、鎖を投げて拘束した。両手持ちなんで、振り下ろしたらチェーンが音を立てて飛んでいく演出だ。ちょっとかっこいい。
拘束中、の文字とエフェクトが発生した直後、フィーカの投石が直撃。それなりのダメージが入る。
「ファストアタック、スティルアタック」
相手が止まってるのを確認しつつ、手早くスキルを叩き込む。
「ぷみぃ」
[うさぎの角を獲得]
割とあっさり倒せた。HPが少ないタイプだったか。あと見た目は完全に鹿の角なんだけど、うさぎの角でいいのだろうか。まあ、いいか。
「さすがはスクラちゃん! 安定感抜群です! ……その妖精さん、強くないですか?」
「ボクも驚きだ」
[太刀魚つよい]
[鎖鎌で拘束して妖精に攻撃させるタイプか]
[太刀魚の攻撃が衝撃映像すぎてスクラちゃんの戦いの印象薄い]
「すまぬな、主よ。目立ってしまった」
「別にいいけど……」
ラインが律儀に謝罪してきた。このサポートキャラ、配信コメントまで見えてるのか。わけわからん高性能だな。
「実はスクラちゃん、フェアリーを実戦投入するのは今日初めてなんですよ!」
「楽が出来そうで助かる」
これはまごうこと無き本音だ。この姿だとユニークスキルも使えないし、火力が確保できたのは幸いともいえよう。
「しかし、これだとスクラちゃんの実力をお見せできませんねぇ。太刀魚使いとしてデビュー戦を飾ってしまいます」
「初めて聞くタイプのデビュー戦ね……」
ダンジョンを進む内にそれなりに動きがあるだろう。とはいえ、俺としても何か印象深いアクションをしておくべきだろうか。せっかくライブ配信してるんだし。デビュー戦だし。
そう思っていると、通路の先からモンスターが飛んでくるのが見えた。黄色いコウモリ。ケイブバットの上位種だろう。
「じゃ、少し頑張ってみる」
俺は一気に駆け出す。ラインはしっかりとそれに追走。コウモリはすぐに接近戦の距離へ。
「ライン、フォローよろしく」
「承知」
コウモリは上空。大鎖鎌のリーチでも届かない。鎖で拘束してラインに突撃してもらうのが楽だろう。
しかし、今は配信中だ。少しだけ見栄えの良いことをしてみたい。
「っ!」
速度に乗ったままジャンプする。モンスター目掛けてではなく、壁へ。
勢いそのまま、壁を全力で蹴り、三角飛びの要領でコウモリに接近。
「ファストアタックッ」
大鎖鎌で連撃。さすがにこれでは落ちないが。頼れる相棒が機会を逃さず追撃する。
「隙あり」
渋い声と共に太刀魚がコウモリを貫いた。
[黄色い翼を獲得]
結果を見るまでもなく、着地して振り返る。どうだ。ユニークスキルがなくても素でこれくらいなら出来る。……システム的に壁蹴りできなかったら無様に衝突してたけどな。
「どうだった?」
少しは絵になる場面になったかなと思いフィーカに問いかける。
三下娘は何故か唖然とした表情で俺を指差していた。
「スクラちゃん……いま、見えて……スカートの中……」
「? ……ああ、これくらいはサービスの範疇だよ」
スクラのデザインは短めのスカートで、スパッツなどの類ははいていない。それで激しいアクションをすれば、多少はめくれることもあるだろう。
「お、恐ろしい子……。って、コメント欄が! あたしの配信のコメント欄が!」
[見えた……]
[素晴らしいサービス精神だ。是非とも次は(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[シーフとはいえ普通に壁蹴りで飛べるのはすげぇな。あとパ(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[白と青の(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[チクショウ! セキュリティ設定が強すぎて、それっぽい発言になるだけで自動削除されちまう!]
[でもよぉ! フィーカちゃんの配信でようやくR15ゲームらしいところを見れたんだぜ!]
[スクラちゃん、今後も出てください! 毎回!]
[待ち望んでいた人がついに来たか。次回の衣装は(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[世代交代……だな]
おお、随分と盛り上がってるな。頑張った甲斐があった。
「げ、下剋上……。まさか第一回で下剋上されるとは……」
「三下娘のチャンネルを乗っ取ってもあんまり嬉しくないんだけど」
そもそも配信自体そんなにしたいとは思わないんだけど。
「気を取り直して、ほら、奥進もうか」
「ふぁい……。うう、とんでもない怪物を生み出してしまったかもしれません……」
「前途多難だな」
何故か最後にラインが渋い声でまとめて、俺達は探索を続けた。
ダンジョン自体は本当に退屈な所で、奥に行ったら宝石が入った宝箱を見つけて終わりだった。
俺がアクロバットするたびに、コメントが盛り上がり、フィーカが戦慄するのは、ちょっと楽しい経験だった。




