第61話:配信への備え
あのイベントの後、BWOはファストトラベルが充実した。
俺とフィーカは手近な復活ポイントに行き、さっそく目的地付近への移動を試みる。
復活ポイントは石碑の形で町の各所にあり、ちょうどいいことに無人のものがあった。
「さあ、行きますよスクラちゃん。行き先はルクス山地北部の海が見える海岸近く、そこにあるムーンシャトウ跡地というダンジョンです! 推奨レベルは48! では、レッツゴー!」
「待った。いくつか確認したい。俺……ボク、出来れば武器変えたいんだけど。ユニークスキルで正体ばれるから」
両手に鎖鎌持って『ダイナミック・バインド』とか『ピタッとフック』を連打して配信したら、速攻で正体がバレる。せっかく性別まで変えたんだから、隠蔽の方は頑張りたい。
「おう。そうでした。実はそこもちゃあんと対策を考えておりましてね」
そう言ってフィーカはインベントリから武器を取り出した。
「スクラちゃんが想像以上なので興奮して忘れていました。どうぞ」
手渡されたのは、[銀鋼の大鎖鎌 攻+52 両手持ち]という銀色に輝く巨大な鎖鎌だった。
「攻撃力高いけど、これだと『ダイナミック・バインド』はできないな」
「そこはもう、封印ということで。『ピタッとフック』も無しでいきましょう! 気楽な配信の時はスクラちゃんということで」
それはもう俺の個性を殺すのに等しい気がする。でも仕方ないかれ、フィーカがそう言うならいいのだろう。
「じゃあ、それでいくか。いっそ武器変えたらボク用のユニーク生えてくるんじゃないかな」
システム的にもそういう仕様のはずだ。それに、気軽に別職業に転職も可能でもあったはず。レベルも上がりにくくなってるし、セカンド職業をスクラ用に検討するのもありだな。
「なかなかのやる気ですね。そして、戦闘方面の心配はいりません。トミ……スクラちゃんも持っているんでしょう? フェアリー。頼れる相棒のおかげであたしの火力が大幅アップしているのですから!」
演技臭い動きをしつつ、フィーカがウインドウ操作した。そりゃ、フェアリーは持ってるか。手っ取り早い強化だしな。
ぽん、という軽い音と共に、フィーカのフェアリーが目の前に現れた。
それは妖精らしく、小さく、浮かんでいて……
「フグ?」
フィーカのフェアリーは、拳大のフグだった。色までそのまま。なんか、浮いてるし目つきが悪い。
「いかにも。フクちゃんと名付けました。上空から敵の位置を教えてくれるし、ステータスの補正をくれたり大活躍なんですよ!」
「上空からって、そりゃ強いな」
今のところ空を飛ぶプレイヤーは見たことがない。高い位置から偵察できるだけで凄まじい利点がある。仮にフィーカがこの前のカタパルトのような武器を使えば、観測射撃が出来る。非常に有用だ。
「しかもフクちゃん。本気を出すと投石機で射出できます」
「それは平気なのか?」
「あたしも最初びっくりしたんですが。本人がやる気でして。炎に包まれてぶつかるから強いんですよ」
見ればフクちゃんは歯を剥き出しにして闘志を見せていた。意外と好戦的なのか?
「それで、スクラちゃんのフェアリーはどんな感じなんですか? 瑠璃さん達からお楽しみと言われて、教えて貰えてないんですよ」
ああ、だから会った時にフェアリーの話にならなかったのか。俺がマンボウ連れてるって知れば真っ先に絡んで来そうなのに、変だと思った。
「大変複雑な心境だけど、ボクのも魚でね。来い、ラインホルスト」
ウインドウ操作ではなく声で呼び出す。レアだからか、こいつはそれでぬるりと現れる。
「はじめまして。我はラインホルスト」
現れたラインホルストは、何故か太刀魚の形をしていた。鋭く尖った、一本の刀のような鋭利なフォームの魚類だ。
「ぬう! まさか太刀魚とは! さすがはスクラちゃん!」
「いや待って。なにその姿。あなたマンボウだったはずでしょ」
「主に合わせて姿を変えてみた。攻撃の力が必要と思いな」
俺に気を使っての変化だった。器用すぎる。ゴシックPめ、どんな仕込みをしているんだ。プレイヤーとしては色んな能力があって助かるけど。ただ、これが専用だと不公平だ。他の人のフェアリーも能力が増えるんだろう。
「おや、マンボウ? それは一体」
「男の姿だとマンボウだったはずなんだよ。足場になったり、補助してくれる」
「今の我は太刀魚。名前の通り、主の剣となろう」
物凄く渋い声でかっこいい宣言をされた。太刀魚に。
「むむむ。マンボウも大分気になりますが。今日はスクラちゃんでお願いします!」
「わかった。まさかデビュー戦で別物になるとは思わなかったよ」
「楽しみが増えたではないか」
太刀魚がニヒルな笑みを浮かべて言った。なんだこの光景。近くにフグ浮いてるし。
「では、自己紹介も済んだ所で行ってみましょうか! レッツ配信!」
「一応フォローはしてくれよ」
冷静に考えるとライブ配信に参加するのは初めてだ。ノリで流れに乗ってしまった。
さて、どうなることやら。
◯◯◯
ムーンシャトウ跡地は、ルクス山地の見晴らしの良い丘の上にあった。
跡地と言うだけあって、見事な廃墟。というより土台が僅かに残るだけのほぼ更地だった。
「跡地にも程があるでしょ、これは」
「なんでも大昔に裕福な貴族が建てた別荘らしいですよ。もはや自然に帰りつつありますが」
言いながらフィーカの後ろを歩く。何も無いと思った草原のなか、ぽっかりと地下への階段が現れていた。
「地下施設だけが無事で、そこが小さなダンジョンになっているのです。推奨レベル48」
「なにをしてる貴族だったんだろうね……」
なんかロクでもない設定がある気がする。
「一応、口調に気をつけてるけど。こんな感じでいい?」
「完璧です! そのちょっとクールでたまに口調が崩れるところ、あたし的にポイント高いですよ!」
「それは良かった」
依頼主からOKが出たのでこの方向で行ってみるか。追い詰められると上手くできるかわからんけど。
「それでは、設定しますかー」
フィーカは着々と配信の準備を始める。ライブ配信をするための丸いドローンが現れ、辺りに浮かぶ。フクちゃんが一瞬気にしたけど、すぐに興味を失った。
俺の方もラインホルストを召喚済みだ。太刀魚の姿、どんな動きをするか楽しみである。
「よし、準備完了。突発配信、いつでもいけます! スクラちゃん、覚悟はいいですか?」
「い、いいよ。やってみる」
何かやらかしても普段と別の姿だ。その点だけは気が楽である。いい方法を考えたもんだ。
「では、スタートォ!」
フィーカが目の前のウインドウをタッチした直後、視界の端に文字列が走り出した。
[フィーカちゃんの突発配信ってマジ?]
[ライブはやらないと思ってたわ。どこにいるの?]
[隣の子は誰でしょうか? とても可愛いのですが]
[大変良いものをお持ちで]
[マジ需要わかってる。ロ(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[(センシティブ表現のため自動削除されました)]
治安悪いな。全員ブロックしちゃえよ……。
「おお、盛り上がってますねぇ。さ、スクラちゃん。ご挨拶を」
全然気にしてないフィーカに軽く背中を押され、カメラに向かって頭を下げる。
「はじめまして。スクラです。訳あってフィーカと共演することになりました。特技はツッコミです。よろしくお願いします」
軽く頭を下げると、一気にコメントが流れてくる。
[よろしく!]
[すげぇ、待ち望んだ人材が遂に! しかも可愛い!]
[モザイクの人のご加護だな]
[もう一回お辞儀して、谷(センシティブ表現のため自動削除されました)]
[(センシティブ表現のため自動削除されました)]
大丈夫かな、この配信。というかファン層こんなだったんか?
「スクラちゃんを見て皆さん浮足立ってますねぇ。しかし、センシティブフィルター、強すぎでしたかね? 最強なんですが」
何やら悩ましげにしている依頼主がいるけど、とりあえず今回はこれで行くことになった。




