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第6話:種明かし

 とりあえず、PvPモードは解除した。形としては俺の勝利となる。


「あの……兄さん……いえ、トミオさん。やっぱり何か格闘技やってるんじゃないですか?」

「言った通りゲームしかしてないけど」

「いやでも、あんなおかしい動きはできないでしょ。オレのパンチ全部紙一重で避けて……!」

「もしかして、色んなVRゲームをしてるって意味ですか?」


 思わず早口になったハルちゃんを押しとどめたのは、隣の女の子の言葉だった。


「え? それって、ゲームの経験だけであんな避けをしたってことですか?」

「……二人とも、VRゲームは初めて?」


 質問には揃って首を縦に振られた。

 これは説明しておいた方が良さそうだ。特にハルちゃん。格闘技をしているなら、選手生命に関わるかも知れない。


「ちょっと説明するよ。座って話そう」


 回復ポーションを取り出して、その場に座る。周りは草原で、プレイヤーはまばらだ。さっきPvPをしてる時、横目で見てる人もいたけど、終わったらいなくなった。


 ハルちゃんに回復ポーションを渡す。一瞬、躊躇われたけど素直に受け取ってくれた。どうせ支給された初心者用のだ。惜しくはない。


「言葉通り、俺は色んなVRゲームを渡り歩いてる。だから、人間には出せないような攻撃を潜り抜けた経験もある」

「そっか、普通の格闘なんか見慣れてるんすね」

「そこまでじゃないけどね。ゲームの設定によっては普通に当たるよ。ちゃんと種があるんだよ」

「何か裏技的なものっすか?」


 目を輝かせて聞いてくるハルちゃん。隣の子も無言だけど似たような目つきをしている。


「人間が体を動かす時、目で見て、脳が命令を出して、神経を通って筋肉を動かすでしょ? 時間にして、0.1秒とか0.2秒かかるらしいんだ」

「っすね。実際、見えてたのに避けれなかったーとかよくあります」


 さすがは格闘技やってるだけある。俺なんかより、よほど経験豊富だろう。

 俺は自分の手を掲げて見せる。


「今の俺達の体には神経も筋肉もない。内臓だってない。デジタルの肉体だ」

「あ、そっか……。脳の命令から即座に体を動かせるんだ!」

「それって、見てすぐ動けるってこと? すげ、え、でもそんな感覚全然ないけど」


 理解が早い二人だ。着眼点もいい。


「元々人間は体を持って生まれたんだから、その癖がなかなか抜けないんだよ。理屈はわかっていたって、体の動かし方をそう簡単に変えられるものじゃない」


 俺がハルちゃんの連打を見て回避できたのは、この技術を使えるからだ。

 ゲーマー間では超反応などと呼ばれる。『フルダイブ時の体の動かし方』、脳がVRに最適化された動き。

 これが出来るかどうかが、VRゲームにおいては結構重要だったりする。


「つまり、トミオさんは、長年のVR経験ですげぇ反応速度で動けるってこと?」

「そうそう。ゲームによってはリアルの肉体に準拠した動きになってるやつもあるから、できない場合もある」


 幸いBWOはそうじゃなかった。今回のPvPでは、この超反応が有効かどうかを確認したかった。もし、現実の肉体準拠の反応しかできなかったなら、俺はあっさり負けていただろう。


「このゲームだとそれができたんすね。それ、練習すればオレもできますか?」

「多分ね。上手い人はだいたい使えるよ」


 実際、どれくらいの割合がこの技術を習得しているかはわからない。いつの間にか無意識にできるようになってる人も多いからだ。

 昔、反応速度のテストと合わせて行われた検証だと五割を超えていた。でも、あれはベテランゲーマーばっかり参加しちゃったから、データとしての信頼性はないって言われてるんだよなぁ。


「面白くなってきた! 友達がVRゲーにハマる理由もわかってきたかも。これでその技が使えたら世界が広がる!」

「その話がしたかったんだ。ハルさん、格闘技を頑張ってる人だよね。VRに慣れると弱くなっちゃうかもしれないんだよ」


 ようやく言うべきことを言えた。

 俺の宣言にハルちゃんは呆然とした顔をしている。


「ど、どういうことすか?」

「リアルとVRで体の動きに齟齬がでるんですね」


 ナツさんは想像がついてたみたいだ。俺は頷いてそれを肯定する。


「この感覚で動くのが当たり前になるとさ、現実での動きが全部ワンテンポ遅く感じるんだ。0.1秒って大したことないようで、そうでもなくてさ」

「あらゆる動きに違和感が出るってことっすね? トミオさんも?」

「うん。俺は大して問題なかったけど、知り合いには段差で転んで怪我したのがいるな。リアルとVRで体の動かし方を切り替えできない間は大変だと思う」

「えぇ……結構怖いんですね」


 脳にデータを流して皆で集団幻覚みたいなのを見て遊んでるんだ。冷静に考えると結構怖いのである、VRは。色々と安全対策はされているけれど。


「ハルさん、真面目に競技やってるなら、そこは考えた方がいいと思う。余計なアドバイスかもしれないけど」

「いえ、全然ありがたいです。凄く助かります」

「もしかして、この話をするために時間をとってくれたんですか?」

「一応ね。PvPを挑まれた時はびっくりしたけど、話した感じ悪い人じゃないみたいだったし。VRゲー初心者に見えたから」

「おおお! 凄い親切な人だ! そうだ、ナツ! 負けたんだから収集品渡さないと!」

「え? う、うん」


 いきなり目の前にアイテム受け渡しのウインドウが出てきた。それも二人分。かなりの量だ。俺の知らないものも結構ある。実は二人して、PvPで稼いでたのか?


「えーと……」

「これは勝負の結果ですから、遠慮なく受け取ってください。男の約束っす」

「いいけど。ナツさんも?」

「どうぞ。色々と教えてくれたお礼です」


 くすりと笑いながらナツさんが言った。ナツさんからの受け渡しアイテムには回復ポーションも入っている。さっきの分ってことか。気の利く人だな。


「遠慮なく頂くよ。これで俺は一度村に戻れそうだ」

「オレ達はもう少し狩りしていきます。せっかくだから反応速度の違いってのが体験出来るか試したいんで」

「ちょっとハルちゃん。今リアルに影響あるって聞いたばかりでしょ」

「いいんだよ。すぐ出来ないだろうし。面白いじゃん。VR独特の感覚があるなんて」


 想像よりも前向きに受け止めているようだった。言うべきことは言った。後は本人次第だな。


「あの、トミオさんはなんでこんな親切にしてくれたんですか?」


 立ち上がった所で、ナツさんに聞かれた。


「VRMMOの師匠みたいな人達の教えなんだ。ネットの世界も一期一会。出会いは大切にってな」


 中二の頃、『ゲヘナ・オンライン』で初めて出会った仲間達。彼らはインターネット黎明期を生きた歴戦のインターネット戦士たちだった。

 俺はあの人達から多くのことを学んだ。ネットとの付き合い方。マナー、危険行為。インターネットテクニック全般。


 彼らは先に引退してしまったけれど、俺は『インターネット老師』として今でも尊敬している。

 今の行動も、老師達の教えにしたがったまでだ。


「なんか、良いですね。MMOって感じで」

「相手が悪い人じゃなければ、出会いは楽しいものだからね」


 これもまた、老師の教えである。


「じゃあ、俺は村でクエスト終わらせてくるよ」

「はい。ありがとうございました!」

「また会ったら宜しくっす!」


 こうして、俺はハルちゃんナツさんコンビと爽やかに別れたのだった。

 

 フレンド登録のシステムについて思い出したのは、フロントタウンについてからだった。


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