第45話:決戦! キメラゴドン! 1
なーにが「頑張ってください」だ。ゴシックPめ。挑発的な文面でこちらを煽りやがって。
モリス・ルクスの城壁から晴れ渡った北の空を眺めながら、俺はゴシックPへの怒りを燃やしていた。
「それで、工房ダンジョンが最終形態になると同時に、巨大キメラが現れたんだな」
「は、はいぃ。スクショどころか動画を送って貰って確認しましたから、間違いないですぅ……」
城壁の上には兵士が巡回するためにかなり広めのスペースがある。軽自動車くらいなら走り回れそうだ。
外側の壁にもたれかかるようにして、俺の質問に応えたフィーカだが、とても疲れている。
「こっちで良かったのか? イザベル・オリジナル討伐でもいいと思ったんだけど」
「ふ、あたしは面白そうな方につくんですよ。今回はこちらです。そう、トミオさん、君に決めた!」
「え、やだな……」
「なんで! いつもあんなに仲良くしてるのに!」
元気よく立ち上がって指さして来たが、あんまり嬉しくない。動画にされるし。
「なんか、俺がフィーカ担当みたいだし。噂になったらやだし……」
「ただの事実ですよ! ほら、コサヤ様もカモグンさんも言ってやってください!」
「残念ながら事実だ。諦めて受け入れろ」
「……三下担当はトミオ。相性もいい」
「二人して……」
長い付き合いの仲間二人の裏切りに軽く絶望したよ。もしかして、最初に俺が出会ったのが悪かったのか? やり直せないかな? 無理か。
「それはそれとして、体調は大丈夫なのか?」
「ふふふ、大変でしたよ……。トミオさんからの連絡を受けて、即座に工房地下のジェネレーターまでの動画撮影。その後ログアウトして動画編集。……途中でトミオさんからの追加事項への対応……」
「本当にすまん。この礼は必ずするから」
今回はフィーカにかなり無理をさせてしまった。ジェネレーターまでの隠しクエストの撮影だけでなく、俺が予想するゴシックPが今後仕込みそうな事柄への対応も動画に組み込んでもらったのだ。最初は元気が良かったけど、どんどん笑顔がひきつっていったもんな。
「いえ、キメラゴドンの移動でファストトラベルが潰されるかもという話は当たりましたし、再生数も鰻登りなのでOKです。それになんかですね、途中から楽しくなってきまして。こう、トミオさんが無茶を言う度に脳内で良くない物質が出てくるようにですね……」
「イベントが終わったらゆっくりしてくれ……」
なんだか、よくないモノに目覚めそうになっている。責任を持ちたくないので、ちゃんとケアをした方がいいかもしれん。温泉の割引券でも送ろうか。
「話は終わったみたいだな。じゃ、今後の動きを相談するぞ。まず、まだキメラゴドンはこちらに来ていない」
ずっと黙っていたカモグンさんの言葉に反応して、全員が北の空を見る。
低い山々と森以外、何も見えない。キメラゴドンは進行中だが、まだ遠くにいるようだ。
しかし、準備はできている。どこかのプレイヤーがクエストを発見したのか、城壁の向こう側に対策としていくつかの工事が施されている。空堀だったり、先の尖った丸太を埋め込んだりといった簡素なものだが、効果はあるはずだ。この辺は頑張って備蓄ゲージを上げた効果らしい。
「瑠璃さん達は現地にいるようですね! これから有志一同で一戦構えるつもりのようです」
ここにいない瑠璃さんとオリフさんだが、北上してキメラゴドンを観察していたら、そのまま討伐パーティーを編成しているプレイヤー達と遭遇したそうだ。
ルクス山地の各所にはプレイヤーとNPCが協力して作った見張所が作られていて、安全な拠点として利用できるようになっている。復活指定やファストトラベルはないけれど、モンスターとのエンカウントがない場所は貴重だ。作った人は偉い。
「……三下娘はここでいいの?」
コサヤさんの問いかけに、フィーカは胸を張り、何故か俺の方を見る。
「もちろんです! 絵的にもキメラゴドンの方がド派手になりそうですからね! 何より、ゴシックPのイベントではトミオさんについて回るのが一番面白そうですから!」
「俺かい。あんまり期待されても困るぞ」
「でも、悪くないと思うぞ。ダンジョン内でイザベル・オリジナルを追うよりも、実質レイドバトルなこっちの方が見どころは多くなるだろう」
「オリジナルは廃プレイヤーが無難に倒しそうですからね」
「……錬金工房マキシマムハウスの中は見たかった」
何度聞いても酷い名前のダンジョンだ。きっと変な罠や仕掛けが満載に違いない。実際、向こうはシンプルなダンジョン・アタックになるだろう。カモグンさんの言う通りレイドバトルの方が絵的には映えるだろう。
「ファストトラベルが使えなくなってるから、そう何度も接敵できんだろうな。恐らく、最後は城壁で決戦になる」
「はい! 王城で決戦魔力砲『どすこい』のチャージ中だそうです! これ当てれば勝てるやつですか!」
「何だその名前……」
「……素敵」
マジかよ。コサヤさんの好みはたまにわからん。
どう思う? とばかりにカモグンさんが俺を見てきた。一応、思う所はある。
「効果はあるでしょうけれど、それ一発で終わるとは思えませんね。まず、撃たせない当てさせない等イベントを設けて、当たったら大ダメージで真のボスでも出るんじゃないですか?」
「お、思ったより具体的な予想が出てきましたね……」
過去の経験が生きてるんだ。ゲヘナ・オンラインで何度かあった。
「トミオの予想を参考にしつつ、僕達にできることは一つだな。『どすこい』発射までに出来るだけ弱らせておくことだ。真ボスがいるにしても可能な限り楽をしたい」
「……途中で邪魔しそうなのに気づいたら潰す」
早速、コサヤさんが日本刀を出して振り始めた。やる気十分だ。頼もしい。
「すると、まずは瑠璃さん達との合流ですね? 移動は?」
「モグラ村の人達が作ってくれてた避難路が使える。モンスターとエンカウントしないし、馬車もあるから多少は早い」
あのイベント、俺以外もやってくれた人がいるらしく、モグラ村民たちは物凄く働いてくれた。今ではモリス・ルクスからかなり北上できる地下道が整備され、馬車まで走っている。この短期間でそんなのできるわけないというツッコミは野暮だろう。ゲーム的な演出ということで便利に使わせてもらうべきだ。
「よし。全員、復活ポイントがモリス・ルクスになってることを確認。アイテム持ってオリフさん達と合流するぞ」
カモグンさんがそう言うと、俺達は速やかに現地に向かうべく準備を整えにかかった。
しかし、巨大モンスター相手にマトモに攻撃が通るのかね。不安だ。




