第47話:決戦! キメラゴドン! 3
全体:名無しのボブ「キメラゴドンの足止めをしたら飛びやがった! 現在追跡中だ!」
ボブの全体チャットが響く森の中を俺達は駆け抜ける。
まずいな、思ったより遠くに飛んでる。ぶっとい飛行機雲みたいな煙がかなり先まで続いてる。
「どどど、どーしましょう! ものすごいジャンプしてますよ! このままだとモリス・ルクスまですっ飛ばれてゲームオーバーでは!?」
フィーカが慌てながら言う。その横では飛びかかってきたモンスターをコサヤさんが切り捨てていた。フィールドの移動はエンカウントがあるから面倒だ。
「いきなり対処不能の無理ゲーを奴が仕掛けることは考えにくい。まだ展開があるはずだ」
「このままじゃクソゲーだぞ」
「ですね~」
「むしろ。足を破壊したことでジャンプするイベントが発生したと見るべきだろう」
「……飛んだ先で何か起こってるかも」
「み、皆さん落ち着いてますね……。大人だ」
いや、違うと思うが。という言葉を出す前に、一緒に走っているプレイヤーが叫んだ。
「いたぞ! ……なんだ……これ」
森を抜けた先、土煙の向こうの光景を見てそんな言葉が聞こえた。
それに俺達が同意するのにさして時間はかからない。
キメラゴドンが地面に埋まっていた。
下半身全部とは言わないが、四本の脚が根本近くまで沈んでいる。
「これ、埋まってるというより、穴に落ちた?」
「みたいだな。地下になんかあったか?」
「もしかしたら、モグラ型アニーマ族の脱出通路があったのかも」
地図を出して確認。真っ直ぐモリス・ルクスめがけて飛んだみたいだ。そして、この経路はモグラの掘った避難路とも重なる。
「えーと……これはつまり……」
「キメラさん、動けないですね~」
両手を使って体を持ち上げようとしたり、脚を動かしているけど、ほぼ動けてない。
「……これは攻撃のチャンス」
「脚撃破のボーナスってことだろうな」
他のプレイヤーも含めて、ようやく状況を理解した。人間、変なものを見るとちょっと固まるものだ。
「殴れ殴れ! 今がチャンスだ! 攻撃しまくるんだ!」
「観察だ! 観察もするんだ! 弱点があるかもしれない!」
プレイヤー達が殺到していく。ここで何とかすれば野生のボブも浮かばれるってもんだ。
「よぉし。では、あたし達もいきますかぁ!」
「その前にフィーカ、全体チャットでここに人を集めてくれないか?」
「なんであたしが!」
「……目立つし撮れ高があると思う」
「なるほど。さすがコサヤ様! ご慧眼です!」
コサヤさんに対しての姿勢だけ相変わらず違うな。話が早いから助かるけど。
カモグンさんが言ったように、これはプレイヤー側に与えられた攻撃チャンスだ。モリス・ルクスに大きく近づいた上に行動不能。利用しない手はない。
「へへへ、では、お言葉に甘えて呼びかけを……」
先に殴りに言ったオリフさんと瑠璃さんを見送りながら、フィーカがウインドウを開く。
「自分の動画チャンネル宣伝するなよ。営利目的と判断されてBANまであるぞ」
「えぇ! そういうのもあるんですか! ちょ、直前で助かりましたが、怖くなりましたよ!」
フィーカのチャンネルは収益化してるので危険だ。この辺の悪意ある利用者には厳しい昨今なのである。
「必要事項だけ伝えるのがコツだ。無駄な話をしないようにな」
「お任せください! 得意分野です!」
絶対嘘だ。俺の思いをよそに、フィーカは澄ました顔をして全体チャットを開始した。
全体:フィーカ「あーあー、テストテスト。現在、モリス・ルクス北部。イザベル工房との中間地点にキメラゴドンが落下。動けなくて殴り放題になっています」
全体:フィーカ「えーと、座標は276890.568973。攻撃する人募集中です! 皆さん奮ってご参加ください!」
ちょっと声色をかえてアナウンスしたフィーカが、ドヤ顔でこちらを見た。
「うまいうまい。すごいぞ」
「おまかせください!」
拍手して褒めると倒れんばかりに胸をそらした。満足そうだ。
「じゃ、殴りにいこうか。皆もう行っちゃったし」
「ホントだ! 皆さん判断が早い!」
目の前に殴り放題のボスがいればそうもなる。
フィーカの放送に反応して、プレイヤーはどんどん集まってきた。
最終的に五十人は超えたと思う。俺も攻撃に参加してたので、ちゃんと数えたわけじゃないけど。
「ここ! このバーニアでジャンプしたんだ!」
「ぶっ壊せ!」
「上半身に気をつけろ! 攻撃してくるぞ!」
「脚ぶっ壊せばもっと移動を遅くできるんじゃないか?」
「頭に気をつけろ! 状態異常の視線があるぞ!」
それはもう賑やかにお祭り状態である。一方的に攻撃できるのは楽しいものだ。
時間にして十分ほどだろうか。
カモグンさん達と足回りの破壊に勤しんでいたら、様子が変わった。
場の空気というのだろうか、違和感がある。もしかしてタイムアップか? ようやく取り巻きを片付けたっていうのに。
「なんか、動いてる?」
下半身、腰の部分が動いている。ファンタジーらしくない、機械音が聞こえる。
腰の側面。プレイヤーが昇るのにちょうど良かった凹凸に線が入り、蓋が現れて開いていく。そこに現れたのは、巨大なレンズ?
「ト、トミオさん! あれは一体!」
知るか! という言葉を飲み込み推測を話す。
「ダメージが一定に達したから迎撃装置が発動した……とか?」
「…………」
フィーカだけでなく、近くにいた他のプレイヤー全員が固まった。
「に、逃げろー!」
誰かの叫びに反応して、全員が一目散に駆け出した直後。
腰部分のレンズからグネグネ曲がる無数のレーザーが発射された。
まるで雨のような光の乱舞だ。
「速度は遅い、これなら何とか……」
避けれる。いくらか避けてピタッとフックで離脱すればなんとかなる。俺は必死に体を動かして回避に専念した。
「避けきった……」
二十秒以上の攻撃が終わると、プレイヤーの大半がいなくなっていた。
「なんつー攻撃だ」
これ、連射してこないだろうな。クールタイムあるよな?
そんな俺の杞憂を受けてか、キメラゴドンが轟音をあげて動き出した。
壊れた脚を無理やり地面から取り出して、少しずつ前進。ついには埋まっていた穴から脱出に成功した。
再生まではしていないらしく、おぼつかない足取りでモリス・ルクス目掛けての行進を再開。……なんか、前より早いな。急がなくていいのに。ゆっくりしていけよ。
「追いつけるかな? 結構早いな」
考えていると、コサヤさんが近づいてきた。頭を潰しに行っていたはずけど、無事だったらしい。
「……トミオ、失敗したかも」
その言葉で気付いた。慌てて周囲を確認する。
カモグンさん達も消えている。生存者は半分くらい。異常に少ない。
「……しまった。避けなきゃよかったか」
キメラゴドンは早くも視界から消えそうになっている。巨大な分、早足になると速度も相当だ。プレイヤーの脚で追いつくのはまず不可能だろう。
つまり、こうなるとモリス・ルクスに戻って迎撃するほうが確実だ。
多分、フィーカは実力の問題で死んだんだけど、他の面々はそこを判断して復活ポイントに戻ったはずだ。皆、足回りにいたから再起動に気付いたんだろう。
「……つい避けちゃった」
「絶妙に回避できる速度と密度でしたからね」
回避型の前衛職をしてる悪い面が出てしまった。まずいな、迎撃に遅れるかもしれない。
「と、とにかく急ぎましょう! 近くにモグラ達の避難路があるはずです!」
「……急ごう」
カモグンさんへの音声チャットを開きつつ、俺とコサヤさんは近くの避難路へと向かった。
決戦に間に合わなかったなんてことになったら、洒落にならんぞ!
◯◯◯
幸い、モグラ達の作った避難路は近くにあった。俺とコサヤさん、他生き残りのプレイヤーは必死にモリス・ルクス目指して走る。そういえば、帰還アイテム実装されてないんだよな。まさかこのためか?
案外、このイベントのために出し惜しみしているのかもしえれない。そんな思考をしながら走っていると、全体チャットが流れてきた。
全体:アキラメロン「決戦兵器『どすこい』、もうちょっとで撃てます! 誰か、キメラの動きを止めてください!」
なんて名前だよ。もしかして決戦兵器の命名者か?
クソッ、さっき見た感じ、キメラゴドン、結構な速さだったぞ。決戦兵器、たしか「砲」だったよな。今の余裕のない言い方だと一発勝負か?
「いっそ、その辺のモンスター相手に突っ込んで死に戻るべきだったかな……」
「……ここがユニークスキルの使い所とは限らない」
コサヤさんの言う通りだ。工房地下で使ったダイナミック・バインドのクールタイムはもう終わってるけど、展開的にあと一度しか出せないだろう。機会を待つしかない。……アイテム温存したままゲームクリアした思い出が蘇ってきた。不吉だ。
そんなことがありながらも、出口が見えた。外からの光で明るく輝いている。
勢いそのまま飛び出すと、モリス・ルクス北側の森に出た。
木々の向こうに、キメラゴドンの巨体が見える。轟音を上げながら、樹木を押し倒し、地面を削って街に近づいている。
なんとか間に合いそうだ。今から近づいてダイナミック・バインドするか?
そう思ったところで、キメラゴドンの動きが変化した。
「あれは鎖? ……いや、茨かな?」
茨のような光り輝くものがキメラゴドンの下半身を覆い始めた。止まらないけど、確実に遅くなってる。更にダメージも入ってるんじゃないだろうか。電撃みたいなダメージエフェクトが見える。
「……誰かのユニークスキルだね」
「戦ってるのは、俺達だけじゃないってことですね」
当たり前の話だ。イベントに参加しているプレイヤー全員が、最善を尽くしている。
全体:アキラメロン「決戦魔力砲『どすこい』、発射します! キメラの近くにいる人は気を付けてください!」
どうしろってんだって言いたくなるようなコメントの直後、一条の光がモリス・ルクスの王城から放たれた。
「ビーム兵器か!」
「……すごい。でもこれは」
コサヤさんが不安げに言った通り、狙いが甘い。やや上方、右上に外れていく。
これは厳しくなりそうだ……と思った時だった。
ビームが動いた。まるで巨大な光の剣のように、キメラゴドンを斜めに薙ぎ払いにかかった。
「これは想像ですけど、怪力系のユニークスキル持ちが無理やり振り回したのかな」
「……あり得る」
「どすこい」は巨大な砲のはずだ。それを照射中に無理やりぶん回したすごいヤツがいるに違いない。ちょっと見たかったな。
斜めに振り下ろされたビームはキメラゴドンの左の下半身に直撃。
一瞬、バリアみたいのが見えたけど、簡単に砕いていく。
巨大な光剣となった決戦兵器の勢いは止まらない。
左の前と後ろ足を吹き飛ばし。水平に動きを変えて残りの脚を吹き飛ばしていく。
「凄い。本当に役立つ決戦兵器だったんだ」
「……これ当たらなかったサーバーどうなるんだろ」
コサヤさんが懸念を表明したところでビームが消えた。
キメラゴドンは下半身を爆発させながら、擱坐した。移動する脚がなければ流石に動けない。
全体:アキラメロン「やったか!」
馬鹿野郎。フラグを立てるんじゃねぇ。
それに答えるように、巨大キメラが振動を始めた。なにしてるんだ? 音だけで全然わからんのだが。
全体:フィーカ「現地から連絡ありました! なんか、履帯? みたいのが生えてちょっとずつ進んでるみたいです! あの脚は飾りなんですか!」
いや、飾りではなかったと思う。しかし、これで止まらないか。
「……速度は遅くなってる」
「今のうちに皆と合流しましょう」
とにかく、時間は稼げた。そろそろ最後の戦いのはずだ。
モリス・ルクスの城壁で待つ仲間達と合流すべく、俺とコサヤさんは城門に向かった。




