第46話:決戦! キメラゴドン! 2
低い山の中腹、木々の間に作られた監視所は、思いの外丁寧な作りだった。周囲を木の柵で囲い、木製の見張り台を各所に設置。上手いこと周辺の景色に馴染むように、元々生えていた木の上にツリーハウスがいくつも設けられている。
モグラ村の作った避難路の中を馬車で飛ばして一時間ほど、フィーカに案内されたその場所で、オリフさんと瑠璃さんが出迎えてくれた。
「やー、来たね。来てしまったね」
「お待ちしていました~。もうちょっとでブリーフィングなんで、間に合って良かったですよー」
広場の中央でのんびり焚き火を囲んでいた十人ほどのプレイヤー。その中に二人は混ざっていた。なんだか、想像よりもまったりした空気が流れてるな。
「なんか、緊張感ないですね……」
フィーカが撮影用のアイテムを浮かべながらぼやくと、瑠璃さんが笑顔で答える。
「今、偵察隊の人達がキメラゴさんの位置を確認して戻って来るところなんで、待機なんですよ~」
「こっちは待機組ってことですね」
そういうことか。最前線だけど、戦う前はこんなもんだろう。
「みんな! 戻ってきたぞ! 作戦を説明する!」
しばらく雑談かな、と思ったらにわかに賑やかになった。監視所の入口から続々とプレイヤーが入ってくる。傷ついていないけれど薄汚れた、緊張感を伴った十人ほどの集団。偵察組だろう。
先頭を歩いていたゴツいフルプレートアーマーの男が焚き火の前に立つと、大声を張り上げる。
「何人か新しく来てくれた人がいるな。俺は名無しのボブ! 巨大キメラ対策のアイテムを仲間と用意していたため、この場を仕切らせてもらっている!」
あの人がリーダーか。対策アイテムとは興味あるね。
「巨大キメラ……キメラゴドンはゆっくりとモリス・ルクスめがけて南下中。歩みは遅いが体がでかいから速度がある。もうすぐこの監視所からも確認できるだろう」
「は~い。そんな大きいのをどうやって倒すんですか~」
瑠璃さんが手を上げて質問すると、名無しのボブはニヤリと笑みを浮かべた。
「俺と仲間がNPCとのイベントで作り上げた、『超硬いワイヤーロープ(フックつき)』を使う。五本用意できたこいつで奴の動きを止める」
「そんなことできるのですか~?」
「イベントアイテムだからな。使うとその辺の岩とか木に自動で結ばれた状態になる。モンスターも同様だ」
おお、という声で全員がざわめいた。敵に接近するリスクはあるけど、悪くないぞ。
「問題は巨大キメラ相手にどれだけ保つかなんだが……。そこで考えた、狙うのは足一本に絞る」
「…………」
ボブの言葉に全員が沈黙する。それは、納得の沈黙だ。誰も異議を言わない。
「あの、キメラってどんな見た目してるんですか?」
そもそも向こうさんの外見を知らなかったことに今更気づいた。デカブツの足から狙うのは納得だけどね。
「ん。四本脚の下半身に人間っぽい見た目の上半身。ケンタウロスというより、四脚ロボっぽいって仲間は言っている。実際、体の各所が装甲で覆われていてメカっぽくなってるぞ」
「イザベルの工房にもメカっぽいのいたから、その技術かな」
カモグンさんの発言にボブが頷く。
「かもしれん。全高は30mほど。四本脚だから幅は広い。足はでかいけど、上半身に対して細めだ。なので、足を一本削れば動きを止められると判断した」
「なるほど……。できるのか?」
誰かの呟きが響く。自己修復機能くらい備えてそうだが、しばらく移動不能になってくれれば攻撃し放題だ。かなり有利に戦いを運べるだろう。
「できるさ。見ればわかる。破綻した設計の妥当な末路ってやつを見れるだろうよ」
名無しのボブは自信ありげに頷きながら言った。あ、周りのお仲間は微妙な顔してる。そこまで上手くいくかなぁ、って思ってるな。士気が高いのはいいことだから、深く突っ込むのはやめとこう。カモグンさんもコサヤさんも静かだし。
「俺は、モリス・ルクスに仲の良いNPCがいる。酒場に勤めて、病気の妹のために健気に働く良い子だ。生活が苦しいらしく、定期的に援助している。その彼女が怯えているんだ……。妹さんには会わせて貰えないが」
遠い目をしながら語り始めるボブ。……いや、それって。
「トミオさん。これって騙され……」
「しっ。モチベーションに繋がるならこの際いいんだよ」
無粋なことを言うフィーカを注意する。ボブのお仲間は更に微妙な顔になっている。色々苦労してそうだ。
「いや、すまん。余計な自分語りだった。とにかく、悪いがここは俺達に仕切らせてくれ! 全力は尽くす!」
「応!」
声高らかに叫ぶ名無しのボブ。それに対して、俺達含む、たまたまこの場に集まったプレイヤー一同、声をあげて応えた。
ところで多分騙してるNPCとの顛末、どこかにアップしてくれないかな。仲間も面白がって見守ってるだろ、そういう顔してるし。
◯◯◯
◆WARNING!◆
【レイドボスモンスター出現!】キメラゴドン 推奨レベル???【危険度:???】
◆WARNING!◆
情報どおり、実物を見ると割とロボだった。キメラゴドン、名前は怪獣みたいなのに。
上半身も下半身も前後に長い。腰から生えた四本の脚は蜘蛛のように細く、とても巨大なボディを支えられるようには見えない。
機械めいた胴体と巨大な頭部。バランスの悪い組み合わせが、不思議とサマになっている。
ゲーム的に解釈すると、体に登って戦うためのフィールドだな、あれ。割と平らだし。
見た目をざっくり解説すると、不格好な騎士といったところだろうか。武器は持たず、腕も細い。金属の装甲も所々なくて、生身が見え隠れしている。中途半端な状態ってことだろうか。ジェネレーター破壊が効いたかな?
監視所から出発したプレイヤーの中に混じって走りながら、俺はキメラゴドンを観察してそんな印象を覚えた。
キメラゴドン討伐に出たプレイヤーは総勢二十人。いよいよ足元が見えた所で一時停止する。全員が武器を構えたところで、名無しのボブが口を開いた。
「近づけば取り巻きが出現する。俺達はワイヤーセットに集中したいから、そちらを頼む」
冷静に考えるとシーフなどの回避重視の人にワイヤーを渡すべきなんだけど、今回は準備した彼らに花をもたせることになった。なんか、そんな空気だし。
「では、バフをかけ次第突撃といこう」
「わかりました~」
瑠璃を始め支援職がバフをかけはじめる。キメラゴドンは俺達の存在に気づくことなく、悠然と移動する。頭部にある一つ目が見据える視線の先にあるのはモリス・ルクス。一直線だ。しかし、意外と早いな。
「作戦開始!」
あとどれくらいで到達かな、とか考えている間に準備が整ったらしく、突撃が始まった。先頭にならないよう、真ん中当たりになるように調節しながら走る。コサヤさんは当然ながら先頭だ。あ、一瞬こっち見た。手伝えってことか。嫌ですよ、怖いもん。
移動中、カモグンさん達とも確認した。今回の戦闘では情報収集を重視する。ワイヤー作戦は悪くないけど、多分止めきれないだろう。だから、少しでも多くキメラゴドンを観察し、弱点を見つける。
弱点、あるはずだ。あれだけデカいんだから、ゴシックPなら用意しているはず。
そんな俺達の思考とは裏腹に、キメラゴドンの周囲に到着。近くに来るとでかい。全高30mは伊達じゃない。ピタッとフックで登れるかな……。
「ワイヤーセット! 岩か巨木だ! なければ最悪奴の足同士を繋ぐぞ! 攻撃する足は一本だ!」
アイテムの制約らしく、ボブの仲間たちが両手にぶっといワイヤーを担いだ。あれをやってる間、攻撃できないわけか。
「トミオ、ダイナミック・バインドは温存しろ。一時間に一回だからな」
「了解……」
横に来たカモグンさんから指示が来た。確実に十秒はキメラゴドンを止められるダイナミック・バインドは切り札だ。今は使い時じゃない。
「取り巻きがでたぞー!」
近づいたプレイヤーに反応したのか、キメラゴドンがボディからモンスターをばら撒いた。見覚えがある。工房内で見たゴーレムタイプだ。一部色違いだけど、それほど変わらないだろう。しかし、数が多いな。どんどん増えてる……。
「近づいてわかったけど、結構な速度で歩いてるから、追いかけながらになるな!」
「これ、地味に大変ですよ!」
フィーカが石拾いしながら言う。サイズ差があるので一歩がでかい。とにかく止めるか遅くしないと、集中攻撃も難しそうだな。
「オリフさん、わたしの側にいてくださいね~」
「はいはい。範囲で取り巻きを散らすかね」
瑠璃さんを盾に範囲魔法を連打する構えのオリフさん。雑魚散らし頑張ってもらおう。
「いくぞ!」
名無しのボブパーティーを守る陣形で、突撃が始まった。
取り巻きもモンスターもすぐにこちらに気づいて殺到してくる。コサヤさんも含めた戦闘勢がぶつかり、同時に後衛から魔法や射撃が飛ぶ。
俺も加わってカモグンさんと一緒に前衛からすり抜けた奴らを処理にかかる。少し、数が多い。あと、キメラゴドンの脚が早い。前足にワイヤーをかけるのは厳しそうだ。
「うおおおお!」
ボブの叫び声が聞こえた。見れば、後ろの右足に突撃している。護衛の数が少ない。割と手薄だったが、すぐ取り巻きが殺到する。
「マジックブラスト、エアリアルバースト」
オリフさんがユニークスキルと組み合わせて範囲攻撃を敢行。エアリアルバーストは風属性のダメージだけでなく、わずかながら吹き飛ばし効果もある有用魔法だ。
一瞬、取り巻きたちがボブから離れ、その隙を逃さずコサヤさん含む数名が到着。一気に蹴散らしにかかった。
「カモグンさんは瑠璃さん達とお願いします」
「了解した」
俺も前に出よう。試したいこともある。
ボブとその仲間は脚の近くで苦戦していた。ワイヤーをかけようとすると敵が来る。それを避けているうちに脚が動いてしまうのだ。
「ぬおおお! あとちょっとぉー!」
キメラゴドンの移動が早くて、ギリギリ追いつけない。巨大ってのはそれだけで厄介だな。
「ボブさん! ヘイト集めるスキルないか! そしたら他の人をこっちに引っ張るぞ!」
戦場の間をすり抜け、ちゃっかり脚に取り付くことに成功した。遠くから見ると細いけど、十分登れるサイズだな。名無しのボブは一瞬こちらを見てから、叫ぶ。
「アトラック・フラッシュ!」
なんかボブの全身が光った。盾系だからヘイト系のスキルがあると思ってたんだけど、ユニークスキルかよ。助かる!
凄い勢いで取り巻きがボブに集まっていく。上から落ちてくる追加分までいる。あれ、死なないか?
しかし、おかげでパーティーメンバーがフリーになった。覚悟の上の行動ってことか。凄いぜボブ。NPCに騙されてるけど!
「ピタッとフック!」
「へ? うわぁっ!」
とりあえず、ワイヤー持って走ってきたレンジャーっぽい人を引き寄せた。
「び、びっくりしたぁ」
「失礼。急いでワイヤーを」
説明する間もなかったけど、短いやり取りで意思疎通には成功した。青髪が似合うレンジャーさんはワイヤーを脚に引っ掛ける。
光るエフェクトと共にワイヤーが固定。近くの巨岩と右後ろ足ががっちり繋がった。どうだ?
「止まった! あ、でも一個じゃダメそう!」
一瞬止まったけど、なんかゲージが出て、みるみる減っていく。
「ピタッとフック!」
ならば、数を増やすまで。次々とボブパーティーメンバーを釣り上げてフックを設置。
三人目がフックをかけると、完全に停止した。ゲージの減少も遅い。いい感じだ。
「と、止まった?」
「足にダメージエフェクトが出ている! みんな、攻撃してくれ!」
ボブは冷静にヘイト係に集中している。結構な数にたかられてるのに全然無事だ。高レベルタンクだったのか。
感心していたら、コサヤさんがこちらに来た。銀髪剣士は俺に何か言う前に、淡々とした動作でワイヤーを設置を完了する。
「……ボブから貰った」
「いつの間に」
それから攻撃ターンの始まりだ。
数名のアタッカーが足に攻撃して、周りが防御の流れがすぐに完成。
ここぞとばかりに脚目掛けてスキルが炸裂していく。俺も微力ながら鎖鎌二刀流にして参加した。火力低いけど。
数分後、変化があった。
爆発と共に、キメラゴドンの右後ろ足が崩壊した。これはもう生物じゃなくてロボですわ。
「やったか!」
そのセリフを言ったのはボブだった。そしてフラグだった。
動けなくなるかと思ったキメラゴドンだが、突如かがんだ。脚を丁寧に折り曲げて、まるで力を溜めているかのように力強い音を響かせる。
「まさか、飛ぶのか?」
全員の疑問をボブが言った直後、キメラゴドンは飛んだ。
それも、ジャンプではなく足の付根からロケット噴射をして。あれ、飛行形態のポーズだったんか。
「嘘でしょ!?」
全員が叫びを上げる。空の彼方にジャンプしたキメラゴドンに。
「ふ、ふざけたギミック積みやがって……」
脚壊したら止まるどころか距離稼ぎやがった。
「急いで追いかけないと! 誰か、全体チャットで状況説明を!」
「お、俺がやっておく!」
取り巻きの抱え過ぎか、ジャンプの準備で押しつぶされたのか、いつの間にか死んでいたボブが言った。
とりあえず、彼をその場に残して、俺達はキメラゴドンを追いかけて駆けるのだった。




