第51話:決戦! キメラゴドン! 7
体感五分ぶりに見たキメラゴドン頭部はさっぱりしていた。いるのはイザベルCCとバリア発生装置らしい柱のみ。プレイヤーたちは上から攻撃してくるイザベルCCに苦戦しているようだ。上段とられると厳しいからね。
「ピタッとフック!」
イザベルCCからなるべく遠いところに着地。上手くいった。ラッキーだぜ。正直なところ、この移動は賭けだった。上手くいってよかった。
「……さすがは虫だな。まさか飛ぶとは」
「せめて鳥と言って欲しいね。俺達の街を守るため、倒させてもらうぜ」
軽くロールプレイをしてから鎖鎌を二刀流にする。ここは攻撃力重視だ。
ダッシュで近づこうとすると、柱とイザベルCCから光弾の連射が来た。
「うおっとぉ! 疾駆斬!」
横に飛んで回避。こちらの射程に入ったのを見て一気に接近して斬りかかる。イザベルは柱に囲われているので、まずは発生装置から潰す!
「まずはこの柱ぁ!」
ファストアタックなどを組み合わせて連撃。さすがに一回じゃ壊れないか。
「……サンダーランス」
近づいてきたイザベルCCが雷の槍を生み出して振り回してきた。
「わわわわわ!」
柱からの射撃を少し受けつつ距離をとる。さりげなく回復ポーションを使うのも忘れない。
……やっぱ一人じゃ無理だな。コサヤさん、上手く回収できるかな。そろそろ射出してくれると思うけど。
不安になった時、イザベルCCの動きが変わった。
柱が地上に攻撃し始めたのである。
「おのれ、しつこく近寄りおって!」
俺から目を離して下を見るイザベルCC。そうか、ヘイトが俺に向いた分、下に余裕ができて何人か接近できたのか。
いいぞ。戦ってるのは俺ひとりじゃない。
『トミオさん! コサヤ様を射出します!』
フィーカの声が聞こえた直後、こちら目掛けて飛んでくるものが見えた。空を飛んでもコサヤさんの出で立ちは目立つ。
「なんか、狙いが悪いな……」
『すみません! 撃った瞬間に破損しまして! 座標ずれてます! 死ぬ気で拾え、とカモグンさんが言ってます!』
マジかよ。うわ、なんかイザベルCCがこっち見てるし。
「うおおおお!」
叫びながらコサヤさんの軌道を確認。右に逸れてる! なのでそちらに向かってダッシュ。後ろから嫌な気配がしたのでスライディングして、イザベルCCからの魔法を回避! 柱からの攻撃もついでに回避! ああ、余裕ないぞ! いや、柱二つ、下に攻撃してるから弾幕が薄い。いける!
綺麗な放物線を描いてこちらに飛んでくる銀髪の少女を確認。このままだと狙い外れるけど、俺には素晴らしいユニークスキルがある。鎖鎌一本に装備を変更。
「ピタッとフック!」
超有用スキルはガッチリとコサヤさんを掴んでこちらに引き寄せた。
そして銀髪剣士が頭上のフィールドに来て安心した瞬間、俺の体が吹き飛んだ。イザベルCCの爆発系の攻撃だ。気づけなかった。
「クソッ、油断しちまった。でも、上手くいったぞ!」
かなり痛い。HPが半分削れた。インベントリから回復ポーションを出さねば。
しかし、リスクに見合う成果はあった。
慌てて回復する俺の横を、無事に着地していたコサヤさんがすり抜けていく。
「……よくやった」
日本刀を携え、たった一人でボスに突撃しながら、コサヤさんが呟く。いつもより少し大きな声で。
「……桜花乱舞っ」
コサヤさんの全身から桜色の輝きが溢れた。淡い春の輝きは日本刀の先端まで覆っていく。銀髪と碧眼が桜の輝きを帯びる。神秘的な印象すら漂わせる姿で戦場を走る。
一足踏み込んだ瞬間、これまでにない速度でコサヤさんはイザベルCCに接近した。その移動の軌跡に輝く桜の花びらを残して。
桜花乱舞はレベル50を越えた時に覚えた、コサヤさんの新たなユニークスキルにして切り札だ。
派手なエフェクトに相応しく、効果は一定期間のステータス倍増。凄まじい自己バフスキルである。
同時に、デメリットも大きい。効果時間は三分程度。桜花乱舞終了後は全ステータスが低下した上で、装備も破損。しかも装備変更も封じられる。このデメリットは一時間続く。大抵の場合、一戦闘に一度きりの出番になるだろう。よくここまで我慢したな、とも思う。
イザベルCCとバリア発生機の柱に対して、コサヤさんの猛攻が始まった。当然、乱れ三日月を始めとしたユニークスキルもこの状態で発動可能だ。むしろ、今こそ使い所だろう。
桜花乱舞の名の通り、桜吹雪を散らすコサヤさんの戦いはあまりにも美しい。
「って。見とれてる場合じゃない。やることやんないと!」
今するべきは見物じゃない。いくらコサヤさんでもボスの単独討伐は無理だ。
フィールドの端までいって、下を見る。やっぱり、何人か登ってきてるな。イザベルCCがコサヤさんの相手でいっぱいいっぱいになってる間に、仕事をさせてもらうぜ。
「ピタッとフック! ピタッとフック! ピタッとフック!」
おなじみのスキルを連打。とりあえず、近くにいた三人を引き上げる。
「てか、思ったより近くにいる人が少ないな!?」
「取り巻きが多すぎるんだよ。俺たちゃ、ボス登場の時、たまたま端にいて生き残った組だ」
「いくぜぇ、残ったスキルを叩き込む!」
「あの女の子、凄い綺麗……」
一人、ちょっと心配になる反応を示しつつもボスへの攻撃に加わっていく。頭数が増えればそれだけで有利になる。しかし、本当に追加できる人がいない。下界は取り巻きで過密状態になってる。最悪だ。
俺もイザベルCCにいこうか……。あ、瑠璃さんとオリフさんが下半身に登って来てるな。回収するか? いや、ちょい厳しい。
一瞬迷ってから、俺はイザベルCCへの攻撃へ参加することに決めた。取り巻きが引き続き湧いているのが見えたからだ。恐らくこれはボス戦の最終段階。決着は近いはず。
コサヤさんと三人は頑張っていた。既に柱が二本折れている。どうも、あれを倒さないとイザベルCCにダメージ入らないっぽいな。
「疾駆斬!」
早速、柱への攻撃に加わる。コサヤさんはまだ光っている。イザベルの相手をしつつ、たまに柱を切ってる。あの速度で戦場が見えてるの、味方で良かったって思うね。
最後の柱は一分もしないで折れた。 それを見て、イザベルCCの表情が憤怒のそれへと変わる。
「貴様らぁぁ! 私の世界救済を邪魔するんじゃない!」
「どう見ても壊してる側だろうがよ!」
杖から魔法を乱射するのをすり抜け、接近に成功。他の人が盾になってくれたおかげだ。
同時、コサヤさんも隣に来た。桜色の輝きが薄くなっている、時間切れが近い。
「……ようやく殴れる。乱れ三日月」
「ファストアタック! スティルアタック! 疾駆斬!」
連続でスキルを叩き込む。最後に疾駆斬ですり抜けて距離を捕るのも忘れない。俺は弱いからヒットアンドアウェイでいかせてもらうんでね。
さてもう一度、と思った時、地面にカランカランという金属音が響いた。なんか、丸いものが? イザベルCCからばらまかれてる?
爆弾だな、これ。さっき食らったわ。
気付いた瞬間、体を投げ出した。頭部フィールドの外へ。
「ピタッとフック!」
なんとか側面にフックを刺してぶら下がった直後、爆音が響いた。状況を確認すべく、素早く上に行く。
そこにはコサヤさん以外のプレイヤーはいなくなっていた。
「コサヤさん、無事で?」
「……周りに来たやつだけ切ったら助かった。でも、時間切れ」
コサヤさんから桜色の輝きが消え、日本刀が目に見えてボロボロになっていく。桜花乱舞、効果終了だ。しばらくの間、俺よりも戦闘能力が低くなる。
下を見る、近くにプレイヤーはいない。というか、押されてる。ゴシックPめ、嫌な設定にしやがって。
「……まだ、戦えるよ」
「勿論ですとも!」
鎖鎌二刀流にしてイザベルCCを見据える。向こうもだいぶ疲れて見える。こちらの攻撃も効いている。
こうなりゃ一か八か、二人で突っ込むしかない!
と覚悟を決めたところで、カモグンさんの声が耳元に響いた。
『即席で収束爆弾を作った。カタパルトは何とか撃てる。上手く避けて次に繋げてくれ』
全体:フィーカ「今からボスのところに爆弾打ち込みます! 頑張って避けてください!」
爆弾の範囲攻撃相手にどう頑張るんだよ。さっき避けたけどさ、と思いつつモリス・ルクス方面を見る。既に発射されたらしく、いびつな物体がどんどん近づいてくるのが見えた。思ったよりもキメラゴドンが街に近づいていたから早い。
カモグンさん制作の手榴弾、でかいな。フィーカの狙いもしっかりしてる。やはり才能があるようだ。
そんなのんびりとした感想を覚えつつも、イザベルCCの足元に無理やりまとめられた爆弾が着弾するのを確認。
大爆発した。
◯◯◯
キメラゴドン頭部の平たい戦場。
爆発の煙が晴れた後、そこに残っているのはイザベルCCだけだった。
苦悶の表情を浮かべたボロボロの錬金術師は、杖を構えながら周囲を見回している。
邪魔者が消えたか、確認しているんだろう。
勿論、しっかり生き残っている。
俺は今、上空にいた。
あの瞬間、コサヤさんが手で踏み台を作って投げ上げてくれた。俺のシーフの脚力とコサヤさんのファイターの筋力が合わさった大ジャンプだ。
おかげでなんとか爆発から逃れられた。
それだけじゃない、戦闘民族のコサヤさんはちゃんと考えていた。イザベルCCのいる方向に俺を投げてくれたのだ。
俺は真っ直ぐにイザベルCCを見据える。集束爆弾のダメージは大きい、味方はいない。もはや攻撃以外の選択肢はない。
実を言うと、俺にはピタッとフックの他に、空中から移動できる攻撃スキルがある。鎖鎌を二刀流にして、そのスキルを発動する。
「疾駆斬!」
空中を蹴る感触が有り、勢いそのまま二刀流状態で斬りかかる。ピタッとフックが便利すぎてやってなかったけど、こいつも空中発動可能なんだ。距離は短いけどな!
一気に近づき、俺はイザベルに攻撃。そのままスキル効果ですり抜けて背後に回る。このまま近距離で斬り続けてやるぜ!
「うおおおお! ……お?」
覚悟を決めて武器を構えたら、イザベルCCは目の前にいなかった。
彼女は地面に倒れ伏し、空に向かって手を伸ばしていた。戦うための杖は、既に床に転がっている。
そうか、ギリギリまで削れていたのか。
「あ……あ……」
その目はこちらを見ていない。一体、何を考えているのか。このNPCの設定をよく知らない俺にはわからない。無念、そんな感情が伝わってくる表情だ。よく作り込まれている。
空中を掴みながら、イザベルCCはか細い声で言う。
「守れなかった……ごめんなさい……」
そのまま、腕が地面に落ちて、キメラゴドンのコアであった錬金術師は静かに目を閉じた。
【イベントBOSS「イザベルCC」を撃破しました】
静かになったフィールドにそんなアナウンスが流れる。
「…………」
最後にいかにも訳ありでしたって感じにするのがゴシックPの手法だ。そのうち、何かのクエストで真相などが判明するだろう。
「とりあえず、報告しようかな」
情報ウインドウを開いたところで、足元から振動が来た。それもかなりものが。
「ええっ、なんだこりゃ! ってキメラゴドンが崩壊してる!」
見れば、各所で爆発が起きてこの巨大キメラが終わりを迎えようとしていた。
もしかしなくても、逃げなきゃ巻き込まれるやつだ。
「クッソォォ! 少しは勝利に浸らせろぉぉ!」
俺は叫びながら迷わず空中に飛び出した。着地は何とかなるので。
豪快な爆発と崩壊の音を背景に、新たなアナウンスが響く。
【イベントBOSS「イザベル・オリジナル」を撃破しました】
【おめでとうございます! 当サーバーは「プレイヤー完全勝利」と判定されました!】
どうやら、俺達は勝ったらしい。それも完全に。




